ヴィラ二条は不思議の国

 パレス六条のご案内はすでにいたしましたが、実は光る君にはもうひとつお屋敷がございます。

 以前ご本宅としていらした二条院を改装したのでございます。ヴィラ二条と申します。


 このヴィラ二条にも光る君と方がたが何人かお住まいでございます。


 まずは末子さまでございます。『死ぬほどキミに恋してる』でお話したスリーピングビューティー、「からころも」のお姫さまでございます。

 まさに寝た子を起こしたような恋でございました。都でウワサの美女と評判の末子さまを得意の速攻で゛強行突破゛し、゛既成事実゛を作ってみればまあ、ウワサはウワサでしかなかったのでございます。それでも光る君は末子さまをお見捨てすることはなく、容姿ですっとんきょうなご性格の末子さまと絹糸のようなほっそいお付き合いを続けられました。明石からご帰還後はヴィラ二条に引き取り不自由なくお暮らしでございます。


 ~ からころも 来てくれないなら からころも あなた恨んで からからころも ~


 すでに歌としてどころか日本語としても成立しないような末子さまの五七五七七お歌でございます。


「わらわは光る君のツマなの。オットのお衣装を整えるのはツマのお役目」


 古びた布地を裂いて細い紐状にした糸でせっせと編み物をなさいます。百人が見て百人が足ふきマットと認識するそのお品物を末子さまは夫君の、つまりは光る君のお衣装だとおっしゃいます。

 毎シーズン流行の最先端を行くコレクションの衣装に身を包んでいる光る君でございます。とてもではございませんがお似合いになるとは思えません。ですが光る君は

「末ちゃんらしいよ。これはこれで面白いね」

 とクツクツ笑いながらクローゼットに仕舞われます。


「そうじゃ、光る君、教えて欲しいことが」

「ん? 何?」

「ぽんずが"かべどん"してもらいなさいというのじゃが、それはなんぞ?」

「かっ、壁の点検のことかな?」

「そうなのか? ならば光る君でなく源ちゃんズでよいのでは?」

「ホントだよね、あっ、かっ管二に頼んでおくよ」


 まあ、なんにせよ、ほそーくながーく末子さまとのお付き合いは続いているのでございます。


 ちなみに末子さまのSKJのぽんずは源ちゃんズメンバーの管二の奥さまです。そのほそ――いお付き合いがもう少し太くなるようにオットの管二にプレッシャーをかけるのが常なのでございます。


「あなたがもう少し殿に働きかけてくれればいいんでしょっ?」

「そんなこと言ったって……」

「そろそろ末子さまのところに伺おうってあなたが言えばいいんでしょっ?」

「だって殿にだってイロイロと……」

「そこに割り込めばいいんでしょっ!」

「だって」

「だってもへってもナシ! 結果を出しなさい。結果を」

 光る君が末子さまとからころもデートのあいだ、ぽんずの管二へのからみお説教がこんこんと続きます。

 管二といえば源ちゃんズの中ではキレるキャラで通っておりますのに、ヨメにはからきし弱いのでございます。けれども見た目は切れ長の瞳の純和風イケメンなんですのよ。


 もうおひとりは空子さまとおっしゃいます。こちらは初めてお話するお方でございますわね。

 こちらはもうなんというか、例の光る君の発作(?)が引き起こした恋でございました。たった一回同じところでお食事をしていた夜に仲良くなってお持ち帰りしてしまったのでございます。けれども空子さまはヒトヅマでございました。それきりおふたりの仲は進展することはございませんでしたが、時がたち、空子さまの夫君が亡くなられて空子さまは出家して尼になられました。光る君はたった一晩のアバンチュールを忘れてはおらず、身寄りのない空子さまをヴィラ二条に引き取られたのでございます。


「せっかく来てくださったけれど、3時のお茶に行かないといけないの」

 空子さまはお出かけになられるようでございます。

「そうなの? どこに?」

 この時代あまり女性はおでかけしませんので光る君は不思議がります。

「大きな木の下のほこらが入り口なの。うさぎさんと一緒に行くの」

 空子さまは時計を気にしていらっしゃいます。

「はぁぁぁぁ?」

 訳のわからない光る君はひとり取り残されております。


「管一」

 お部屋の外で控えていたのは管一でございます。

「なんかさぁ、女の子って不思議だよね」

 またお話相手をご所望のようでございますね。

「そうっすよね」


 光る君は空子さまが出かけられたお庭の方向をご覧になっていらっしゃいます。

 特段変わった様子もなく綺麗に手入れされた庭園でございます。そろそろ百日紅さるすべり撫子なでしこなどの夏の花が咲く季節でしょうか。

 ゛木の下のお茶会゛もともとつかみどころのないカノジョでしたが、最近の空子さまの不思議っぷりには振り回されっぱなしの光る君でございます。


「みんな個性的で可愛いんだよね」

「そうっすよね」

 管一にはこの相槌しか打てないのでしょうか。


 部屋の片隅にあるお茶を点てるスペースに光る君が移動されます。夏用のお茶道具の風炉ふろからゆるく湯気がたっております。


「お茶でも飲まない?」

 光る君が御自らお抹茶を点てられるようですわね。

「もちろんっすよ。よろこんで!」

 ボキャブラリーの乏しい管一ですが、殿への忠義心はたっぷりでございます。


「オトコふたりのお茶会もたまにはいいもんだな」

「そうっすよね」

 管一の明るい髪色が夏の陽ざしに映えます。


「お菓子も食べる?」

「もちろんっすよ」

 テンポよく調子よく。管一の人柄キャラは周りを明るくします。


 本日もヴィラ二条平安なり、でございます。



 ♬BGM

 となりのトトロ


 ✨『パレス六条』登場人物紹介

 末子さま とんちんかんからころものスリーピングビューティー

 空子さま 不思議の国の不思議アリスちゃん

 管二   源ちゃんズメンバーでキレキャラだが嫁には弱い ちなみに嫁はふたり

 ぽんず  末子さまのSKJで管二のヨメ


 ✨『げんこいっ!』トピックス

 ちなみに末子さまのSKJはさとう、みりん、ぽんずの3人

 空子さまのSKJはすずめ、つばめ、ひばり


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