ときめいて 死ぬほどキミに 恋したら パレス六条 平安ならむ

【号外】『月刊宮中ニュース』

【号外! 宮中人気ナンバーワンアイドル 電撃結婚!!】


【夕さま ご結婚!! お相手は幼馴染の君!】

 先日、官位昇格試験にて三位に合格し、近衛大将このえのたいしょう職を任じられた夕大将ゆうのたいしょうさまが結婚なさったことを発表された。同日、内大臣家からも正式に夕大将の君を婿君に迎えられたとのコメントが出された。


 彼は誰かはたれ(夜明け)どきの淡い藤色の空が白んじてまいります。新しい朝陽が世界を照らします。眠っている京の町を起こします。生垣の朝顔のつぼみが開いてゆきます。青や紫の花びらから露が零れ、雫が弾けます。

 満天の星空が祝福したスターオーベーションの夜が明けました。初夏の太陽が駆けあがってまいりました。とっておきのニュースを連れて、でございますわね。

 先日は昇格試験の結果速報の宮中月刊ニュース号外でしたが、本日も号外が発行されたようでございます。朝から京の町は大賑わいのようですわね。


【7月7日に駆けた彦星、筒井筒の織姫にプロポーズ】

 気になるお相手は内大臣さまの姫君、雲子さま。夕さまとは従姉弟同士で幼少時は内大臣さまのご実家三条邸にてご一緒に育たれる。元服、裳着を境に夕さまは光る君の元へ、雲子さまは内大臣さまのお屋敷に引き取られる。

 昇格試験合格を受け、夕さまは内大臣さまのお許しを得て雲子さまにプロポーズ。


【三条大橋を駆け抜けた恋】

 宮中での衣冠通勤着姿で都大路を走り抜けた夕さまの姿にみやこびとは騒然となった。人目を気にすることもなく夕さまは一路雲子さまのもとへ。三条大橋を駆ける姿はさながら天の川を渡る彦星のようだったと感嘆の声も聞かれた。


【7年間隠しつづけた初恋の君への純愛】

 今日に至るまで恋人の存在を明かさなかった夕さま。その理由を尋ねると、

「今となってはその件についてはコメントを差し控えたい」

 とのこと。


 誰のことも責めたりしない夕さまらしい対応でございます。号外は京の町の人々だけでなく宮中や皇族・貴族の方々にも関心があるようでございます。このふたりのことを知っていたのは近しい関係者だけでしたので、皆が驚きましたが、一様に祝福してるようですわね。関係者は取材に大忙しのようでございます。


【SKJ、従者たちによるプロポーズドキュメント】

 プロポーズを目撃した夕さまの従者たちと雲子さまのSKJの話を聞いた。

「とにかくステキでしたぁぁ」

「カッコよかったっすよ」

「バルコニーの手すり越しにお手をっ、ううっ」

「映画みたいっすよ」

「夕陽が赤いんですぅぅ」

「そこからきざはしを夕さまが駆けあがって」

「超絶カッコよかったですぅぅぅ」

「雲子さまの手をとって夕さまが膝まづかれて」

「そうなんですぅぅぅ」

「オトコの俺たちだってカッコいいと思いましたね」

「死ぬほどカッコよかったですぅぅぅ」

「雲子さまもお綺麗だったっすよ」

「思い出すだけで泣けてきますぅぅ」

「いやあ、よかったっすよ」

 いまだ興奮冷めやらぬ関係者たちである。それぞれ間近で仕えてきた従者たちだけに感動もひとしおのようである。


光る君夕さまパパコメント】

 親としてよかったと思ってるよ。亡き妻にも知らせてやりたい。男としても一途に初恋の君を想い続け、仕事に打ち込んでいた夕は立派だよね。


内大臣雲子さまパパコメント】

 結婚の挨拶に来た夕を見て娘には彼しかいないと思った。娘を幸せにしてやってほしい。


【『週刊平安』のゴシップ記事】

 『週刊平安』に載った夕さまの恋人・結婚報道は女性側の狂言と判明。

「記事が出れば責任をとってくれると思った」

 夕さまや雲子さまにご迷惑をおかけしたと憔悴しきっているとのこと。


 記事を否定することで女性を悪者にしたり、さらなる騒動を巻き起こしたくなかった夕さまでございました。雲子さまに対しても、やましいことがないので努めて普段と変わらない態度でいたそうでございます。



【京中の女子、「夕くんロス」を嘆く】

「昨日から眠れません」

「今日は会社休みます」

「明日からどう生きていったらいいのか」

 宮中の女官はじめお屋敷勤めの女房達も仕事放棄で社会経済的にも影響が出てきているとか。


【今世紀最大のラブストーリー】

 平安の最新トレンドを紹介している『あむあむ』の例年の人気特集「抱かれたい男ランキング」でも長年「キング」の名を欲しいままにしてきた父親の光る君からトップの座を奪取した夕さま。

 今までは特定の恋人・妻ステディがいないことが人気の主な要因だったが、今回の初恋の君への純愛劇的結婚でますます夕さまの好感度は跳ね上がるだろう。早くも「今世紀最大のラブストーリー」との声。

 ふたりの出会いから結婚までのいきさつをまとめて、書籍化・映画化の話まで持ち上がっているという。



 内大臣家では正式に婿をお披露目する「露顕ところあらわし」(結婚披露宴)の支度で大忙しのようでございます。ですが、そこはこれ以上ない御目出度い事柄ですので従者や女房たちの立ち動く姿もにこやかで華やいだ雰囲気に包まれているようでございます。

 いそいそと号外を手に雲子さまのお部屋へと急ぐのはSKJのかすみのようでございますね。


「きゃっ!」

「失礼いたしました。すみません」

 簀子縁の角で肩が触れたのは弦三郎ですわね。夕さまのお使いで内大臣家に来ているようです。ふたりは同じ号外を手にしているようです。

「また、ですね」

 弦三郎が色白の綺麗な顔を赤らめているようです。

「わたくしたち『月刊宮中ニュース』とご縁があるようですわね」

 大きな瞳のかすみが号外を見せながら微笑みます。

「本当ですね」

「うふふ」

 以前光る君は弦三郎に「すぐに恋に落ちちゃう出会いがあるよ」などと言っていましたが、弦三郎の場合は「恋に落ちた」というか「恋にぶつかって」いたのですね。それも随分と前からでしたわね。


「夕さまから雲子さまへのお花を届けにまいりましたが、こちらの花は僕からあなたに」

 弦三郎が差し出したのはカスミソウの花束でございます。



「これ、一緒に仕舞っておこうか?」

「うん、そうね」

 夕さまと雲子さまの扇子としおり心の拠り所がひとつの蒔絵の箱に納められます。

「夕くん、お部屋の室礼インテリア一緒に考えてくれる?」

「もちろん。雲ちゃん」

 届けられた色とりどりの撫子がフラワーベースで楽しげに揺れます。



 本日もパレス六条や内大臣家はじめ関係者の皆さまには平安なり、でございますね。



 ☆本日のBGM♬

 One Love             嵐


 ✨『げんこいっ!』トピックス

露顕ところあらわし

 男子が三日続けて女子の元に通い三日目の朝に女子の父親(保護者、後見人)が婿と認めて世間に披露すること。お祝いには「三日夜餅みかよのもちい」が用意される。これまで主人の手紙などの使いをしてきた従者にも振る舞い酒が出される。

 今回のパターンでは内大臣家で「露顕」が行われ、「三日夜餅」などが供され、三従士の露、霜、雹にも酒が振舞われた。


 弦三郎の「ぶつかった恋」のエピソードは番外編『ジングルベルを鳴らそう』にて

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884320907/episodes/1177354054884346254

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