第33話:女神と逆鱗
とりあえず、敵の女神もこの様子だとアホである。
だが、まだ確定ではない。
ともかく、盗聴用の魔方陣のありかを確認しなければならないだろう。
しかし、ルビスこと女神ステイシヤが探しても見つからなかったのだから、探すのは困難が予想される。
また同時に、どこまで聞かれたのかを慎重に確認しなければならない。
女神ステイシヤが自分の世界に降臨することや、仮の名前「ルビス」がバレているなら、いろいろとまずいことになる。
とりあえず、ルビスというのは使わないようにしなければならない。できるなら、誰の名前もださないようにするべきだ。
「女神ステイシヤ殿、ちょっとお尋ねしたいのですが……」
俺がどう攻めるか悩んでいると、リュウがステイシヤの方により小声で質問する。
「糠味噌というのは毎日、手入れをしなければならないのでは?」
その質問に、ステイシヤはきょとんとした顔でうなずいた。
「ええ、そうです。実は糠漬けを作るのが趣味で、コッソリとダーリンが来てからも目を盗んで毎日、混ぜていました。白菜がつけ終わったら食べさせて、ダーリンを驚かせようと思って……」
うん。それは食べなくても、趣味が意外すぎて驚いた。
「ということは毎日、糠床をチェックしているということ。つまり最後に混ぜた後、梅酒とキュウリが奪われた事になる」
なんか元勇者が探偵みたくなっている。
「だが、あなたたちは外にでてない。そんな中、犯人はどうやってとったのか」
探偵リュウが床下収納に近寄る。
そして軽々と糠樽を持ちあげた。
そこに現れたのは、赤く光るなんらかの魔方陣。
「あった……」
――しまったわ! 盗聴用件床下収納物転送用魔方陣がバレるなんて!
狼狽するナイティヤの声。
よし! いける!
こいつアホだ!
「ま、まさか……お姉様、いつの間にこんな所に」
――フフフ。あなたが、お忍びで日本の女装男子忘年オフ会に行っている最中に忍びこんでおいたのよ。
「ちょっ! ば、ばらさないでよ、お姉様!」
何に参加しているんだ、このアホ女神。
――フフフ。本当のことなんだから、照れなくてもいいではないですか。
「くっ……ならお姉様の秘密もばらしてやる!」
――え?
「ボク、知っているんだからね! お姉様がアイドルファンクラブのSNSで、自分のハンドル名を適当に『タコなしタコ焼き』とつけていたもんだから、オフ会に参加した時に会場で、みんなから『タコなしさん』とか『タコ焼きさん』とか呼ばれて顔面炎上したんだよね!」
――きゃああああああぁぁっ!!!
阿鼻叫喚。
これは酷い。かなりヒットポイントを削ったな。
しかしな、黒歴史はあまりいじらないでやってくれ。
俺にだって覚えがあるから、ナイティヤの痛みがすごくわかるぞ。
うむ。
ここは少し慰める方向で攻めるか。
「まあまあ、ナイティヤさん。そんなに気にしないでいいですよ。俺も似たような経験あるから笑いませんし」
――え?
「アレですよね。きっとハンドル名をつける時に、タコ焼き食べながらつけていて、たまたまタコが入っていないタコ焼きがあったから、それでついそうしちゃっただけなんですよね」
――そ、そうなのよ! まさにそう!
「わかりますよ、わかります。俺も似たようなことをしたことがあるから。よくあるミスですし、ドンマイですよ」
――……あなた、いい人ね。お名前は?
「え? ……ああ……名のるほどのものではありません。ただ、俺はあなたの傷を癒したかっただけなんです」
――す……素敵♥
あからさまに、傷ついたところに優しい言葉。
名前を聞かれても答えるわけにはいかないので、定番のごまかし。
それでも通じるのは、やはり姉。思った通り、チョロい。
ちなみに、実はステイシヤがすごい顔で、先ほどからこちらを見ている。
まあ、たぶんヤキモチを焼いているのだろう。
それに対して俺は、ジェスチャーで黙っているように指示をした。
リュウも意図をくんでくれたのか、ステイシヤの肩に手を置き、喰いかかろうとするところを留めてくれていた。
「ところで、この盗聴の魔方陣とかすごいですね」
――え? ああ、それね。フフフ。すごいでしょう?
「忘年会の時につけて、ずっと聞いていたんですか?」
俺が死んだのは1月だ。
すなわち、俺が来る前に設置していたことになる。
そうなれば、話は全て聞かれていただろう。
――フフフ。そうよ。でもね、あまり上手くいかなかったわ。
「え? どうしてです?」
――フフフ。それはね、その空間の時間を遅くしちゃったら、盗聴した音が1音とどくのに何ヶ月もかかって、何を言っているのかよくわからなくなっちゃったのよ。
ナイス、アホ!
これはいいアホだ!
「じゃあ、どこから聞いていたんです?」
――フフフ。実はうまく聞こえないから、魔方陣のことをスッカリ忘れちゃっていてね。さっき貴方たち、時間軸変移魔方陣を壊したでしょう? それで思いだしたのよ。
「じゃあ、ついさっきですか?」
――フフフ。そうよ。まずは、梅酒とキュウリをもらって、それを食べる準備をしてから盗聴したわけ。そうしたら、ステイシヤの声で「だって、あのお姉様がふんどしって……ブッフウウウゥゥッ!!」とかふざけたことが聞こえてくるじゃない。
よし!
なにも聞いてないぞ!
もちろん、普通なら敵の言ったことをそのまま信じたりはしないが、俺にはわかる。
絶対に罠じゃない。
ステイシヤの姉だし、そもそも元女神だからなのか本質的に強い悪意は感じない。
むろん、世界を滅ぼそうとしているということを考えれば、人間からは悪意と取れるだろう。
しかし、人間の命を軽視しているかもしれないが、それは悪意ではなく神という存在にはありがちなことだと聞いたことがある。
実際には仏教やキリスト教のような、命の尊さを謳う神ばかりではないのだ。
特に「創造神」ともなれば、人間や世界は自分が生みだした作品ぐらいの感覚をもっている者もいるらしい。
それはある意味でまちがいではなく、ならば気に入らない作品をリセットするというのも、別に悪意もないのだろう。
悪意で世界をリセットしようとしているわけではない。
なにか理由がある。
逆に言えば、理由がなくなれば行為もなくなる。
「ナイティヤ様は、なんで自分たちが創った世界をリセットしたいんですか?」
俺の質問に、少し間が空く。
そして質問に質問が返ってくる。
――ステイシヤからは何も聞いていないの?
「えーっと、『マイン○ラフトにでもはまって、世界を作り直して遊びたくなったのではないか』みたいな……」
――そんなわけないでしょう。本当にアホな子になってしまったわね、ステイシヤ。
おっとヤバイ。
そんなことを言ったら、ステイシヤがキレる……と思ったら余計な心配だった。
すでにステイシヤを抑えることはできなかったのか、またリュウの力で芋虫状態にされた上、口には猿ぐつわを咥えさせられていた。
よしよし、さすが元覚醒勇者。手際がよい。
ってか、よく考えてみると覚醒勇者、半端ないな。
神という存在さえ押さえ込めるのか。
――私が世界を作り替えたい理由はね……人間たちが私の逆鱗に触れたからなのよ。
女神……いや、憤怒神ナイティヤの声は、音ではないのに怒りに打ちふるえるかのようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます