本当のこと


大澤:わたしはウケるウケないはあまり考えないようにしていて、自分が素直におもしろいと思えるものを書きたいっていうだけなんですけれども、comicoはわりと大変そうですよね。ものすごい量の読者のレスポンスが即座にきちゃうじゃないですか?


藤の:わたしはウケるウケないはめちゃくちゃ考える。でも、その基準はまず自分がウケるかウケないかだから、そういう意味では同じかな? レスポンスが即座にくるぶん、「読者の反応を想定して作る」という訓練ができているかもなあと思いますね。


大澤:石を投げてからのフィードバックが早いからPDCAサイクルは回しやすいですよね。わたしはほとんど文庫書き下ろしのみなので、レスポンスがくるときにはもう書き終わってしまっていますから、反応を見ながらどうこうみたいなことはできないし、次に活かすにしても、サイクルはとてもゆったりとしたものになります。


藤の:comicoは読んだ後にみんなで話せるサロンがあって、そこで一言思った事を言っていく、みたいな気軽さはあるみたい。


大澤:ニコ静とかもすごいですよね……なんかこう、若さにアテられてしまう。


藤の:ニコ静は動画と同じように人が集まれば集まるほど面白くなるタイプの場所ですね~。1コマでインパクトあるツッコミどころがあるような作品は盛り上がる「部屋にマッチョの霊がいます」はけっこう適していたのでは?


大澤:あれも、できあがったものをニコ静に移設していただけなので、反応を見ながらどうこうというものではないですね。もちろん、レスポンスがあるのはとても嬉しいんですけれど、見ても「ありがと~!」以上のことはない。


藤の:たしかに。


大澤:やっぱり、連載中にダイレクトにコメントがじゃかじゃかくるっていうのは独特の環境ですよね。完全に読者を甘やかして「どうです? おいしいでしょう? 甘いでしょう?」ってやっていてもいいものはできないし、かといって、やっぱりレスポンスはレスポンスで受け止めかたによっては価値のあるものだから、完全に無視していればいいってものでもなくて、上手なつきあい方ができるといいですよね。


藤の:こんなに毎週コメント頂けるのは今しかないかもしれないから、貴重な機会にバリバリっと勉強していきます……。


大澤:ほんと、ツイッター上で観測できるだけでもものすごい数の読者がいて羨ましいです。わたしも人気出たい。


藤の:ありがたいにつきますね……。それもこれもユーザー数の多い媒体に居させてもらってるというのもあるかもしれませんが、無料で全部読めるし。紙の雑誌の連載だったらたとえ有名な雑誌だとしてもこうはいかないと思います。


大澤:わたしはなにしろ売れていないので、そんなことじゃ人気でないよ~、こうしたほうが売れるよ~みたいなアドバイスは無限にくるんですけれども、そもそもできないことを言われてもこまっちゃうし、曲げられないところは曲げられないし。


藤の:こうしたら売れるよ系アドバイス謎すぎる……。


大澤:ありがたいんですけれどね。わたしはカテゴリーてきには男性向けライトノベルに属しているので、もう「男主人公の異世界ファンタジー」を書けという圧力がすごくて。まあ書けと言われれば、たいがいはなんでも書くんですけれど。でも、得意じゃない設定や好みではないお話も「お仕事だから」って割り切って書けたとしても、本当のところで嘘をつくわけにはいかないじゃないですか。別にどんな話でもいいんですけれど、最終的には、なにか本当のことを書かないといけない。嘘で本当のことを書くんです。本当のことは本当のことなので、そこで嘘をつくわけにはいかない。


藤の:わたしなんかは気軽に、大澤さんなら「本当のこと」に、うまく「男主人公の異世界ファンタジー」のガワをかぶせられそうだな~って思っちゃったりします。


大澤:やりたいですね、そういうの。わりと割り切っているので、お話のガワはなんでもいいんですよ。でも、男性向けラノベって、こんなこと言うとまたお説教おじさん化なんですけれども、ものすごい無自覚のミソジニーにあふれていて「はいそこ! それミソジニーですよ!! はいダメ!! 自分の着るものぐらい自分で用意なさい!!!!」みたいになっちゃって。「お前のその無自覚な傲慢を俺が打ち砕いてやる~~!!」みたいなね。だから、そういう要素を指して「大澤さんも、ああいうの書けば売れるよ」みたいなことを言われると「バーーーーーカ!!!!!」ってなる。


藤の:うんうん。もうありがちな男性向けラノベのガワをかぶって、なにかしらが寄ってきたところをどんどん殴っていってほしい。それは創作ができることのひとつだと思う。


大澤:売れないですけどね。でも、これが商業なんだよ……っていう諦めもなんか違うし、かといって売れなくていいっていうわけでもないし、なにしろ、売れないことには次の本を出させてもらえないので。


藤の:これだから売れない、ってことないと思いたいなあ……。


大澤:芯のところを曲げずに、かつウケるような、売れるようなものを書くっていうのはできると思います。やりたいですね。でも、じゃあどうするのが正解なのかっていうのはぜんぜん分からなくて、最終的には自分がもう本当にキャラクターと一緒になって悩み抜いて、これだ! って思える道を選ぶしかないのかなって最近は思っています。


藤の:自分が「本当のこと」を描いた時は「全人類に届け~~~~!」って思うけど、実際それが届くか、売れるかというのは、また違う力学がありますよね。単に売れ線だから届くということでもないし、なにかやっぱり運みたいなものを感じる……。


大澤:運は運なので、何回もやればいいんですよ。当たるまで。やっていきましょう。


藤の:「本当のこと」を描き続けないといけないよなって思います。やっていくぞー!



    2018/8/15 文責:大澤めぐみ

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