キミに出逢うためにここに来たんだ    withアリエル

 皆さま、ごきげんよう。今ね、このイケメンラブストーリーのキャッチコピーを書いておりましたの。めずらしくおやつもいただかずに。皆さまにご興味を持っていただけるようなキャッチ―なフレーズをPCの前で思案中ですの。

 やはりここはラブストーリーらしく「涙なしには語れない。感動のLove Story!」がよろしいかしら? もしくはよくある「全米が泣いた!」でしょうか? 泣く要素がない? それもそうですわね。では「衝撃のラスト!」ミステリーでもありませんからこれもヘンですわね。

 ふぅぅぅ。さて、お話も進めないといけませんわね。


 政敵ウダイジンの娘の月子さまとの密会がバレてしまい、光る君は都を離れるご決心をなさいます。単に月子さまに恋い焦がれお付き合いをしていたロミジュリごっこを楽しんでいただけで、月子さまの夫である春宮さま(光る君のお兄様)を貶めようとか、政権を乗っ取ろうなどの思惑がまったくない光る君は職務を離れ、お付き合いのある恋人や奥さまと別れて海辺で謹慎生活を送られるようでございます。


 そんな海辺を散策されている折りに美しい女性と出会います。

 この方が明子さまでございます。都での華やかな舞踏会などに憧れてはいるものの、ご自分はこの海辺で暮らす田舎者なので光る君とは釣り合わないわとおっしゃいます。


「身分なんてカンケ―ないよ。キミはこんなに綺麗なんだ」

「私にはあなたがまぶしすぎるわ」

「俺の恋人になってくれ」


 明子さまは身分違いの恋にとまどいがちでいらっしゃいましたが、それこそ光り輝く君のご熱心な愛の言葉にやはりお心を動かされたようでございます。


 本当はね、覗いてみたい気持ちもあるの、みやこの世界。

 どんなに素敵な世界なのかしらって。

 でもね、ここから離れる勇気が持てないの。

 明子さまの心の声のようでございますね。


「そんなことおっしゃるけれど、田舎でワタシしかいないからじゃない」

「どうせ京の女性都会のオンナと比べたら私なんて大したことないんでしょっ」

「しょせんワタシなんてリゾラバなんでしょっ!」


 白百合のように美しく賢くそして魅力的な女性でございます。若干ヒステリーぎみのご性格ではありますが、光る君が夢中にならないわけがございません。


 海辺でのおふたりの恋物語、でございます。

 打ち寄せる波、煌めく陽光、どこまでも碧く輝く海。京にはない環境シチュエーションに当然光る君の恋のボルテージは盛り上がります。


 光る君私設管弦楽団源ちゃんズがボサノバを奏でます。

 光る君私設管弦楽団源ちゃんズがパラソルをおふたりに掲げます。

 光る君私設管弦楽団源ちゃんズが先回りして浜辺ビーチにデッキチェアを設置します。

 それからトロピカルドリンクを作って、それにフルーツの盛り合わせの準備? もするのでしょうか。源ちゃんズ、大忙しでございます。7人編成のご家来衆ですけれど、見事なフォーメーション役割分担で全員が浜辺あたりを駆けずり回っております。


 そんな充実したリゾートライフ名目上は謹慎生活ですが、まもなく光る君に都に戻るよう、宮中からお使いが参ります。


「やっぱり帰っちゃうんじゃない……」

「俺が必ず迎えに来るから」

「罰を受けて須磨コッチに来たけれど、違ったよ。キミに出逢うために明石ココに来たんだ」

「俺たちは出逢うべき運命だったんだよ」


 だから放っておいてと言ったのに、と唇をかむ明子さまを優しく後ろからぎゅうっと抱きしめられる光る君。

 明子さまの耳元でこう囁かれます。


〜 帰っても 絶対キミを 忘れない 

 一緒に暮らそ みやこで待ってる 〜


 明子さまは緩やかに光る君からお離れになり筆をおとりになられます。


~ カンタンに あなたはシレっと 言うけれど

 ワタシ人魚よ田舎娘よ 足がないのよ京に行けない ~


 お手元にある紙にさらさらと書きつけになられます。


~ 足なんて なくてもいいよ 構わない

  俺が抱き上げ 連れて行くから ~


 光る君は明子さまの歌のお隣にこう書かれます。口角をあげて自信ありげですわね。


~ 調子いい こと言うけれど あなたには 

  抱き上げる方 たくさんいるでしょ ~


 明子さまは恐ろしいほど静かな迫力を筆に込められます。

 書き終えるとはいどうぞ、と光る君にお筆を向けられます。


~ そりゃないぜ そうかもしれない そうだけど 

  だけどまあその それはアレだよ ~ 


 光る君のお手蹟(筆跡)がしどろもどろでございます。

 不思議な光景でございます。お互いが目の前にいらっしゃるのになぜか筆談が続くようでございます。


~ なによそれ 自覚ないわけ? こんなにも

  多くの女子を 泣かせておいて ~


~ 確かにね くらっときちゃう 貴方には

  くやしいけれど ときめいちゃったわ ~


~ だからって 誰でもかれでも 声かけて 

  大勢愛すの 女子コッチはツライの ~


 明子さまの筆は止まりません。もう光る君に筆をお持たせになるおつもりはないようでございます。


 

 謹慎に来たんでしょうが。そんなご指摘もございますわね。確かに京には光る君をお慕いしている大勢の方がお待ちでいらっしゃいます。

 中でも紫子さまは光る君とのご自宅スイートホームの留守を健気に守っていらっしゃいます。衣替えのお衣装や寝具などを明石まで送ってくださっているのも紫子さまでございます。あなたに逢いたいわ、お帰りをお待ちしているわ、そんな恋文ラブレターがいつも添えられております。


(紫子さえここにいれば恋には落ちなかった)


 などとも光る君は思っていらっしゃるよう。

 

 ……。

 まあ、こんなに長いあいだ、光る君がトキメク恋なしで生きていらっしゃるとは思いませんでしたけれどね。

 やれやれ、明石焼きでもお作りします? お出汁が絶品ですわよ。火傷なさらないでね。


 今日も今日とて明子さまの元へとお出かけになられます。

 まるで京とは別世界のようなロケーション。

 吹き渡るシーブリーズ。

 BGMは絶えることのないさざ波。

 月が海に影を落とすムーンロード月への階段が見られることもございます。


「京へなんか帰れないように明石ココに縛り付けてやりたいわ」

「キミにそんなこと言われるなんてオトコ冥利につきるね」


 どうして好きになっちゃったのかしら。最初からあなたはいつかはいなくなる人ってわかっていたのに。

 明子さまは戸惑っていらっしゃいます。

 それもこれもあなたが強引に口説いてきたからじゃない!

 愛するオクサマだっていらっしゃるくせに!


 今夜は光る君私設管弦楽団源ちゃんズの演奏はございません。源ちゃんズは別件で立て込んでいるようでございます。


「今日さ、ちょっとしたサプライズがあるんだよ、弦一郎たちにセッティングさせたんだ。……ってなんか怒ってる? どうした? またその顔も魅力的、っておいっ!」


 今日は明子さまの虫の居所が少々お悪いようでございますね。

 あららら、光る君からいただいた恋文ラブレターを破っていらっしゃいます。

 まき散らされる箔のついた薄様紙の片きれを月明かりが照らして、それはまるで波しぶきのように輝きます。かなり……高めの波でございますけれど。


 光る君は今夜は早めにお部屋を出られるようでございます。

 あ、お座布団の類はお投げにならないでくださいましね。


 どぅおおおおおん!


 豪快な音が夜の海から響いて参りました。

 海の上に扇状に広がる水上花火、ですわね。

 今日は光る君私設管弦楽団源ちゃんズが楽器を火薬に持ち替えましたのにね。骨折り損のくたびれ儲け、でございましたわね。ご苦労様でございます。

 窓辺で頬杖をついて、缶ビール片手にひとりきりでそれをご覧になる光る君。

 ため息とともにあのおことばコロシ文句、でございます。



 死ぬほど明子キミに恋してる






 ♬BGM

 イパネマの娘    Lisa Ono

 想い出の九十九里浜  Mi-ke

 リゾ・ラバ   爆風スランプ


✨『げんこいっ!』トピックス

女子をときめかせる胸キュンシチュエーション⑪うしぎゅう(後ろからハグ)⑫耳ツブ

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