またもや密会? すきゃんだる?

「はぁぁぁぁ」

 らしからぬため息など漏らしていらっしゃるのは光る君でございます。

「あら、お疲れね?」

 こちらは月子さまでございます。


 そうでございます。例のロンバケ、リゾラバの明石行きの原因となった゛ロミジュリスキャンダル゛のお相手ジュリエット月子さまでございます。禁断の関係だったにもかかわらず月だ星だとおふたりでたっぷり盛り上がり゛キケンな恋゛を満喫なさいました。だからこそのスキャンダルであり、バッシングを受けて、光る君は謹慎なさったわけでございます。まあ、謹慎とは名ばかりで恋の伝道師はただでは転びませんでしたけれどね。

 かたやドラマティカル月子さまは光る君のお兄さまである春宮さまのお妃さまでございましたが、オットでいらっしゃる春宮さまは帝に即位なされました。今や帝の寵姫でございます。お住いはもちろん後宮、またの名を『キャッスルキングダム』と申します。


 京の街中でも都大路から一本入った袋小路。ひっそりとたたずむ隠れ家バーがございます。ウナギの寝床と言われる間口が狭く奥行きのある敷地を進んでいくと小ぢんまりとしたバーカウンターのある部屋がございます。照明はキャンドルのみで近くをうすぼんやりと照らす程度でございます。カウンターの正面にはグラスや洋の東西を問わないお酒のボトルが並べられております。

 お店の名前を……『BAR朧月夜』と申します。


 すわまた例の密会か! と思われましたかしら?

 

 どうしても月子さまに逢いたい光る君が、見張りという名の従者つきでパブリックスペースでの面会という条件でここ『BAR朧月夜』でのを実現させたのでございます。


 カウンターに光る君と月子さまが並んでお座りになっていらっしゃいます。あの頃よりも渋みが増した光る君とあの頃よりも艶やかにおなりの月子さま。ちょい悪オヤジと美魔女のカップル、でございます。

 月子さまもまぁそれならば、と光る君のお誘いをOKいたしましたら、月子さまのSPから夫君である帝の侍従、はてはご実家ウダイジン家の従者までもが随行してのとなり、今も光る君と月子さまの後方を十名程度が取り囲んでおります。


「まぁね……。新居もなかなかヘビーでさ」

 からからからん、とウイスキーのグラスを光る君は鳴らされます。

「あなたならスリリングだって楽しみそうだわ」

 月子さまはグラスをなぞられます。カシスソーダのようでございますね。


 たとえ後方にギャラリー見張りがいようとも光る君は自宅パレス以外で息抜きがしたかったのでございます。月子さまとも禁断の関係うんぬんでなく、ただ飲み友達としてお会いになりたかったようでございます。

 月子さまにしても見張りがいることである意味正々堂々と光る君に会えるわけですからそれはそれで楽しんでいらっしゃるのかもしれません。

 なんせ、似た者同士のおふたりでございますからね。


「月ちゃんは強いね。惚れ直すよ」

 うぉっほぉん! とわざとらしい咳払いが聞こえます。少しでも色めいた会話になろうものならチャチャが入ります。


「女性側の気持ちになってみなさいよ。結局みんなあなたを好きだからじゃない」

「そう?」

 光る君は頬を緩められます。

「あなたには幸せにする責任があるわ」

 光る君の口角が上がります。

「そうだね。そのに月ちゃんは入ってる?」


 うぉっほぉん!

 うぉっほぉん!


 後方見張り部隊からの咳払いを気にすることもなく光る君は月子さまに手を伸ばされます。月子さまのお手をとろうとなさっているのでしょうか。美しい触手の目指す先は、え? 手じゃなく?  もしやのあご……?


 ぴ――――――

 

 ホイッスルが鳴り、月子さまのSPがふたりのあいだに割り込んできます。あっという間に月子さまと光る君の間に人垣ができます。SPはインカムを使いながら誰かと通信しているようでございますね。

 従者のひとりが月子さまにメモを渡されます。


「あら、オットから? じゃあ帰るわ」

 どうやら夫君が月子さまをお訪ねになるとメモには書いてあるようでございます。SPや従者たちがキャッスルキングダムへのご帰宅に備えるため持ち場へと散ってゆきます。


「あっさりしたもんだね、キミも」

 若干気落ちしたご様子の光る君でございます。


「ドライな関係でちょうどいいんじゃない?」

 手元のドライフルーツを光る君に差し出されます。放り投げたのですが、お口でのキャッチには失敗。

 月子さまは投げキッスをなさって立ち去られます。

 ぞろぞろぞろと従者たちも帰っていきます。


「まったね」

 颯爽と帰って行く後ろ姿

 オトコマエ、でございます


 BAR朧月夜も思いのほか平安なり、でございましたわね。


「さて……」

 空になったグラスの氷がからんと音をたて崩れます。


帰ろっかな……」

 珍しくため息交じりの光る君でございます。


「管一」

 光る君が今までBGMを奏でていた管一をお呼びになります。

「もう少し飲んでくから、つきあってくんない?」

 バーテンダーにカクテルをふたつオーダーなさいます。ブランデーサワーだそうです。

「もちろんっすよ。よろこんで」

 管一はサックスを仕舞い、光る君の横に座ります。管一と言えば源ちゃんズのチャラ男、ノリノリのぱりぴーでございます。少し明るめの髪色の元気系イケメンといったところでしょうか。


「女の子ってさ、可愛いけど、ツヨイよね」

「そうっすね……」

 しみじみそうおっしゃると光る君はグラスに口をつけられます。

 うんうんうん、と隣の管一が忠実に同意しております。


「どの子もさ、みんな好きなんだよ。みんな一番なんだよ」

「そうっすよね……」

 光る君はバーテンダーに葉巻を所望なさいます。

 光る君に管一、ふたりの共通点はおわかりですわね?


「それじゃダメなんかな」

「そうっ……すねぇぇ」

 管一が光る君の葉巻に火をつけます。

 ふたりとも女の子が大好き。これでございます。


 葉巻の煙をくゆらせながら、グラスの氷が琥珀色の液体に溶けていくほどに夜は深まり、チャラ男二大巨頭の身のない会談も深まってゆきます。


 本日も皆さまいたって平安なり、でございます。




♬BGM

TAKE FIVE    管一アルトサックスソロ


✨『パレス六条』登場人物紹介

月子さま ドラマティックジュリエット 恋がビタミンの光る君の同類

管一   源ちゃんズメンバーいちのチャラ男、いわゆるぱりぴー


✨『げんこいっ!』トピックス

BAR朧月夜は会員制。一見いちげんさんお断り。


カシスソーダのカクテル言葉は『貴女は魅力的』

ブランデーサワーのカクテル言葉は『甘美な思い出』



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る