第11話:女神と魔導書
俺は女神をなだめすかして、なんとかメガコン(女神コントローラー)の練習をやれることになった。
相手はもちろん、ネズミの化け物の人形である。
すでにメガコンは手元にある。
「よーし、行くぞ!」
「ちょっと待っ――」
女神が何か言おうとしたが、聞くつもりはない。
ジョイスティックを握った俺を止められる奴などいやしない。
「ダッシュ!」
「――えっ!? なんで接近!?」
「そして……しょーりゅーけん! しょーりゅーけん! しょーりゅーけん!」
「――ちょっ! ――いきなりっ! ――ドラゴンダンスッ!?」
ドラゴンダンスという言葉を知っているとは、なかなか見どころのある女神だ。
ちなみに魔法以外の動きは、俺の思念で動かせるという便利なものらしい。
俺の脳裏に、1フレーム単位でさんざんっぱら焼き付けられている必殺技の再現度は完璧。
おかげできれいなフォームで、女神のジャンプアッパーがネズミの顎へ、連続でクリーンヒットする。
だがさすが巨大ネズミ、このぐらいでは倒れない。
そもそも女神のパワー不足というのもあるのだろう。
ならば、腕の3倍の力がある脚力で勝負だ。
「たつまきぃせんぷーきゃくっ!」
「だからちがっ――きゃー! めがまわるぅぅぅ!!」
片足を前に出して、空中で独楽のように回る女神。
連続キックが、ネズミのボディにヒット。
やらせておいてなんだが、よくあんな器用なことが実際にできるものだ。
「これでも効かないなら……すぴにんぐぅばぁーどきっくぅ!!」
「――そ、それはだめー! ダーリンのエッチ!!」
その技は逆さまになり、脚を180度まで大きくひろげ、回転しながら蹴る技。
すなわち、ふわっと持ち上がったスカートはまくれ上がり、その下にある下着は丸見えになる。
「いやああぁぁ!! ――股関節がああぁぁ!!」
そして女神の大股が全開になった時、俺の股関節にも激しい痛みが走った。
……その後。
あまりの痛みにメガコンを手放した俺は、自由になった女神にめちゃくちゃ殴られた。
「あー。びっくりした」
「びっくりしたじゃありませんよ!」
俺は神魂の間に座り込んだまま、女神を見上げた。
女神の頬は、今にも爆発しそうな勢いで膨れている。
「あれはどういうことなんだ……」
「あれはですね――」
「まさか下着まで女性もの、しかも黒のきわどい勝負下着とは……」
「――って、そっち!? 気になったのはそっち!?」
「いや、徹底しているなと感服いたしました」
「真顔で何を言っているんですか! 記憶から消してください!」
かなり必死に頼むので、とりあえず忘れてやらんこともない。
まあ、確かに勝負下着の件よりも、重大な問題がある。
「それで俺の股関節まで痛くなったのは?」
「リンクしているからですよ」
当たり前と言わんばかり女神が答える。
「ダーリンの動きをわたくしがトレースするために感覚をある程度、同期しています。そのため、フィードバックシステムが働きます。特に痛みは伝わりやすいです」
「そういうのは、先に言ってくれないと困るなぁ」
「言おうとしたら、始めたのは誰ですか! だいたい、なんでゲームの格闘技なんです!?」
「バカだな。俺は格闘ゲームのプロだぞ。当たり前じゃないか」
「なんでダーリンが、したり顔してわたくしをバカにしてるんです!? ダーリンがやらないといけないのは、魔法でしょう!」
「魔法の出し方なんて知らん!」
「だから、胸を張って威張らないでください! 説明する前にはじめたくせに!」
「ところで、俺は黒より白や水色のが似合うと思うぞ」
「……本気で記憶を消しますよ……」
「……す、すまん」
目がかなりマジだ。
今までで一番、マジだ。
この件は、触れない方がいいかもしれない。
「もう……。はい、これどうぞ」
大きなため息をついた後、女神はどこからともなく細長い小冊子を差しだした。
「なにこれ?」
「
ぺらぺらとめくってみると、属性ごとに分かれて魔法の名前と説明、そしてコマンドが確かに書いてある。
なるほど、コマンドは複雑なのから簡単なのまでいろいろとある。
「魔法は呪文で発現させる方法と、紋章で発現させる方法があります。コントローラーの動きと紋章をリンクさせて、キャラクター・セレクトされた人に送るようになっています」
「……よくわからないけど、わかった。とりあえず、これで女神をこき使えるということだな?」
「……わかっていませんよね、それ。だいたいですね、キャラクター・セレクトは――」
――ピンポーン~♪
それは間違いなく、呼び鈴。
インターフォンを押した時に聞こえるような音だ。
それが俺と女神の間に割りこんだ。
「なんだ、この音?」
「……あああぁぁ……しまったああぁぁ!!」
女神は突然、自分の両頬を押しつぶすように手を当てた。
あからさまに狼狽している。
「あわわわ……もうそんなに!? 忘れてた!! ってかいくらなんでも早すぎない!?」
なんだかわからないが、嫌な予感がしないでもない。
仕方なく俺は、「どうした?」と尋ねたみた。
「えーっと……とりあえず、ダーリン。少し待っててもらえますか?」
「だから、どーしたんだ?」
「えーっと……次の転生者がきちゃったんです」
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