第31話:女神とシリアス
リュウが扉を開くと、そこには白い空間が広がっていた。
その中で、大人しく伏せて待っているグリフォン。
彼はグリフォンが引く台車に手をかざす。
すると台車の側面が淡い光を放った。
離れているのでよく見えないが、それはディスプレイらしく、何か字が表示されている。
「異世界標準時は……うん。やはり特に狂ってないな。僕が今日、ここに来た時間から考えてずれは感じられない。となると、僕が……というより力がある者がここに近づくと、バレないように動作を止める仕組みか。かなり凝っているな」
そうリュウがつぶやいたあと、この空間の主である女神ルビスも扉の近くまでやってきた。
その顔は、苦虫を噛みつぶしたようだ。
「やられました。屋根裏と軒下に時間軸を歪ませる魔方陣が巧妙に隠されていました」
「――この空間に、屋根裏とか軒下があるのか!?」
俺のツッコミに、ルビスは当たり前のように「ありますよ」と答える。
……いや、待て俺。
今は、そんなツッコミをいれている場合ではない。
問題は誰がやったかと言うことだ。
「犯人は決まっています。わたくしに気がつかれず、この女神の空間にこのような干渉ができるのは、一緒に作った姉だけ……」
「創造神ステイシヤの姉の女神……魔獣を使役し、神の怒りに触れた人間を滅ぼそうとしている【
リアンはさすがに敵対していたので知っているのだろう。
その敵対する女神の名に、顔を陰らせる。
だが、俺もショーコもその名前は初耳だった。
「すまぬが、どうも我にはわからないのだ」
豊満な胸を持ちあげるように腕を組んだショーコが小首をかしげる。
「その……なんだ? 『ふんどしナイティ』という変態的な女神がなにをしたのだ?」
「――ブッ、フウウウゥゥッ!!」
ルビスがものすごい勢いで吹きだした。
「ふんどし……ふんどしを
そしてその場に膝をついて倒れこみ、肩を振るわして呼吸困難になりそうなほど笑っている。
それで飽き足らず、今度は床をゴロゴロと転がり始めた。
もう、とても会話できる状態ではない。
「ツボったのか……やれやれ……」
しかたなく笑い転げる女神は放置することにし、俺は他のメンバーに状況を説明することにする。
要するに、20年前に魔獣王が現れたという説明に対して、その魔獣王を倒すために虎次郎(リアン)が23年前に転生しているのはおかしいわけだ。
そして、ずっと気になっていたリュウの言葉。
――久々のかつ丼だからね……まあ、かわいそうだけど、ここは我慢してもらおう。
久々ではない。3回のかつ丼注文は、感覚的に数日以内だ。
――君たちは本当に相変わらずだなぁ。
相変わらずと言われるほど、間が空いたりしていない。
これらの感覚の差異は、リュウと自分たちの感覚がずれていると言うことだ。
たぶん、女神が言っていた
俺はテーブルに添えられたノートとペンを取りだし、出来事を時系列に並べて見せた。
まず、俺たちの感覚だ。
――20年前
・魔獣王発生。
――19年前
・女神敗北。
――18年前
・女神転生。
・虎次郎転生(リアン誕生)。
――数日前
・かつ丼注文1回目(俺分)
・かつ丼注文2回目(ショーコ分)
――現在
・かつ丼注文3回目&リアン来訪(23才)
ここで明らかにおかしいのはリアンの誕生と現在の年齢が食い違うと言うことだ。
その差は、5年。
そして、リュウが言った「君と始めて会ってから、もう5年も経っている」という言葉。
リアンの日本への転移も5年前。
この一致を考えると、5年前に何かあったとしか思えない。
そして、この5年を計算に入れた時系列はこうなる。
――25年前
・魔獣王発生。
――24年前
・女神敗北。
――23年前
・女神転生。
・虎次郎転生(リアン誕生)。
――5年前
・かつ丼注文1回目(俺分)。
・リアン日本へ転移。
――??前
・かつ丼注文2回目(ショーコ分)
――現在
・かつ丼注文3回目&リアン来訪(23才)
すなわち狂っているのは、少なくとも女神と俺の時間感覚だ。
俺はこの場所に来てから、感覚的には数日だが、もう5年も経っているということだ。
気になるのは、5年前の一致。
「時間を遅くしていたナイティヤの目的は、やはり……」
俺の言葉に、リュウが答える。
「時間稼ぎだろうな」
それしかない。
だが、時間稼ぎをして、したかったことは何なのか。
それに俺の転生タイミングは偶然なのか?
また、リアンの転移タイミングは偶然なのか?
見えない陰謀の糸に絡まれたかのように、俺たちはそろって不安の表情のまま固まってしまうのであった。
「――ブッフウウウゥゥッ!! ふんどし
「――雰囲気、台なしだ! このアホ女神が!!」
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