メゾン朝露は哲学の館
光る君と縁のある方といえば、もうひとりご紹介しておきますわね。
こちらは最初に申し上げておきますが、恋人ではございません。
朝子さまとおっしゃいます。光る君とは従姉どうしになられます。
年上の美人で和歌の名手、風流なお手紙をやりとりする文通相手でございます。
もちろん光る君は朝子さまに恋をなさいました。それでこそ光る君、でございます。けれども朝子さまがお断りになられたのです。お友達のままでいましょう、と。
「キミに
「俺と一緒に
何度も何度も光る君は朝子さまを口説きました。「死ぬほどキミに恋してる」と。「恋なんて障害がある方が盛り上がるんだぜ」がモットーの光る君でございます。何年も何年も口説きました。明石から帰ってきたあとはプロポーズもなさいました。それでも光る君の恋は叶いませんでした。おふたりで「新しい世界」に飛び立つことはございませんでした。
男女の仲ではなく尊敬しあえる゛最高の友人゛としてお付き合いしましょう。これが朝子さまの一貫したお考えでございました。
とうとう光る君が折れるかたちでこの恋は終結いたしました。これからは純粋に和歌をやりとりする
御文使いの担当は弦三郎でございます。夕さま担当と兼ねております。
元々葵子さまにお仕えしていた弦三郎がその後源ちゃんズメンバーに加わり、夕さまのお世話などを担当しています。口数少なく考え事をしているからか、メンバーからは「いつもボーっとしている」などと思われているようです。文学青年風の綺麗系イケメンでございます。
「弦三郎さぁ」
「お前ってカノジョ作んないね。お前も"最高の友人"派なワケ?」
光る君にとっては当然"最高なのはコイビト"でございますね。愛情か友情か、何が愛情で何が友情なのか。果たして愛情が上で友情は下なのか。ムズカシイ命題でございます。
「そんなことはありませんよ」
光る君の御文を待っている弦三郎が答えます。
「カノジョ、欲しいですよ」
光る君の顔がぱあっと明るくなります。
「やっぱ、そうだよな?」
単に純と書いてなんとやら、素直な光る君でございます。
「そうですよ」
こちらは殿思いの従者でございます。
「なんでカノジョ作んないの?」
欲しければ作ればいいじゃん、光る君の哲学でございますわね。
「いろいろ考えちゃうといないんです」
思えばこのふたり、対極のふたりかもしれませんわ。
「何が」
考えるよりも好きになるよりも先に口説きにかかる光る君。
「カノジョが」
口説くどころか好きになる前に考えて考えて考えて考えることしかしない弦三郎。
「可愛いSKJいっぱいいんじゃん」
SKJと仕事することだってあるだろうし、
「はぁ……」
そうそう、垣間見とはいわゆる覗き見、不特定多数に顔や姿を見せない女性たちの様子を探るための平安男の恋の常套手段でございます。
「どんな子がタイプなの?」
女の子なんてみんな可愛いぜ――、光る君のご見解はそうでございましょう。
「可愛くてキレイで、頭がよくて、思いやりがあって、おしゃべりすぎなくて無口でもなくて、自分の意見を持っているけど、控えめで、一緒にいて楽しくて、でもひとりでいる時間も尊重してくれて……」
やはりこのふたり対極でございます。
「わかった、わかったよ」
壮大な弦三郎の理想を光る君が押しとめます。
「でもさ、恋なんて考えるより前に落ちているもんだぜ?」
光る君の座右の銘にございますね。
「僕にはそれはムリかと」
石橋を叩いても渡らない、きっと弦三郎の座右の銘ですわね。
「きっとさ、運命の出会いがあるよ、おまえにも。出会ったとたん恋しちゃうような」
光る君のゆくところ、運命だらけでございます。それこそ砂利のようにそこかしこに転がっておりますわね。
「あったらいいんですけどね」
光る君のポジティブさは弦三郎には羨ましいようです。憂いを含んだ微笑みをたたえております。
「でも、付き合ったとして、あれこれ束縛されたり」
弦三郎が話を続けます。
「ああ、あるな」
光る君にはお心当たりがあることでしょう。
「今日は何してるんだとかどこに行くんだとか詮索されたり」
「あああああ、よくわかるな、おまえ」
お心当たりだらけですわね、光る君。
「それにそんなコが何人かいたら、今度は一番は誰かとかどっちが好きかだとか」
「弦三郎、カノジョいないのになんでそんなに詳しいの?」
弦三郎は姉妹が4人もいるので結構耳年増なのでございます。
「楽しいことばっかりじゃないよなって思うとなかなか行動に移せなくて」
「弦三郎、おまえ……」
さっきまであぐらをかいて小筆をくるくると鉛筆回ししていた光る君でしたが、いつの間にやらきちんと弦三郎の方を向いて正座なさっておられます。
「オンナ友達もいいかもな……」
「え?」
゛恋が生きゆく栄養素゛がモットーの光る君から信じられないお言葉が出てまいりました。
弦三郎、びっくりでございます。
「なんか、朝ちゃんのこともこれでいいような気がしてきた。ありがとな」
「えええ?」
急に文机に向かい、筆に墨をつけ、なにごとかお書きになられます。
~ わかったよ そんなに朝ちゃん 言うんなら 贈った和歌は お互いフォロー ~
つらつらとお歌を詠まれてお手紙をしたためられました。
狐につままれたような弦三郎が首をかしげながら御文を届けに出かけます。
朝子さまはご自分のお屋敷にお住まいでございます。メゾン朝露と言いまして皇族のお父さまの形見のお屋敷でございます。夏の朝にあさがおが美しく咲き乱れるのでいつしか朝露の里と呼ばれるようになりました。
「あなたの歌はとっても好きよ。あなたの歌に恋してる」
「俺もだよ。朝ちゃんの歌がすごく好き。ほんとは朝ちゃんのことも大好きだけど」
壁にドンしようとした手が空を切ります。あごをクイしようとする手が泳ぎます。
「俺たちサイコーの友達同士だもんね?」
「ええ、最高だわ」
まあ人を想う気持ちというのもさまざまでございます。
人間として、友人として好き。
女性として、男性として、相手を愛する。
ムズカシイものでございますわね。
友情という名の「愛」というのもあるのかもしれません。
なんにせよ、さまざまな「愛」があっていいのでございます。
ねぇ? 光る君??
本日もパレス六条とメゾン朝露平安なり、でございます。
☆本日のBGM♬
エリーゼのために
✨『パレス六条』登場人物紹介
朝子さま 一緒に飛び立ってくれなかった
弦三郎 源ちゃんズメンバーでマイペース省エネ運転、趣味は人間観察
✨『げんこいっ!』トピックス
朝子さまのSKJはあやめ、しょうぶ、かきつばた
弦三郎の姉はあずき(花子さまSKJ)、かえで(秋子さまSKJ)、かりん(夕さまSKJ)、妹はゆず(宮中に出仕)
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