第9話:女神と転生
「ダ、ダーリンったら……激しい♥」
俺の攻めに、女神は色っぽくたじろぐ。
しかし、俺は攻める手を休めない。
「だ、だめよ……そんなに攻めたてちゃ……」
どんなに色っぽい声をあげても俺は容赦しない。
「ああん♥ そんな……ボク、壊れちゃう……ちょっと……ちょっと待ってよ! 少しは手加減して! 大人げないよ、ダーリン!」
「バーカ者。俺の辞書に接待プレイなどないのだ。ほれ、スペシャルコンボ!」
「ああ! また負けた! ……とうとう50連敗!」
「ふっ。半分も本気は出していないけどな。そもそも格ゲーなら、ゲームパッドではなく、ジョイスティックではないと」
「え? ボ、ボクのジョイスティック……握る?」
「なんとなく嫌な言いまわしなので遠慮しておく」
俺は、女神が用意した格闘ゲームをコタツに入りながら遊んでいた。
俺が「ゲームやりたいな」とボソッとつぶやいたら、女神がヒョイヒョイと出してくれたのである。
六畳一間にしては大きめの55インチのテレビが設置され、そこには1台のゲーム機がつながれていた。
「しかし、女神よ」
「なんだね、ダーリンや」
「このゲーム機……Nantendo Swatchって人気でなかなか手に入らないゲーム機じゃないか」
「フフフ。すごいでしょう!」
鼻高々である。
「俺も欲しかったけど、予約に失敗して手に入らなかったんだよな。どうやって手にいれたんだ?」
「女神の外交特権をちょっと使いました」
「……権力の使い方、まちがっているぞ」
「ちなみにゲームソフトは懸賞で当てたわ」
「すごいな」
「スキル【女神の幸運】を使って!」
「だから、私利を捨てろ」
「え!? 尻を捨てろ!? そ、それは確かにまだ……」
「そんなこと言っとらんわ! ゲームを手にいれるのにスキルまで使うなと」
「ああ、もちろんスキルだけじゃありません。たとえば、さらにゲーム機本体を買い占めて転売で儲け、それで新しいゲームソフトを買わせていただきました!」
「うわああぁっ! こんちくしょう! あんたみたいなのがいるから、俺のような買えない難民が出るんだ!」
なんとこの女神、転売屋である。
「許せん……転売女神に罰を与えん!」
「……へ? ちょ、ちょっと……ま、待って……い、いや……いやああぁぁぁ!!」
とりあえず、3分ほどくすぐり地獄の刑に処した。
すっかりヘロヘロになった女神のジャージ姿作りが完成した。
ちょっとおへそが見えちゃったり、ズボンが半分ずれ落ちてブルマが見えちゃったりして、妙に色っぽい気がするのだが、きっと気のせいだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ……ダ、ダーリン……もうダメ……」
「これに懲りたら、買い占めなどしないことだな。次やったら、SNSで晒す」
「ああ……それはやめて……炎上怖い……女神に鎮火スキルないの……」
どうやらこの女神、SNSもやっているらしい。
「誰だよ、こいつを女神にしたヤツ」
ああ。そう言えば、この女神の素姓がわからん。
いったい、どういう女神なんだろうか、コイツは。
そもそもどうして、女神のくせに男なのかもわからない。
しかも、本人は女の子モード。
面倒くさいったらありゃしない。
「……おや? わたくしが、どうしてこんなにかわいい男の娘女神なのか、気になって仕方ないようですね」
「いや、かわいいは余計だが、概ねそんな感じだ」
「よろしい。それではわたくしの女神伝説を特別に、本当に特別にお教えしましょう」
「恩着せがましいが、とりあえず言ってみろ」
コタツでヌクヌクとしながら、女神伝説が語られることになった。
「わたくしは……いくつぐらいに見えますか?」
「え? どうせ見た目と違うんだろうけど……」
俺は改めて女神を見る。
銀の長髪に飾られた丸顔は、美しいながらも幼さが残っている。
「16……17ぐらい?」
「ふふふ。若く見えるでしょう? 実は、18です」
「大差なく見たまんまかよ! ってか、若いな、おい!」
「はい。実はわたくし、2代目なのです」
「……え?」
「わたくしも転生しているのですよ」
また予想外にまじめな話の予感がする。
いや、今までもこれで裏切られてきたし、いつオチが来てもいいように構えておかなければならない。
「原初、わたくしは見た目こそ女性っぽい感じで偶像が作られていましたが、もともと両性具有の神でした」
「ああ、俺の世界にもそういう神様はいるな」
「はい。男性と女性、片方だけでは不完全。そろって初めて完全。神は完全なので両性具有という理論ですが、まあわたくしもそんな感じでした」
「ふむふむ」
「しかし、その信仰がある時、異世界……あなたの世界と繋がったことにより変わってしまったのです」
「え? 俺の世界と?」
「はい。その時はまだ不完全なつながりでして、有機物の転移はなかったのですが、無機物がたまに漂流物として流れてくることがありました。そのある無機物をわたくしの敬虔で優秀な信者の1人が拾ってしまったのです。その信者は、それを見ると衝撃を受け、神からの啓示だと考えて独自の宗派を生みだしたのです」
「そ、その無機物とは?」
「それはタイヤのついた鞄に入っていた、大量の本でした。たくさんの真新しい薄い本と、数冊の読み込まれた厚い本だったといいます」
「ふむふむ」
「内容は、あなたの世界の漫画や小説でした。テーマはすべて一緒で、『男の娘』について書かれたものでした……」
「え……」
「しかも、かなりいかがわしい内容だったようです。そりゃもう、18禁まっしぐらな……」
「…………」
「わたくしはそれを見たことありませんが、『プ○ナス・ガール』」とか『おめでとう! 俺は美少女に○○した!』とか……そんないかがわしいのだと聞き及んでいます。それに影響された信者が教祖となり、もともと両性具有だったわたくしを『見た目は女の子だけど、実は男の女神って萌え』という理由で、伝承を書き換えてしまったのです」
「情報操作、怖いな……」
「拾われた本は聖典とされ、多くの信者をあつめて。いつの間にか一大派閥【
「あんたの世界の人類、自分たちの首を絞めたな……」
「賛美歌も作られました――
かわいい正義♪ かわいい正義♪
萌え萌え♪ 萌え萌え♪
胸がない♪
萌え萌え♪ 萌え萌え♪
アレがある♪
だけどかわいい♪
だからかわいい♪
我らが男の女神よ♪
――神ですが死にたくなりました」
「俺、初めてあんたに同情したわ……なんか……俺の世界の文化がごめんな」
「謝らないでくださいよ! よけい惨めになります! ……でも、まだ抵抗していたんですよ、その時のわたくしは。しかし、さらに事件が起きます。それが約20年前です。」
「……あ、まさか!」
「はい。魔物が大量発生したのです。原因は、魔獣王と呼ばれる存在が現れたからです。それも、あなたの世界から現れた災厄でした」
「なんか本当に俺の世界が迷惑かけてすまない……」
「まあ、それも運命というものなのでしょう。もちろん、わたくしはその魔獣王を倒そうと、異世界からの転生者たちとがんばったのですが、1年間ほど戦った後に倒されてしまいました」
「え? 直接、戦って勝てないの? そんな強いの?」
「強いことは強いのですが、それよりもなによりも異世界の存在に対し、わたくしの力では相性が悪いようなのです」
「そういうものなのか。……ああ、だから俺たちの世界から転生させてるのか?」
「ええ。転生でも異世界の魂が入っていれば、魔力の質に変化が出ます。魔獣王と同じ性質が含まれることで、強く影響を及ぼすことができるのです」
「実は意外にまともな理由だった……」
「もちろんですよ。そうでなければ、異世界神管理委員会で転生の承認が認められませんから。手続きの書類の提出、大変なんですよ! 判子、いっぱい必要だし!」
「異世界の神々、意外にお役所的だな……」
「わたくしは倒されてしまった後、再生するためにこの空間に戻りました。そして考えたのです。今度は勇者をじっくり育てようと。今まで強すぎる能力を与えたことで、転生者は調子に乗って、すぐに魔獣王に戦いを挑んでしまいました。しかし、所詮は素人。戦いになれておらず、そこをつかれたのも敗因だったのです」
「……あんた、そんなに思慮深かったのか!?」
「ええ、1年かけて完全に再生するまでは」
「え?」
「再生とはつまり、生まれ変わり。すなわち転生だったのですが、神が生まれるのに必要なのは信仰心です」
「あっ、もしかして……」
「ダーリンは本当に勘がいいですね。……そうです、その時に今まで抵抗していた【
「それでこんなダメな感じに……」
「ダメ言わないでください……」
「可哀想な感じに……」
「可哀想言わないでください!」
「男の娘属性が強く表れたのも?」
「はい。そういうことです。まあ、別に性別は自由に変えられるんですけどね」
「え? 女性の体にもなれるの? なればいいじゃん」
「一時的になるだけなら問題ないんですけどね。ずっと女体は、信仰心が邪魔するんです。『心は女の子だけど体が男の子。そこに苦悩する。だがそれがいい』と、祈る信者の声が聞こえてくるのです」
「俺が異世界に行って倒すべきは、その信者たちじゃないのか?」
「や、やめてくださいね! 原理主義派もいますが、ものすごい少数派なんです。今、【
「手遅れ感満載。末期だな……」
「えっへん!」
「褒めてねーよ! 」
「まあ、でもこうしてダーリンとも出逢えたわけですし!」
「不幸な出遭いだ……」
「ちょっ、ちょっとダーリン!? ひどいっちゃ! 電撃あびせるっちゃ!」
「なんでいきなりラ○ちゃんになる!」
「ダーリンが望むなら、女体化してもいいっちゃよ?」
「やめて。マジやめて……」
「あれ? なーんだ、ダーリンも男の娘が好きだったちゃね?」
「違うわ!!」
理由を尋ねられるが、それを言うわけにはいかない。
さすがに女の子になった女神と2人きりでは、絶対に自制心が保てないと思っているなど。
こればかりは、絶対にバレるわけにはいかない。
俺は解脱するため、心で般若心経を唱え始めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます