第22話:女神と姉
とりあえず、この3人で異世界を旅することは確定となった。
まあ、3人パーティーだが、異世界に詳しい女神もいる。
向こうでの行動も特に問題ないだろう。
俺と女神は、改めてコタツをだしてもらって、そこでヌクヌクとしながら現地入りした時のことについて相談をしはじめた。
ちなみに拳士は、カラオケルームに入って1人で熱唱しているので放置することにした。
「それで現地の金……生活費とかはどうするんだ?」
「はい。一応、わたくしの手元に魔法の宝石類がありますので、それを現地で換金すればよいかと。しばらくは生活できるぐらいの資金にはなるでしょう」
意外にちゃんと考えている女神に、俺は内心で驚く。
ただ、俺たちの目的は、魔獣王を倒すこと。生活費稼ぎなど時間をかけたくないので、節約できるところは節約したい。
「たとえばさ……あんたは女神様なのだから、現地では教会みたいのがあれば、泊めてもらえば安上がりになるんじゃないか?」
「ええ、教会はありますよ。ただ、それはやめた方がいいですね」
女神が少し顔を曇らす。
「わたくしたちの正体がばれるのは好ましくないでしょう。ただでさえ、魔獣使いは
「へぇー。そうなんだ……って、ちょっと待て。魔獣使い? なに、その新ワード?」
今まで出てこなかった不吉なワード。
人を手当たり次第に襲う魔獣だというのに、「魔獣使い」だと?
「あれ? ご説明していませんでしたっけ?」
「ご説明いただいておりませんが?」
「あら♥」
「あら……って、かわいらしく言ってもダメ」
「かわいいだなんて♥」
「……くすぐりの刑に処す」
「す、すいません! それだけはご勘弁を! ちゃんとご説明いたします!」
女神の狼狽え方が面白いので、またくすぐりたくなる。が、話が反れすぎるので我慢する。
「えーっとですね。あちらには邪教の術を使って魔獣を操り、好き勝手に暴れている奴がいるんですよ」
「邪教……ってなにを崇めているの?」
「大変、申し上げにくいのですが……わたくしの姉に当たるもう1人の女神です」
「あ、姉!? また新ワードが……今さら、そんな新設定をだしてくるなよ!」
「てへ♥」
舌をペロッとだして、自分で頭を叩いてみせる女神。自分のかわいさを充分に発揮しようとする小賢しさがむしろ腹立たしい。
「玉潰しの刑にするか……」
「――やめて! ボク、逝っちゃう♥」
かるく頬を紅潮させる女神。
俺はため息をついてから、なにも観なかったことにして話を進めさせる。
「……で、そのお姉ちゃん女神はなんなんだよ」
「なんかわたくしたちの会話で、スルーって普通になってきましたよね。阿吽の呼吸というやつですかね?」
「……で、そのお姉ちゃん女神はなんなんだよ」
「冷たいリピート! ……まあいいです。えーっとですね、もともとわたくしの世界は2人の女神によって支えていたのですが、姉がとち狂い『リセットして作り直す』とか言いだしまして」
「そりゃまたなんで?」
「さあ? マイン○ラフトとかいうゲームにはまっていたからかも?」
「……聞かなきゃよかった」
「とにかく姉は、世界の維持に興味をなくしました。そのせいでわたくしの世界は繁栄の力を失い、どんどん廃れていってしまったのです。一方で姉にはどうやら魔獣を操る力がありまして、姉を信奉する人間にその力が与えられてしまったのです。それが魔獣使いと言われる者たちです」
「じゃあ、その魔獣使いの目的は、やはり世界の破壊?」
「はい。たぶん姉、そして魔獣使いたちも、今の世界が嫌いなのでしょう」
「……ん? ちょっと待てよ!? もしかして、魔獣王を呼びこんだのって……」
「ダーリンは妙に勘がいいですね……」
俺の推測と女神も同じ事を考えていたのだろう。
目許に陰りを作りながら、口許は痛みに耐えるように強く結ばれている。
初めて見る女神の表情。
俺は思わず言葉を失う。
肉親に裏切られ、大事に守ってきた世界を、自分の子供たる人間を奪われる。
その気持ちを考えるといたたまれない。
「もし……」
女神が重々しく口を動かす。
「もし、魔獣王を呼びこんだのが姉ならば……」
「…………」
「姉ならば……全裸磔の上、くすぐり20年間の刑に処す!」
「……ひと思いに殺された方が楽そうだな」
よほどくすぐりの刑が辛かったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます