相互評価とクラスタと
21.新人作家と幽霊と少年と、相互依頼DM(前)
「はは、せんせー可愛い……」
僕の家で玉野の作品について話し合ったり、web小説やSNSについて三人で話し合っていると夕方になっていた。
玉野は兄と二人暮らしをしているらしく、別に外で食べてきてもいいらしいし、せっかくなので、三人でファミレスに行くことにした。
玉野がドリンクバーを取りに行っているとき、ペペロンチーノをすすり始めた僕に向けて幽霊がそんな風に言ってきた。
「急にどうしたんだよ……男に可愛いなんて言っても良いことないよ。反応に困るだけだし……」
経験豊富そうな山野だったら別の答え方をしたかも知れないけれど。
僕にシャレタ答えを求めるのは酷なもんだ……どうせ女心なんて分かんない男ですよ。はい。
「ふふっ、そーいう素直なとこもだよ。最初の可愛いは、唐辛子を皿の隅にちょこちょこ除外しているところかな。苦手ならペペロンチーノ食べなきゃいいじゃん」
――別に苦手って訳じゃないんだけど、小さいころからのクセみたいなものなんだなぁ。
ふん、と机に顔を横向きに乗せて、だらんと短い髪の毛を落としている幽霊を見つめてみる。
幽霊は他人には『見えない』ので、食事をすると物が浮いているように見えてしまう。
だから、食事をすることもなく、さっきからその態勢のままだ。
よくよく見ると、自分で自分の髪を食べそうになっていたので、それを除けてやりながら……
「ふん……だったら結婚してくれよ」
「それはイヤ」
「難しいもんだ」
「長いこと女の子やってないからね」
互いにクスクス笑いあっていると……ポコン、と音が鳴った。
「えっえぇぇぇ!?」
玉野が驚いた声をあげながら、その場で尻もちをついてた。
ドリンクバー帰りだったので、コップの中身をぶちまけてしまっている。
「大丈夫か」
「ケガはない? 玉野くん」
「はっはい、ケガはしてなくて……」
そう玉野に手を差し出したが……僕らをよけようとした店員が、こけた。
「うっうわっ……すっすみません。あぁ、えっとどうしよ」
「あっ、君。居酒屋の」
僕らに巻き込まれて転んだ店員は山盛りのポテトを運んでいたらしく。僕らは塩と油で汚れてしまった。
その店員の顔を見ると……知っている顔だったので驚いた。山野と一緒によく行った居酒屋にいたアルバイトの大学生だ。
「あっあぁ、のっ登戸さん、申し訳ありません……今すぐ片づけを……」
「気にしないでいいよ、僕らも悪かったから」
バイト君が持ってきた布きんで、飛び散った料理などの片づけを手伝いながら……ふと、居酒屋で聞いたバイト君の近況を思い出した。
「そういえば、この前、別の仕事についたとか言っていたよね。それがファミレスってこと?」
「あぁ、いえ。今日やっているのは、臨時の手伝いみたいなもので……あの居酒屋とここって営業元が同じらしくて。んで、次つくのは流通関係です」
「……臨時の日にこんなことになって、ほんとごめん」
登戸さんのせいじゃないですよ、とバイト君に言われながら片付け終了。
バイト君は、すぐに仕事に戻った。夕方のこの時間はピークらしく、忙しそうだ。
再び椅子に座ろうと、立ち上がると……
「どうしたんだ、幽霊……体調悪いのか……?」
「いっいや、大丈夫だよ。平気平気、ちょっと疲れたみたい」
――幽霊がこんなこと言ってるの初めて聞いた……まぁ、そんな日もあるよな。
さっきまで元気だった彼女の表情が少し辛そうなものに変わっていた。
◆ ◆ ◆ ◆
さっきのお詫びだと、バイト君が運んできたポテト(山盛り)をつまむ。
ちょっと塩が効きすぎな気もするけど、ファミレスクオリティー感で好きだ……てか、ポテトの高級もクソもあるんだろうか、という話だけれど。
――まぁ、無料で食べるメシほどうまいものはないかもだな。
「もしや玉野はこれを狙ってコケタのか……なかなかの策士だな」
「そっそんなわけないじゃないですか。人を何だと思っているんですか……」
「…………」
――あれ、いつもの幽霊なら「あぁ、せんせー玉野くん、いじめてる~」とか言ってきそうなもんなんだけど……体調悪いならそんなもんか。
「じゃ、玉野はいきなりどうしてずっこけたんだよ。『何もないところでコケル』って、現実じゃ時々あるけど、小説では何かしら理由つけとくのがベターの雰囲気あるし、このままじゃ玉野のキャラが『何もないところでずっこけるキャラ』ってのになるぞ」
「どんなキャラですか……でも、そうですよね。真実は小説よりも奇なり的なあれですよね……」
「いや、玉野くん。せんせーが適当に言ったボケにマジレスしちゃダメだよ……」
幽霊がちょっと調子を戻し始めた感じだけど、よくよく見ると少し顔色が悪いようにも見える。そこそこ長いこと一緒にいるから、気づいたくらいの変化で。
――まぁ、『幽霊』って普通、顔色悪いイメージだけどな……
普通に生活してて、『浮いている』ことを除けば、『幽霊』って感じ全然しないんだよなぁ。
美少女とずっと暮らしていて、一人になる瞬間も少なく……いろいろ嬉しかったり、キツイなぁって思ったりすることもあるんですね! ほら、男子!
――あぁ、沈まれ俺の右手。
そんな生活もいつまで、続けられるんだろう。
『幽霊』に『寿命』ってあるのだろうか……と、僕は時々考えるのだった。
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