甘酸っぱい恋の余韻?

 ずいぶんと源ちゃんズやSKJのお話ばかり続きましたが、ここで光る君のお話に戻しますわね。「月夜の品定め」の最後に登場した方のお話でございます。少し時間を遡りますわ。


 光る君がまだ十代のお若い頃、さほど身分は高くないけれどもとても大事にしていたカノジョがいらっしゃいました。

 夕子さまとおっしゃり、鈴蘭の花のような可憐な方でいらっしゃいました。どの女君プリンセスよりも心を寄せ合い小さな幸せをおふたりで大切になさっておりました。若いふたりのときめき胸キュンの恋物語。青い春と書いて「青春」と呼ぶにふさわしいおふたりでございました。


 そんな微笑ましいおふたりでございましたが、ある日突然夕子さまの行方がわからなくなりました。もちろん光る君も必死で探したのですが見つかりませんでした。魔女の手にかかって毒りんごを食べて死んでしまったとか、怨霊に呪い殺されたとか、人買いにさらわれて外国に売られてしまったとか、はたまたあやかしに連れ去られたなど次から次へとウワサは流れましたが、どれも噂の域をでなかったのでございます。


 その後光る君は明石へ蟄居し、数年経って京に戻られますが、やはり夕子さまの消息はわかりませんでした。同じ頃に夕子さまのご親戚だという少女がいらっしゃると光る君は聞きつけられました。京の竹林の中にあるお屋敷でお暮らしの少女でした。お名前を玉子たまこさまとおっしゃいます。

 光る君はさっそく玉子さまを養女として引き取ることにいたしました。パレス六条に呼び寄せ、夕さまと同じく花子さまに母親代わりをお願いすることになさいました。


「まあ、夕さまだけでなく娘もできるの? 嬉しいこと」

 花子さまはそう歓迎なさいました。

「夕ちゃんの分まで幸せにしてあげたいんだ」

 光る君も花子さまにそうおっしゃいました。


 パレス六条ではもちろんヴィレッジさまーに玉子さまのお部屋が用意されました。花子さまに夕さまに玉子さま。皆さま血は繋がっていないながらも、花子さまがおおらかで穏やかなのでとても仲良く3人でのお暮らしが始まりました。


「玉子さんだから゛まこちゃん゛とお呼びしようかしら。ね、夕くん?」

「そうだね、じゃあ僕はまこ姉さんって呼ぼうかな」

「おふたりともありがとうございます」

「今日から家族よ、まこちゃん」

「よろしくね。まこ姉さん」

「ありがとうございます。お、お母さん、ゆ、夕くん」

「さあ、いただきましょうか。まこちゃん、イタリアンはお好きかしら?」

 本日のディナーはタコのカルパッチョ、柿とひじきのサラダにサーモンのクリームソースパスタでございます。膳司シェフの膳介は洋風料理もバッチリのようですわね。


 玉子さまは瞳の大きな美少女でございます。美しい黒髪が色白のお顔を縁取りゆらゆらとお背中に流れております。あざやかなカトレアのような雰囲気を纏っていらっしゃいます。


「とっても美味しかったです」

 お食事を終えられた玉子さまが口元をナプキンで押さえられて微笑まれます。

「よかったわ。デザートもあるのよ。今日はいちごのショートケーキね」

 花子さまが食後の紅茶をお淹れになるようです。

甘味司パティシエの甘介のデザートも美味しいよ」

 夕さまがショートケーキのお皿を玉子さまに差し出されます。

「お可愛らしい女の子がいらっしゃると雰囲気が華やぐわね。楽しいこと」

 息子がわりの夕さまと娘がわりの玉子さまとの楽しいひとときに花子さまはとても幸せそうでございます。


 光る君が年頃の少女を引き取ったという噂はあっという間にみやこに広まりました。大勢の皇族、貴族さまがたが色めき立ったのはいうまでもございません。


「あの光る君に縁のある姫なら美しいに決まってる」

後ろ盾バックが光る君のお姫さまとぜひ結婚したい」


 パレス六条のヴィレッジさまーの門前には行列ができるようになりました。

 玉子さまへの結婚の申し込みのためでございます。


「じゃあさ、ミッションをコンプリートできたら玉ちゃんに会わせてあげるよ」

 光る君は集まった人たちに楽しそうにそう言います。


「キミはノアの箱舟にハトがくわえてきたオリーブの枝ね」

 大納言Aくんが眉間にしわを寄せます。


「キミはね、孫悟空の頭の輪っかね」

 右大将Bくんも首をひねります。


「キミはそうだな、千夜一夜物語の魔法のランプにしようかな」

 三位さんみの少将Cくんもわけがわかりません。


「「「要するに誰とも結婚させるおつもりはないってことですよね?」」」

 候補者たちが光る君の要求に呆れ気味でございます。

「そんなことないよ。ミッションクリアできたらOKするよ?」


 美女との噂を聞いてやってくる求婚者たちに無理難題を与えるというのはどこぞの物語のようでございますわね。確かあれは竹から生まれたお姫様のお話でしたかしら。


「年頃の娘を持つ父親気分ってのもなかなか面白いもんだな。ふふん」

 若者にインポシブルミッションを押し付ける光る君はご機嫌でございます。

「でもなあ……」


 扇子をぱた、と開いてはぴと、と閉じられます。


 ぱた、ぴと、ぱた……、ぴと……。


「どんな顔なのか、どんな姫なのか、ちょっと見てみたいよな」


 ぱた。


 養女として引き取っているので光る君はまだ玉子さまと直接お顔を合わせてはおりません。


 ぴと。


「いいよな。親なんだし?」


 ぱた。


 異性同士ですからいけませんわよ。平安の常識でございますわよ。


 ぴと。


「見るだけならOKだよな?」


 ぱた。


 OKではありませんわよ。平安ではあり得ませんわよ。



 なにやらパレス六条を覆う暗雲でございます。

 さんさんと照っていたお屋敷が陰ってまいります。

 源ちゃんズの懸案事項でしたわね。


 ぱた。


 ぴと。



 本日はパレス六条平安ではないかも……、でございます。



 ♬BGM

 Je te veux あなたが欲しい   サティ


 ✨『パレス六条』登場人物紹介

 夕子さま ときめき胸キュンベル 平民出身の光る君の元カノ

 玉子さま 夕子さまの親戚 夕子さま以上の美貌の持ち主


 ✨『げんこいっ!』トピックス

 夕子失踪のウワサは『週刊平安』より引用


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