トランペットは哀愁の調べ
「だからね、塾に通わせたいの。いいでしょ?」
「いいもなにも決定事項なんでしょうが。事後報告でしょうよ」
「んふ。ありがとう。管二さん」
管二と話しているのは奥さんのあずきです。そう、ふたりいる管二の奥さんのひとりです。あずきはチームさまーで花子さまにお仕えしています。そうそう、この前のSKJ総選挙を巻き起こした張本人ですわね。
管二とのあいだには息子がひとりおります。
「露くんも霜くんも行ってるのよ。同じ従者としては行かせないと。ね?」
露と霜は兄弟で夕さまの従者です。夕さまのSKJをしているかりんの息子です。ちなみに父親は弦一郎。彼も奥さんふたりでしたわね。
「はいはい。そうね」
素直な管二ですわね。管二といえば源ちゃんズの中ではキレキャラのはずです。
露に霜に雹。3人で夕さまの従者をしているので、最近は3従士と呼ばれているようです。光る君の源ちゃんズのような存在でしょうか。従者であり、友人でもあり、兄弟のようでもあるのでしょうね。
「貴族のご子息でいらっしゃる夕さまが大学でお勉強なさるのよ。お仕えする従者だって勉強しないとね。そう思うでしょ?」
「ああ、そうね。いいんじゃない?」
フェミニストなのでしょうか。単に嫁にヨワイだけなのでしょうか。
じゃ、振込よろしくねっ! と肩をポンと叩いてあずきは去っていきます。
「だからね、何度言ったらわかるのよ」
「ああ、そうね。いいんじゃない?」
「あん? 何言ってるの?」
「はいはい。そうね」
「ちょっと! 聞いてるのっ?」
ところも日付も変わってこちらはヴィラ二条でございます。管二のもうひとりの奥さんぽんずからの呼び出しでまたもや管二はしぼられております。
「だからもう少し
「はいはい、そうね」
それにしても管二の奥さんはどちらも強いですわね。というか管二が単に弱いだけなのでしょうか。
「ちょっと、ほんとに話してくれてるの?」
「ああ、そうね。塾でしょ? いいんじゃない?」
管二ったら地雷を踏みましたわね。
「ちょっと! 聞いてないじゃない!」
「ああ、そうね」
「管ちゃん!」
「あん?」
結婚するとどうして女子はこんなに強くなるんだ? 管二の悩みのようですわね。
付き合っていたころは可愛かったはず。
俺のトランペットの演奏を目をハートにして聴いていたはず。
……だったはず。
どうだったっけ。
悩める管二は霧の中でございますわね。
パレス六条にトランペットの音色が響きます。
今宵は管二のトランペットソロのようですわね。
白砂の庭を月灯りが優しく照らします。
夜空に震えるような調べが奏でられます。
演奏する者の人生を映しこむような味わいのあるジャズ。
喜びも哀しみもすべては表現の糧になる。
傷や悩みはむしろ音楽にとっては深みを与えるようなもの。
今夜のトランペットはしびれます。
旋律は揺らぎながら天空へと
その啼くような音色を聴きながら光る君がグラスを傾けております。
「なんか、いいね。管二のトランペット」
「さようでございますね」
桐山が球体に削り出した氷の入ったグラスにバーボンを注ぎます。
「今日は出かけるのやめるわ」
「かしこまりました」
桐山も光る君のお部屋を退出するようでございます。
これ、いいよ、とバーボンのボトルを桐山に渡します。
囁くようなピアニッシモ
迷うようなビブラート
戸惑うブレス
聴くものの心を揺らします。
「お疲れ。管二」
桐山が持ってきたロックのグラスを弦一郎がトランペットケースの横に置いて自分のグラスとカチリと合わせ、仲間の
月の光を浴びながら管二の演奏は続きます。
背中を大きく反らしながらトランペットを天に捧げます。
桐山も執務室のデスクで管二の語りに聴き入ります。グラスの中の氷を指で回します。小気味いい音をたて氷が沈むほどに桐山の心にも深い安らぎが訪れます。
窓枠に腰かけていた光る君は足を組み替え背後の月をちらとご覧になります。月灯りだけの窓辺、光る君の横顔に影がさし、憂いを纏います。着崩した
美しいものは儚い
憧れるものは
哀しいものは刻む
苦しいものは沈む
哀愁の夜が更けてゆきます。
月は愁いの調べを撫でてゆきます。
グラスの氷は優しく溶けてゆきます。
ジャズは男たちの心に染みてゆきます。
本日のパレス六条、ぐっとオトナちっくに平安なり、でございます。
♬BGM
Autumn Leaves
✨『げんこいっ!』トピックス
弦一郎 妻うめ(紫子さまSKJ)、娘こうめ
妻かりん(元葵子さま、現夕さまSKJ)、息子露、霜(夕さま従者)
管二 妻ぽんず(末子さまSKJ)
妻あずき(花子さまSKJ)息子雹(夕さま従者見習い)
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