第19話:女神とキャラ追加
「――で、そのぶつ切り豚足……じゃなかった、物理法則を無視というのはどういうことなんだ?」
すっかりこの場の進行役となってしまった俺は、説明をうながした。
ちなみにいまだカラオケボックスの中で話しており、目の前にはご丁寧にピッチャーでウーロン茶が置かれている。
俺の横でそれをコップに注いで一口飲んだ女神が、まったくかけらもない胸を張り、鼻息も荒く開口した。
「はい、実は…………よくわかりません!」
「そうか」
「えっ!? ダーリンったら反応が淡白!? もう男として枯れた!?」
「枯れてねーよ! ……ただ、そんな気がしていたからな」
そろそろコイツのボケにも耐性がついてきた。
すべてにツッコミを入れていては俺の体力がもたない。
スルーできるものは、スルーしていくに限る。
「うぐっ……突っ込まれたかったのに……」
「その言い方は、なんか語弊があるからやめろ」
「えー。ボクなんのことだかわかんなーい♥」
「むかつくわー……」
あれ?
結局、ツッコミを入れさせられている気がする。
「えーっと。ダーリンが脱線させるので、話を戻しますね」
「――ちょっ! おまいう!?」
「まず、わかっていることは、たぶん拳士さんの能力は速度に関わることではないかということです」
スルー返しした!
しかも、華麗にスルーした!
女神のくせに生意気な!
「たとえば、拳士さんは『ありえない速さ』で間合いを詰めるとか、『ありえない速さ』で突きをくりだすとか……そんな感じのことができるのではないかと推測しています」
女神は、目の前に座る女拳士にそう語りかけた。
しかし、それを聞いても彼女は、童顔をゆがめて首をひねる。
「……それはどういうことだ? たとえば我は光速で移動ができるということか?」
「正直なところ、私が与えた勇者因子ではないので詳しくはわからないのですが、どちらかというと光速移動というより瞬間移動……空間転移? 事象改変? ……うーん、まあ、瞬間移動でいいですかね。ともかくそんな感じではないかと」
「よくわからんが瞬間移動とは、またすごい能力だな! それで!? それでそれは、どうやればできるのだ!?」
テーブルに両手をつき、拳士は体を前のめりにして女神に迫った。
体にそぐわぬ大きな胸が、道着の下で揺れ動く。
その勢いに押されて、女神は上半身を引く。
「あ……いえ……だからそれはわからないと……」
「――なにぃっ!?」
「――ひいいいぃぃっ! だだだだっ、だから、え、えーっと……は、速く動こうとすればいいんじゃないですか~なんてね?」
「――なにぃっ!? そんなことは今までもやっとるぞ!」
「――ひいいいぃぃっ!」
――スパンッ!
「少し落ち着け」
仕方なく、拳士の頭をかるくはたいた。
むろん、ツッコミレベルなので痛みなど感じないレベルである。
しかし、そのツッコミに拳士がまた、もともと丸い目をさらに真ん丸にする。
「な、なぜだ……なぜ貴殿のそのツッコミに反応することが出来ぬのだ……。どうしても……わかっていても喰らってしまう。我に一撃を入れられるものなど、数えるほどしかいないぞ!?」
「だから、プロゲーマーの動きを舐めるなと言ったろう」
「そ、そんなにすごいのか、プロゲーマー……」
「ならば教えてやろう。伝説のプロゲーマーになると、炎を上げるぐらい手を激しく往復させてジョイスティックを動かすことで、ゲーム機を狂わせて自キャラを消したり、腕をすり合わせるだけで電撃を生みだしコンピューターを操ったり、全宇宙のエネルギーを身体に蓄えて精神波として放出することでゲームをクリアしたりすることができるのだよ!」
「なっなっ……なんとっ! それはすごいな!」
「……ダーリン。それ、本当にできたら、凄まじくチートではないですか?」
「偉大なる伝説の技の数々をそんな一言で片付けるな。コ○コ○コミックに謝れ! ……まあ、それはともかく。『ありえない速さ』のやり方がわからないのなら、結局は使えないということか」
「いいえ、いいえ、お代官様。実は耳寄りな話があるのでございますよ。ほっほっほっ」
女神の顔が目も口も弓なりで、ニタ~ッと歪む。
絶対、この顔はなんか企んでいる顔である。
「誰がお代官様だ……」
「ここは、この越後屋にお任せを……」
わざわざ声色まで作って芝居している女神。
どうやら、時代劇も好きらしい。
「任せたくねー……けど、なんだよ?」
「ちょっと思いついたことがあるので、ウツコンを出してください!」
「……はい? ウツコンってなんだよ?」
俺が首をかしげると、女神はなぜわからないのかと不服そうな顔をする。
「もう! 『ウツコン』と言ったら、『美しき女神のコントローラー』のことに決まっているじゃないですかぁ~」
「わかるかぁ! 『鬱病コントローラー』みたいじゃねーかよ!」
「なら『ウメコン』で!」
「それじゃ『梅昆布』みたいじゃねーか! お茶か!? 梅昆布茶か!? 単なるメガコンでいいだろうが!」
メガコン、つまり俺の異能力で出すコントローラーのことだ。
なんかドタバタといろいろあったせいで、そんな能力をもらったことをすっかり忘れていた俺だが、とりあえず言われたままに出してみることにする。
コインは、あらかじめ何枚か作って持っていたので、それを1枚だけポケットから出す。
「インサート・コイン!」
虚空に現れた投入口にコインをいれる。
すると現れるコントローラー。
俺は女神に言われるまま、「キャラクター・セレクト」まで行う。
だが、そこで前回と違うところが1つあった。
「あれ? 新しいセレクトカーソルができている?」
コントローラーの上には、キャラクターセレクトボタン代わりに、女神の顔のアイコンが1つ浮いている。
そしてその隣に、女神の背中に突き刺したのと同じセレクトカーソルがまたできていたのだ。
「これ……もしかして、キャラ1人だけじゃなかったの?」
「時間が経つと追加されるのですよ! ほら、
「な、なるほど……って……まさか!?」
「はい! 拳士さんもダーリンのキャラクターにしちゃいましょう!」
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