ヴィレッジさまーは平安なり
こちらは御殿の北東の区域、ヴィレッジさまーでございます。光る君の癒しの里、花子さまのお屋敷になります。
そしてもうおひとりこちらのお屋敷にお住まいの方がいらっしゃいます。光る君のご子息の夕さまでございます。ご正室葵子さまのお産みになったお子さまでございます。
母上の葵子さまはといいますと、氷のようにお心を閉ざしておられましたが、光る君ともようやく打ち解けられ、夕さまをご出産なさりました。けれどもご出産祝いとして届けられたおりんごに毒物が仕込まれており、お亡くなりになられたのでございます。
夕さまは葵子さまのご両親がお育てになっていたのですが、元服(成人式)後は光る君のご自宅の二条院に引っ越されました。そして花子さまに母親代わりをお願いなさいました。
そんな花子さまと夕さまのお屋敷ですが、テーマは夏ということでございます。お庭には撫子や
小ぢんまりとした泉のほとりには
「素晴らしいお家だわ。わたしなんかにはもったいないわ」
「そんなことないよ。母さんの気に入りそうなカンジじゃん?」
お部屋に入っていらした花子さまと夕さまがあたりを見渡されます。
「そうね。お庭もインテリアも大好きよ」
「父さん、母さんのためにいろいろ手配してたみたいだよ?」
大切な方のためへの労力は惜しまない光る君でございます。
「夕くんのための馬場もおとうさまの思いやりね」
「そうだね。有難いね。庭の橘の木の香りがしてくるね」
「え? そう、そうね。橘の……」
(キミが俺の橘の木だよ。
花子さまはかつてそんな風に光る君から愛を囁かれたのでございます。そんなことを思い出されてか、うふふふふ、いやん、あら、いやだわ、とひとりで盛り上がっていらっしゃいます。
「母さん? どうしたの?」
夕さまには花子さまのご様子は若干不思議に見えるようでございますが、楽し気な花子さまを優しく見守っていらっしゃいます。
花子さまと光る君のお付き合いは随分長うございます。穏やかな凪いだ湖のような、常に日の当たる陽だまりのようなおふたりの関係性でございます。癒しの里の癒しの花子さまでございますわね。
「花ちゃん、夏の町はどう?」
光る君がいらっしゃいました。
「とっても素敵よ。わたしにはもったいないくらい」
「花ちゃんが好きなモノでまとめたんだよ」
「親子で同じようなこと言うのね」
お三人の楽しそうな笑い声が聞こえてまいります。
さらさらさらと流れる小川の音も涼やかでございます。あら、いつかの
お庭を眺められる位置に三人のお座りになる席が設けられます。お
ずんだ、あずき、きなこ。この三人が花子さまの
「いい香りだね。今日は何?」
光る君が
「お庭の橘の香りに合うように柑橘系でまとめましたの。柚子ですわ」
きなこがそう答えます。
「花子さまの調合でございますわ」
あずきが付け加えます。
「爽やかな香りだね。花ちゃんらしいよ」
そう光る君が言えば
「母さんの香りが漂ってくるとウチに帰ってきたんだなって思うんだ」
夕さまもお言葉を継がれます。
「夕くんはヒノキなんかの樹木系の香りも好きよね?」
嬉しそうにうなずき、夕さまは微笑まれます。
「光る君はやっぱり薔薇、かしら?」
「さすがは花ちゃん。よく相手のことを見てるね」
「本当の親子みたいね」
「花子さまと夕さまが血がつながっていないって時々忘れちゃうわ」
「夕さまも花子さまを大事にしてくださって嬉しいわね」
チームさまーの3人は花子さま方から少し離れたところに控えております。
「着替えよっかな。花ちゃんあれ出してくれる?」
花子さまはきなこに光る君の例のお着替えを用意させます。
「え、父さん帰らないの? 僕も着替えるよ。母さん僕の出して」
お次はあずきに夕さま用のお着替えの支度をさせます。おふたりはお隣のお部屋でお着替えをなさるようでございます。
「花ちゃんは俺の奥さんなの。花ちゃんを独占したいんだよ。お前も気を利かせろよ」
スウェットにお着替えになられる光る君が隣の夕さまの腕をつつかれます。
「なんでだよ。ここは僕と母さんの家なんだけど?」
お色違いのスウェット姿の夕さまがお父さまに言い返されます。
「久しぶりの三人でのお夕食ね。嬉しいわ」
パレス六条の
親子で小突き合いながら花子さまの元へと戻られます。その姿をご覧になりながら花子さまは目を細められます。
「おそろいのお衣装だとますますそっくりね」
そうなのでございます。夕さまはお父さまの光る君に生き写しなのでございます。
「僕がいるんだから父さんそんなに母さんにくっつくなよ」
当然のように光る君は花子さまのお隣の席にお座りになるのですが、セットされているお席をさらに花子さまにお近づけになられるのでございます。花子さまの前にお座りになる夕さまがため息交じりにおっしゃられます。
「見たくないなら夕がはずせばいいだろ」
これ見よがしに花子さまの肩を抱かれる光る君。それじゃ母さんが食べられないだろ、離れろってばと夕さま。
「本当に親子で仲がいいわね」
こんな父子のやりとりを見慣れている花子さまはにこにことご覧になっていらっしゃいます。
「杏の甘露煮、花ちゃんにあげるよ」
「菊花和え、母さん好きだよね」
「まあ、ふたりともどうもありがとう。でもこんなにいただいたら太っちゃうわ」
花子さまの御膳にはおかずがこんもりと盛られております。
光る君と夕さまのお言葉が見事にリンクいたします。
「「いいんだよ。そのままの花ちゃん(母さん)が好きなんだから」」
「あの花子さまの取り合いも不毛よねぇ」
「おふたりともよく飽きないわね」
「でも花子さまお幸せね」
「同じ顔したイケメンふたりに囲まれて」
「ほんとね――」
「ね、殿と夕さま、どっちがタイプ?」
きゃあきゃあきゃあ
あっち行けよ。
父さん帰れよ。
楽しいお夕食ね。
本日もパレス六条平安なり、でございます。
♬BGM
Be Our Guest 美女と野獣より
✨『パレス六条』登場人物紹介
葵子さま 恋を知らなかった氷のエルサ
花子さま 玉手箱の魔法使い、癒しの乙姫
夕さま イケメン2世、若干マザコン
ずんだ 花子さま付きSKJ アロマセラピスト
あずき 花子さま付きSKJ リフレクソロジスト
きなこ 花子さま付きSKJ エスティシャン
✨『げんこいっ!』トピックス
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