第2話:女神とプロゲーマー
とりあえず、かつ丼もおごってもらったので勇者を目指すことにした。
まあ、どうせ一度終わった人生だ。かつ丼で勇者を目指したところで、なにも問題ないはずである。
しかし、学生時代ならまだしも、二十歳を超えて勇者を目指すとか、とんだ中二病だ。
「そうは言うけどね、だいたいの人は勇者になれるって喜んで行くのよ」
女神が腰に手を当てて偉ぶる。
ってか、それってツッコミどころだよな?
「ちなみに何人ぐらい勇者候補を送りこんでいるの?」
「う〜ん……そうねぇ……たぶん、あなたの世界で言うと、年に100人は超えているわね」
「何年前から?」
「20年ぐらいかしら」
「ってことは、ざっと2000人……凄いな」
「ふふ~ん。凄いでしょう?」
「それなのに、まだ魔物は減ってないの?」
「……あ……」
「あ、じゃねーよ! あんた、無能ばかり送りこんでいるだろう?」
「ギクリ……」
まさか本当に口で「ギクリ」とオノマトペする奴がいるとは思わなかった。
「だいたい、そんなに俺の世界の人間を送りこんでいいのかよ?」
「え? 【
「ウィン−ウィンじゃねーよ! 終わってるな、日本!」
「『ぶっちゃけ邪魔』って言ってた」
「ぶっちゃけすぎだ、日本!」
そんな日本を捨てて異世界に行くのは正解だったのかもしれない。
まあ、それはともかくだ。
異世界に行く前に、大事なことを確認しておく必要がある。
「なあ。かつ丼を5つも平らげた、大食い選手権に出られそうな女神様」
「……ちょっと待って。その枕にしている修飾語、本当に必要なのかしら?」
「魔物がいる世界って、剣と魔法のファンタジーってことだよな?」
「無視したわね……。まあ、いいです。えーっとね、まず剣と魔法じゃないし、ファンタジーでもないわ」
事務机の上に空になった丼が6つ重ねられ、その横には湯気が踊るお茶が置かれている。
俺はその湯飲みをひとつ手に取りながら、「どういうこと?」と質問した。
「まずね、剣は対人なら意味があるけど、魔物には効かないのよ。魔物を退治するには、魔法で倒さないといけないの。結果、対人でも剣術は廃れていて、実践的な魔術が重視の戦いになるわ」
「ほうほう」
「それから、あなたの言うファンタジーって、あなたの世界で言う中世ヨーロッパ風だと思うけど、残念ながらどちらかというとサイバーパンクな感じの世界よ」
「ほうほう」
「なんかモヒカンの暴徒が、魔法のスティック片手に、改造バイクに乗っちゃっていたりしてね」
「シュール……」
「でも、不思議なのよね」
「ん? なにが?」
「だって、荒廃した世界で、床屋もなく、整髪料も手に入りにくそうなのに、どうやってあの手間のかかるきれいなモヒカンを維持しているのかしらね」
「そういう制作者が困りそうな疑問はもつなよ……」
「とにかく文明はかなり壊れちゃって、地方はかなり文化レベル低いのです」
「言葉とかは?」
「ああ。大丈夫よ。異世界神協調委員会での言語統一プロジェクトは進めているから、ほとんど日本語が通用するはずよ。それにあなたは転移ではなく転生なので、向こうの知識が入った体を用意してあげる。年齢は今より少し若いぐらいがいいかな?」
「じゃあ、まあ、そんな感じで」
「他に知りたいことは?」
そう言いながら、女神がお茶をすする。
シュールな絵画だが、もう先ほどのかつ丼をかっ込む姿を見てしまったあとでは大して感じる物はない。
「ああ、大事なこと。なんか俺、特殊能力とかもらえるの?」
「……いわゆるチート的な能力、欲しいの?」
「俺ってただのプロゲーマーだよ? 格闘ゲームの世界ではナンバーワンと呼ばれているけど」
「まあ、そうよね。ナンバーワンとか言っても、プロゲーマーなんて、ただのニートやヒキコモリでしょうし」
「あんたは今、全世界のプロゲーマーを敵に回した……」
俺の言葉に、女神が鼻で笑う。
「は~ん? たかがゲーマーが何を言うのよ。プロとか言っても、大した稼ぎもないのでしょう?」
「5000万」
「……ん? なにが?」
あまりこういうことは言いたくないが、この女神に現実を教えてやらなければならない。
だから、はっきりと言ってやる。
「この1年、俺がプロゲーマーとして手に入れた賞金額。収入としては、コラムの執筆料に、CMや講演会の出演料が別にある」
「…………」
「…………」
「……ボク、男の娘だけどいい?」
「何がだよ!! ってか、いきなり素になるな! 女神キャラどこいった!」
「だってぇ~……かつ丼、何杯食べられる?」
「今まで生きてきて、プロゲーマーの収入をかつ丼換算する奴は初めてだよ!!」
「いやいや。もう、あなたは死んでいるし」
「うっせー!」
いまだに俺はチート的な能力をもらえていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます