第32話:女神とお姉様
「ブッ……フウウウゥゥッ!! ふんどしって!!」
「いいかげん笑うのやめんか!」
未だに思いだした様に笑いだす女神のせいで、なかなかまじめな作戦会議が始められない。
敵が時間稼ぎをしているというなら、なるべく早めに異世界に行くべきだ。
それなのに、この腐れ女神にはまったく危機感がない。
またリュウさんに元勇者の力を使ってもらい、今度は猿ぐつわでもかましてもらおうか。
「だって、あのお姉様がふんどしって……ブッフウウウゥゥッ!!」
「ん? なんだ、お姉様と呼ぶのか……」
「……あっ。え、ええ……まあ……いろいろありまして……」
なぜかやましい顔で目をそらす女神。
……あれ?
なにこれ。また嫌な予感がする。
「まあ、そんなことより、みんなでフンドシした女神の想像図でも描いて楽しみませんか?」
「なんでだよ! そんなことより、他にやることがあるだろうが!」
そんな絵を並べられたら、むしろ哀しみの地獄絵図である。
「とにかく情報が欲しい。だいたい、憤怒神ナイティヤってどういう女神なんだ? 人間が女神の怒りに触れたってどいうことだよ?」
「ああ、お姉さ……姉ですか。姉は憤怒神ナイティヤなどと呼ばれていますが……ふんどしんないてぃや……フンドシナイティーや……ブッフウウウゥゥッ!!」
「――おいっ!」
自分の言葉で思い出し笑いを始めるルビス。
その笑いは止まらない。
「フンドシナイティー……フンドシナイティー……も、もうおかしくて、腹よじれる!!」
やはりこいつは猿ぐつわしておくか……そう思った瞬間だった。
腹の奥底から響くような、音ではない声が響く。
――いい加減に笑うのやめなさい、バカステイ!!!
それは、張りのある女性の声だった。
だが、やはり耳から聞こえた音とは思えない。
「まさか……お姉様!?」
ルビス……いや、女神ステイシヤの言葉に、俺はヤバイと身構える。
お姉様――すなわち元創造神で、現憤怒神であるナイティヤだ。
まさか雑魚や四天王っぽいの、さらに表向きのボスである魔獣王の登場まですべてキャンセルして、いきなり黒幕が登場するとは思いもしなかった。
「い、いったいどこから!?」
――フフフ。内緒よ。どうやら時間軸操作の魔方陣は見つけられたようだけど、この盗聴用の魔方陣を見つけることは、あなたの探知能力では無理でしょう。
盗聴と言い切ったよ、この姉女神。
犯罪行為だぞ、それ。
「くっ……。さすがお姉様」
――フフフ。それから、あなたが漬けていた梅酒1瓶とキュウリの漬物を少しいただいておいたわ。
「な、なんですって!?」
女神が慌てて床に手を当てる。
すると60センチ四方の床が消えて、空間が現れる。
そこにあるのは、梅がたっぷり入った細長い瓶と、糠味噌を入れてあるらしい樽だった。
なんで通称「魂の間」みたいなところに床下収納があるのだ?
「ああ! 梅酒の瓶が1本ない! それに糠味噌も掘られてるし! いつの間に!」
糠味噌の樽の蓋を開けたルビスは愕然とする。
――フフフ。今、キュウリをつまみに、梅酒をいただいているわ。何の才能もない貴方だけど、本当に梅酒と漬物は絶品ね。
「なんてことを……。でも、底の方に白菜も漬けていたことに気がつかなかったのね、お姉様」
――なっ! なんですって!? あなた、白菜まで漬けていたの!?
「ええ。お姉様が大好きだと言っていた白菜。質がいい物が入ったので。たぶん、もう食べ頃よ」
――くっ。それはしくじりましたわ。でも、キュウリも美味しいので追加しておきなさい!
「いいでしょう! 今度は白菜ももっていく事ね!」
――あら、挑戦的ね。なら、梅酒も追加しておいてね!
「わかったわ! 梅酒は日本酒で漬ければいいのかしら!?」
――それでお願い!
「任しておいて!」
「――仲良しか!!」
たぶん、俺は人類史上初、女神2人にツッコミをいれた男になった。
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