またもや裁判? 会議室は盛況なり

 本日もうららかさがあたりを染め上げるほどにまったりとゆったりとしたパレス六条の午後でございます。

 殿のご用でしょうか、管一がヴィレッジすぷりんぐに参ったようでございます。すぷりんぐ担当は弦一郎ですが、不在のようですわね。


「あれ? もしかしてこうめちゃん?」

 紫子さま宛ての宅配便を届け、ふと御簾の向こうに目を凝らすと可愛らしい少女がひとりおります。弦一郎とうめの一人娘のこうめでございます。10歳ほどになったのでしょうか。まださほど長くない黒髪がさらさらと肩の下あたりで揺れています。女童めのわらわとして母のうめと共に紫子さまにお仕えしております。

「大きくなったなぁ。俺、管一、覚えてない?」

 声をかけられたこうめは首をかしげます。

「ちっちゃい頃は遊んであげたんだぜ――。だっこして高い高いとか……」

 子供の成長とは早いものでございますね。


「おまっ! おまえぇぇぇ!」

 なにやら渡殿からけたたましい足音が聞こえてまいります。

「げ、弦一郎!」

 管一が振り向くと、烏帽子の上から湯気がたたんばかりの弦一郎が突進してきます。

「俺の娘に何をする! おのれぇぇぇ」

 腰に手をかけておりますが、抜くのは刀ではなく扇子のようですわね。


「まだ何もしてね」

 何もしていないわりには管一はうろたえます。

「まだとはなんだ! まだとはっ!」

 手元は扇子ですが刀のように振りかざし管一の眉間を狙います。

「ちょっと声でもかけてみようかと」

 弦一郎の眉間に血管が浮き上がっております。

「あほっ! お前に声なんかかけられようものならこうめが汚れる!」

 扇子で管一を制したまま御簾の前に立ちはだかり後ろのこうめを隠します。


「なんだ? そのバイキン扱いは」

 何もしていないわりにはあんまりな扱いだと管一はツッコミます。

「あんのう」

 御簾の内側から別の女性の声がします。

「いちごちゃん?」

 カノジョだと思っていたチームすぷりんぐのいちごのようですね。


「そのバイキンが言うのもなんなんですけれど」

 いちごはちくりと毒を含ませて話を切り出します。

「スミマセン。つい言葉のアヤで……」

 はっと弦一郎は額を床にこすりつけいちごに謝罪します。


「せっかくだからお話しておく?」

 いちごがぱん、と扇子を鳴らしてそう言います。

「いいい?」

 管一の専売特許あ行リアクションでございます。

「管ちゃん」

 いちごはオフィスパレスの方角を指します。

「第二会議室手配して来ます」

 今回はあきらめの早い管一がすっくと立ちあがります。

「よろしい」

 弦一郎はふたりの手際の良さに感心します。

「おお、段取りがいいな」



 ところは変わってパレスオフィスの第二会議室でございます。いちご、管一、弦一郎の3人です。こうめはすぷりんぐに留め置いたようですね。


 かっこーん。 

 開廷でございます。


「ま、弦一郎さんのご心配もよくわかります」

 いちご裁判官から話を切り出します。

「そうでしょう?」

 デスクに身を乗り出さんばかりの弦一郎でございます。

「管ちゃん、女の子ならだれでも好きですもん」

 ぱたぱたぱたといちごは扇子を扇ぎます。こぢんまりと座る管一は最近の第二会議室の名物でございます。


「その根性がなっとらん」

 ばんっ、と弦一郎がデスクを叩きます。


「そうはいってもね、管ちゃん楽しいし、話も面白いわよ。だからみんな管ちゃんと仲良くなりたいなって思うわよ」

 弦一郎の叩くデスクの音に怯える管一にいちごの優しいフォローでございます。にぱっと管一の顔に一気に明るみがさします。

「ただねぇ、誰でも声かけていいわけじゃないでしょ? こうめちゃんはチームリーダーの娘ちゃんよ?」

 いちご裁判官の裁きは続いておりました。うう、とあ行管一。


 ばんっっ!


「そうだ! そうだ!!」

 またもや弦一郎がデスクを叩きます。

「しかもお父さんはアナタのチームリーダー」

 いちごが詰め寄ります。ううう、と管一。


 ばんっ! ばんっ!!


「そのとおりだ!」

 弦一郎が立ち上がります。

「口説くつもりはなくても弦一郎さんは心配でしょ?」

 いちごのたたみかけに弦一郎のヤジ、ううううう、と管一。あ行管一ですが今日は゛う゛限定なのでしょうか。


 ばんばんばんっ!!


「いちごちゃん、よく言った!!」

 弦一郎、拍手喝さいでございます。ひとりスタンディングオーベーション。

「ある意味チャレンジャーだけどね。エライわ」

 あいかわらずブレない管一にいちごは苦笑します。

「もっと言ってやれ! ってえっ?」

 いい調子でいちごの裁きにノッていた弦一郎です。


「まぁ、アナタの基準はちょっと独特だけど」

 いちごがお茶をすすります。

「独特とは?」

 弦一郎もいったん座ります。

「目が合ったとか話をしたとか?」

 

 ばんっ!


「いかんっ! いかんに決まっとる!!」

 またもや弦一郎が立ち上がります。 

「じゃあ、手が触れたは?」

 いちごが再度問いかけます。


 ばんっ! ばんっ!!

 

「ごっ! 言語道断だっ!」

 頭が噴火するのではないかと思えるほどの弦一郎の激高ぶりでございます。

「管一! 来いっ! 根性を叩き直してやる!」

 弦一郎が管一を引きずり立たせます。

「なにすんだよっ! いたっ! 耳引っ張んな!」

 弦一郎が管一の耳を引っ張って連れ去るようですわね。

「痛いなら素直について来いっ!」

 行先はの音楽室でしょうか。


 いちごはひとり残された第二会議室でお茶をすすります。


「これでよかったのかしら?」

 嵐が過ぎた静けさの中でいちごは首をかしげます。


 かっこ――ん


 そもそも、付き合うって基準はどこなのかしら? このまえの四者面談といい、今日の弦一郎といい、源ちゃんズの基準が謎に思えるいちごでございます。

「ま、いっか?」

 こうめを管一から守るという目標を達成したいちごはヴィレッジすぷりんぐへと戻ります。




 本日もパレス六条誠に平安なり、でございます。


♬BGM

交響曲第9番「新世界より」第4楽章 ドヴォルザーク


✨『げんこいっ!』トピックス

オフィスパレスの第一会議室は予算編成や物品等の購入営業や地方荘園管理者からの納税や陳情、報告など業務に使用。


完全防音の音楽室密室にて

弦一郎「管一、お願いだ。こうめを守ってやってほしい」

管一 「はぁぁぁぁ?」

弦一郎「お前がちょっかい出している風なら他のヤツらは手を出さないだろ?」

管一 「なんだそれ?」

弦一郎「お前、虫よけに使える」

管一 「!?」

弦一郎「頼むっ! お前にしかできないことだ! チャラ男と見込んで頼む!」

管一 「人に物を頼む言い草か、ソレ」

弦一郎「あくまで気がある風までだからな。手を出したら殺す」

管一 「だからさ、頼んでんの? 脅してんの?」


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