たぶん素直に保坂和志さんの本を読んだほうがためになる


ロッキン:でも結局書くのはお前自身しかいないのだから、何はどうあれ書いて、書き続けて、方法や感覚を身につけるしかないのでしょうね。


大澤:うーん、でもロッキンはマグレ感は強いんだけれど、マグレの打率がすごい高いっぽくて、10回やって8回マグレを起こせるなら、それはやっぱただのマグレじゃなくて、自分でも言語化して把握できていないなんらかの方法論があるんだとは思うんだよね。


ロッキン:多分僕は根がクソ真面目なので、逸脱して収拾のつかない物語を書きたい自分と常識的な展開をさせようとする自分が綱引きをしてうまいことアレ(?)してるのかなと。どっちに傾いても共感を得られないか、何も起きないつまらない話になる、みたいな。


大澤:あ、そうそれ。わたしがロッキンの作品のなにが好きって、そのギリギリのところを走り抜けるバランス感覚なんだよね。「おいおいこれ本当にどうにかなるのか?なるのか?いや無理やろ。着地した〜〜!!」みたいなの、もうすごい好きで。書籍版「限界集落オブ・ザ・デッド」はかなりきちんと小説しているから、そこのハラハラ感みたいな楽しみはすこし成りを潜めてしまってるのが少し残念なんだけど、でも商業じゃ厳しいよね。


ロッキン:書籍版との速度感の違いは強く自覚してて、尚且つコントロール出来なかった部分でもありますね。webだからこそ許されて楽しめる面白さもあるのだなと知りました。10万字を書く体力と短距離走りきる速度、この両者を近づけていければ、もっと面白くなるはず。


大澤:やっぱりそこは原理的にトレードオフな関係なところもあって、小説としての完成度、強度では間違いなく書籍版のほうが上なんだけど、シンプルで力強い掴みみたいなのはスポイルされるよね。言い換えるとバズちからのようなもの。シンプルに「限界集落の強いジジババがゾンビと戦うぜ!」みたいなほうがバズちからはあると思うんだけど、でもやっぱバズは所詮バズだから、あまりバズだけを意識してもブレるし、気にしなくていいってことはないけれど、いいところで両立したいよね。


ロッキン:web小説からのデビューが一般化しつつある今、バズちからは今後も重視され続けるんだろうなぁ。バズと強度の両立、難しいけれどかなり重要なポイントな気がします。


大澤:結局のところ、webでちょろっとウケて連絡がきて書籍化します! みたいな話になってもさ、わりとそこまでなんだよね。書籍化する頃にはwebの盛り上がりなんか去ってるし、なんか本を出したところで力尽きちゃってて「本でたね~(ほっこり)」みたいなね?(?)


ロッキン:書籍化へのハードルが下がっているってことは、小説の完成度という点でプロアマの垣根も無くなりつつあるってことなのかなと。何らかのきっかけで本が出せたとしても、特別に秀でているという証明ではない。僕なんて本当に巡り合わせやタイミングが良かっただけだと思います。


大澤:本当に優れているのに機会にだけ恵まれてなかった人なら、デビューさえすればドーン! といくんだろうけれど、少なくともわたしはそうではなかったわけで、あとは泥臭く生き残っていく方法を模索するしかないみたいな。


ロッキン:書籍化や小説家としてのデビューは、ゴールどころか土俵に立ってるかもまだ怪しくて、延々と小説というものに向き合い続けるしかない。当然本が出せる事は超超嬉しかったのはいうまでもないんですけど。


大澤:土俵に立ったと思ったら一ヶ月もせずに降りることになるからね。本屋さんの棚からどけられちゃうと、一気にネット上で観測できるレスポンスもゼロになるもの。またゼロから登るしかないの。


ロッキン:最近読んだ本に保坂和志さんの「書きあぐねている人のための小説入門」というのがあるんですけど、その中で作家は自身の成長を楽しめないと長続きしないという旨が書かれてるんですね。結果を追い求めてもキリがないから、自分がより上手く、良いものを書けたという事を楽しめるようにならないといけない。


大澤:あーそれ。すごいいいことを言う。わたしたちもそういうことを言えないといけないね。

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