第24話:女神とおかわり
容姿を変えられる話は、とりあえず女神の瞳と目を変えるだけにするということになった。
拳士に関しては若返らすが、容姿を変えられることは黙っておく。
理由は簡単。
あの拳士の見た目はかわいらしいので、俺がもったいないと思ったからである。
一緒に旅をすることになるのだから、男より女の方がいい。
ちなみに女神の奴は、かわいい女の勇者候補を男として転生させたこともあるらしい。
それが本人の了承を得てのことなのか、勝手にやったのか問い正すことは許してやった。
その代わり、拳士に性転換できるこは黙っておけと交換条件。
もちろん、あとで拳士からクレームが来たら、全ての責任は女神にとってもらうことにする。
「じゃあ、そろそろ出発かね」
拳士にカラオケを終了させると、俺は出発を促した。
ところが、拳士は約束のかつ丼3杯をひたすら求めてくる。
ぶっちゃけこれ以上、長居はしたくない。
だから、女神に「かつ丼は成功報酬だ」と言わせた。
しかし、この拳士は頑固として動かない。
「約束を破るならば転生などせんぞ」
俺たちはあきらめて、かつ丼を注文することにした。
ただ、女神特権の快特便でも優先できない客がその前に入っているらしく、しばらく時間がかかるとのことだった。
仕方なく、俺と女神はコタツでダラダラ、拳士はまたカラオケルームに戻っていった。
しかし、気が重い。
かつ丼を注文する。それはすなわち
きっと、また「かわいそうに」と哀れみの目で見られるのだろう。
そんな目で見るぐらいなら、あの元勇者が女神の世界を救ってくれればいいじゃないかと思う。
あの力なら、簡単に魔獣王とかも倒せるのではないかと。
しかし、それを女神に言ってみたら「できない」と言われてしまった。
人知を越えた存在となったものが、他の世界で全力を出すことはできないそうだ。
なんでも、世界には秩序を守ろうとする力があるそうなのである。
異物が力を直接的に振るって世界の変革を行おうとすると、それを排除しようとして秩序を守る力がいろいろな現象をおこすらしい。
よくわからないけど、要するに覚醒勇者は誕生した世界専用ということだ。他の世界では、力に規制がかかるということだろう。
しかし、それでも覚醒勇者が異世界で戦わなくてはならなくなったらどうすればいいのだろうか。
自分の力を思いっきり振るうことができないなら、自分の代わりに現地人を勇者に育てたりするとか。
まあ、わざわざそんな面倒なことをやる奴がいるとは思えないけど。
――ピンポーン!
どのぐらいの時間がたったのかわからないが、やっとお待ちかねのドアベルが鳴り響く。
「まいどー。『た○秀』でーす」
すっかり寝込んでしまった女神に代わり、俺はトレーを手にした。
そして、またドアを開ける。
ちなみに外は、白い空間。
空も台地も目印もない、ただただ白い空間だ。
その空間をどうやってきたのか、台車を引っぱるグリフォンとともに、「た○秀」のジャンパーを着た元勇者が営業スマイルで立っていた。
「いつもありがとうございま……あ……まだいたの?」
だが、そのスマイルが、はたして憐憫の念に豹変する。
「ええ。まだいたんですよ……」
「それはまた……さらに困ったな……」
「さらに困った?」
出前箱を持つ元勇者は片手でかるく顎を撫でる。
ああ、またきたぞ。
嫌な予感がする。
「とりあえず、こちらね……」
そう言って、元勇者は出前箱の蓋を引き上げた。
中には、蓋がされてラップで包まれた丼。
むろん、中はアツアツのかつ丼である。
「じゃあ、まずはこれ、かつ丼5つね」
俺が大型トレーを両手で持って突きだすと、そこにカツ丼が並べられる。
けっこう重い。
ちなみに3つは拳士、俺と女神でまた1つずつだ。女神が3つ食べると言ったので、「太るぞ」と耳元でささやいてやったらあきらめた。
「あと、これがおまけの味噌汁が入ったポット」
「ほい。それもトレーに……」
またずっしり重くなる。
「あと、おしんこと割り箸と……」
「ほい。じゃあ、トレーの隅の方に……」
これは軽い。
「あと、転生者のおかわりね」
「ほい。それもトレー……はいっ!? 転生者!?」
横の方に隠れていたのか、視界に突如、着物に身を包んだ黒髪ロングの美女があらわれる。
「……えーっと、トレーに載せる?」
「載らんわ!」
それは、重すぎるおかわりだった。
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