第37話:女神と喩え
――フフフ。それでは要求を言いなさい、魔王よ。
「誰が魔王だ! 立ち位置的には、あんたが魔王だろうが!」
ナイティヤのとんでもない言いがかりに、俺はツッコミを入れる。
しかし、返ってきたのはどこか冷淡な言葉。
――先ほどまでの言動を見れば、どう考えてもあなたが外道魔王です。
「…………」
そう言われると、強く否定できない俺がいる。
あれ? 横でリアンとリュウが同時にうなずいている?
そんなジト目で見なくても……。
くそっ。世界の為なのに……。
まあ、ちょっと悪乗りしちゃったけど。
――ああ、本当になんという外道なのでしょうか。私のステイシヤを縛っていいように弄ぶなんて!
嫌悪感をたっぷりと滲ませて、ナイティヤの言葉が響いてくる。
――恥を知りなさい! 貴方の外道っぷりを喩えるなら、醤油のはいったオレンジジュースか、塩のはいったコーヒーですよ! わかりますか!?
「わからんわ! どういう喩えだ、それ!?」
――取り返しがつかないまずさと言うことです! これ、本当にまずいんですよ!
「やったことあるんかい!」
――オェ~しそうになりますよ?
「女神が『オェ~』とか言うな! ってか、なんで混ぜた!?」
――フフフ。私は創造の女神、可能性の探究者。世界は、私の実験場!
ナイティヤの声が雄々しく広がる。
――世のあらゆる物を掛けあわせ、新しい物を生みだす! だからいつも、ドリンクバーではジュースをいろいろ混ぜて楽しむわ!
「世界のスケールがファミレスレベルかよ!」
この女神もやはり変態芋虫1号の姉だけあってボケかましである。
蛇足だが、変態芋虫2号はショーコだ。
彼女は身動きとれずにモゾモゾしているが、どこか楽しそうな気がするのは……気のせいだと思いたい。
そしてこの芋虫2匹は、俺の冒険の仲間だと言うことも夢だと思いたい。
そうだ。いっそうのこと夢落ちにしてくれないかな、この転生。
……ああ、わかっている。
悲しいけどこれ、現実なのよね。
俺は気を取り直して、ナイティヤに訴える。
「ともかくこちらの要求は、魔獣王の始末だ。暴走して制御できなくなっても、あんたなら斃せるんじゃないのか?」
――無理。
「欠片も悩まず答えたな!」
――フフフ。なぜなら制御できない時点で、ステイシヤと同じ状態になったのですから。ステイシヤが負けたように、私も勝てるわけがないではありませんか!
「なんで偉そうなんだよ! ……ところで、制御できなくなったのっていつごろ?」
――ご……5年前……。
でました。5年前です。
もうね、嫌な予感しかしません。
ってか、ここに来てから、いい予感なんてひとつもなかったけどね!
俺が思わず、リアンとリュウの顔を見ると、2人とも顔を顰めている。
やはり同じ事を感じているらしい。
ちなみに芋虫2匹は……まだそれぞれ悶えている。
なんか2人で並んで床をごろごろし始めたよ……。
競争している?
楽しそうで何よりだ。
……しくしく……。
……心が折れそう。
ああ、いかんいかん。
切り替え、切り替え。
俺は深呼吸をひとつして、ナイティヤへ用件の核心について迫る。
「で、あんたはその魔獣王をなんとかしようと、5年前になにかしたんだな?」
――うっ……なぜバレたのです!?
「なぜバレないと思ったのです?」
――くっ……屈辱。
「ってか、なんでその時点でステイシヤに相談しなかった? 魔獣王を何とかしたかったなら、その目的に関しては一緒で協力できたはずだろう?」
――じょ、冗談ではありません! そんなことできるわけがありません!
「なんで?」
――だ、だって、自分で呼びこんだ魔獣王で困っているなんて……恥ずかしいではないですか!
「……はい?」
――フフフ。姉としての面子があるのです!
「ねーよ! 妹と創った世界を滅ぼそうとしている時点で面子ねーよ! 理由からして欠片もねえよ! しかも結局、バレてんじゃんか!」
――ちっ……恥辱。
「まったく……。それで、ステイシヤに知られないうちになんとかしようとしたわけだ? その時間を作るために、ステイシヤの空間の時間をゆっくりとさせたと?」
――外道魔王……あ、あなた……もしかして、前世は探偵!? 喩えるなら、金田一耕助?
「その喩えはなんだよ! ……ただ職業柄、相手が何を考えているのか、どういうことをやろうとしているのか、そういうことを読み取るのが得意ではあるけどな」
もちろん、プロゲーマーとしての特技である。
特に対戦ゲームでは、敵のちょっとした動作の癖、攻めのパターン、さらには性格など、そういうのを瞬時に読み取り、駆け引きを行わなければならない。
そのために俺は、ゲームの中だけではなく、日常生活でも観察力を鍛えている。
たぶん、その成果なのだろう。俺は、周りの思考には敏感なようだった。
「それであんたは、5年前にどういう手を打ったんだ?」
――そ、それは……。
「それは?」
――ヒュ~♩ ヒュ~♩
「口笛、吹けてねー!」
ステイシヤと同じように、空気が口からもれるだけの音。
立体映像では、目線を斜め上にしてピンクの唇を尖らせている。
本人は一生懸命、ごまかしているつもりらしい。
「要するに言えない……ということは、失敗したのか」
――なっ!? ……外道魔王の前世は、シャーロック・ホームズ?
「ちげーよ!」
――では、コ○ン君?
「なんでだよ!」
――ドラ○もん?
「探偵じゃない上に、猫型ロボットだし!」
この女神たち、そろって本当に日本通である。
しかもレトロ趣味と来ている。
もし、俺が知らなかったらツッコミできなかったところだぞ。
「ともかく、どんな対策を5年前にしたんだよ?」
――フフフ。詳しくはウェブで。
「URLどこだ?」
――フフフ。ググレカス。
「よーし、いい度胸だ。覚悟はできてるんだろうな?」
――フフフ。ごめんなさい。
「なぜいちいち笑う!? いいから早く教えろ!」
――そっ、そうですね……。そう……喩えるなら、コーヒーを入れたのはいいけど、あまりにも苦かったので砂糖をドンドン投入していた人がいたのです。でも、苦みがなかなかとれないから、横からこっそりミルクをたっぷり入れたら入れすぎたみたいで、何を飲んでいるのやらカオス的な?
「喩えがカオスすぎてわかるか!」
――別の喩えで言うなら、与党が強すぎて、政界を牛耳る黒幕の言うことを聞かなくなったので、黒幕が野党に肩入れしたら、野党がいい気になりはじめて暴走して政権交代を狙ってきた的な?
「なんで政治の裏側で喩えるんだよ! ……ああ、あれか。要するに手がつけられない状態になってしまったのか?」
――そっ、そんなことないんだからね! ほ、本当なんだから!
どうやら正解らしい。
要するに、このフンドシ女神は世界を引っ掻き回してしまったということだ。
この5年の間に、何があったというのだろうか。
――と、とにかく、もうこうなったら協力体制を取ってあげないこともありません。こっちの世界の状況は、実際にこっちの世界にきてその目で確認するといいでしょう。フフフ。
「いや、『フフフ』じゃなく今、説明しろよ……」
――お……怒られそうで怖いし……。
「そこまでかよ……」
――私は自分の神殿にいますから、詳しくはそこで話しすることにしましょう。ステイシヤと白菜と梅酒は、そこで引き渡ししてもらうからね! それじゃまた!
「ちょっ、まっ――」
俺が止める前に、魔方陣が光を失う。
それどころか、魔方陣自体も自然に消え失せてしまった。
「これは……気の毒だけど行って確認するしかないようだね」
リュウがボソッとつぶやくように告げた。
「5年……父さんと母さん……無事かしら……」
リアンが不安をこめて呟いた。
――ゴロゴロゴロゴロゴロ……
芋虫2匹は、楽しそうに床を転がっていた。
…………。
ただただ、そこには喩えようのない異様な空気だけが漂っていた……。
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