21.新人作家と幽霊と少年と、相互依頼DM(後)
「あっそうそう、玉野くんに言い忘れてたけど。TwetterのDMとか地下chには気を付けてね」
ワイワイと話をしている途中。
幽霊は僕を横目で見ながら、少し低いトーンでそういった。
「DMって、ダイレクトメッセージのことですよね。何かあるんですか……?」
「玉野くんのとこには来てないみたいだね……」
安心安心、と言いながら幽霊は僕の背中をこつついてきた。
――その話に触れていいってことか……
僕は自分のスマホを玉野に見えるように、机の上に置いてDMの画面を開いた。
「うぇっ……これは……」
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あなたの作品を評価させていただきました。
私の作品にも星入れてください。お願いします。
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「……『相互』の要請? みたいなものですか」
「みたいなものっていうか、その通りだな。実はこの前、こっそり僕もノベノベに短編を挙げてみたんだ。さっき、玉野がレビューくれたやつ」
「はい、面白かったですよ。星三つ付けようとしたら、間違えて一つにしちゃっててすみませんでした」
「あぁ、星付けるとき押しすぎると三つから一つに戻るってあれかぁ、幽霊がよく言ってた」
「でも、それが何か関係しているのですか?」
僕がスマホをスクロールしようとしたら、幽霊に先を越された。
「こっから先が凄いから。せんせーはもちろん断るんだけど」
「当たり前だろ。『結果としての相互評価』と『相互評価ありきの相互評価』はまったくもって別物だ」
「そうですよね。『口裏合わせて作品を読まずに評価ポイントを入れる』って完全な不正ですよね」
玉野が関心したように言った時、幽霊は水を差すように。
「さっきのせんせーの言葉、大半が私の言葉だけどね」
「おい、ネタバラシするな」
――せっかくカッコつけたのに。
僕は『小説投稿サイト』で小説を書いたことないから、実際のとこ玉野より『素人』で、まぁ、仕方ないけど。
……いや、この前、炎上した後こっそり試しに投稿してみたから、一応書いたことあるんだ。いきなり変な奴に絡まれるって運ないなぁ、僕。
えへへ、と笑いながら幽霊は、僕が言ったことを補足した。
「付け足すと、『評価をくれた人』とかって名前が分かるのね、ノベノベの場合。くろうだって、レビューや感想だと名前が分かること多いでしょ……」
くろうでも、評価者やブックマークしたアカウントの名前を探そうと思えば、外部サイトなどを経由して探せるらしい。
それは、作者だけが見えるわけではなく、第三者ももちろん見えるものだ。
「玉野くんはぶっちゃけ、『相互評価』とか『クラスタ』とか妄信してる人?」
クラスタ……本来の意味はよくわからないが、確か『たくさんの集まり』みたいな意味で『同じ趣味の人の集まり』って感じで使われるらしい。
ただ、ネガティブな意味だと……web小説の不正行為の集団。『相互評価による不正ポイントでの成り上がり集団』を意味する。
「信じてない……て言ったらウソになります。だけど、あなた方と接して、少し考えが変わりました。そもそも、登戸さんのいう『プロ読者の正当な評価』って何だろうって、よくわかんなくなってきちゃっているんですけど」
玉野は頭を一回下げてから、
「ごめんなさい、サキサキさんや登戸さんのことは事前に調べちゃったんです。地下chも見ちゃいました……」
「あぁ、そうだったの……私のことめっちゃ悪く書かれてたでしょ」
「はい……見てて気分が悪くなりました……サキサキさんだけじゃなく、いろいろな人が叩かれている印象でしたし」
僕も地下chで、幽霊のことを調べたが、かなりひどいものだった。
『あんな作品が書籍化するなんておかしい』
『くろうだったら絶対に売れていなかったはずだ』
『そもそも異世界が出てくるなら異世界ものだろ。ラブコメにしてズルするなよ』
『詐欺師に星1つけられた。マジ最悪』
『あいつ気に入らないコメントすぐ削除するよな。何なん?』
『不正するとかありえないんですけど』
どれも根拠のないものばかりだ。
一人よがりのものを、やいやい騒いでいるだけ。『気に入らないコメント』は、逆にそれを削除するために、そういった機能を運営が用意しているってことも分からないガキでしかない。
特に星1で怒るのは、逆に読者に失礼だろ。自分から読者減らして何がしたい。星1でもGood!でほめているってのに……アホくせぇ。
ノベノベ運営は不正に厳しい。
幽霊のアカウントがBANされていないだけで、彼女の身の潔白は証明されているというのに。
――心底、胸くそ悪い。
「私は相互評価は一切していないし、受け付けていない。だって、『相互評価ありきの相互評価』って、実質、作品を読まずにポイントを入れるだけの行為だもん。そんなの作品にも作者にも失礼だし、ポイントを入れたところで作品の面白さが変わるわけじゃないんだよ」
「でも、面白い作品なら評価されるけど……面白いけど評価されてない、埋もれちゃってる作品もあるじゃないですか。そういう人は……」
「評価ポイントに囚われちゃだめ。星の数だけが作品の価値を決めるんじゃない。確かにコンテストの読者選考とかだと関係しちゃうけど……それはある程度仕方のないこと。だってそういうシステムだから。新人賞やコンテストは他にもあるのに、それを自分で選んだんだから」
――私も本当は読者選考だけじゃなくて、同時にピックアップの方式もとって欲しいとは思っているんだけど……運営もバカじゃない。逆にプロの集団。私たちが気づけない、もっと上のところで考えているんだよ。
と、幽霊は付け足した。
web小説のコンテストには素人だけでなく、『プロ』も参加する世界だ。
普通に考えて、『プロ』が強いのは当たり前かもしれない。だって、作品のスキルだけじゃなく、もともとの作品のファンが読みに来てくれる可能性があるからだ。
ただ、幽霊曰く、webのコンテストは『学生だろうと、セミプロ作家だろうと、兼業作家だろうと、教師だろうと、会社員だろうと……全員が同じ場所で作品をぶつけ合う場所』だという。
まぁ、僕もその通りだと思っている。
いろいろな人たちが『影響しあっていける世界』なのかもしれない……公募に向けて独りで書いていた僕とは全く違う世界だ。
「コンテスト抜きに……ランキング上位に行かなくたって、その作品が好きな人はきっとどこかにいる。読まれないことは確かに苦痛かもしれない……けれど、『読まれるための努力』をまずしてみないと、読まれるものも読まれないよ。そもそもとして、私たちが『素人』ってことをまず意識しないと」
読まれるための努力……つまり、作品を読んでもらうきっかけを作ることだ。
「例えば、カゴの中に色々な作品の原稿が入れられていて、どれを読もうかなぁって思っているとき、小学生くらいの女の子がひょいとおすすめの原稿を紹介してくれたら……たぶん、カゴの中は後回しで女の子が持ってきた原稿を読んでみようかなぁって思うでしょ。そんな感じ」
web小説は、はっきり言って『無反応』がとても多いと聞く。
実際のとこ、僕はTwetterが炎上したから、その勢いで、思い切って短編をノベノベに挙げてみた。
だけど、まったく読まれなかった。絶対伸びると思ったんだけど、だめだった……。
結局、玉野にもらったのが、文字付きの初レビューかもしれない。
『好きの反対が無関心』の理論で、「批判でもいいから感想が欲しい」「こっちは批判さえもらえねぇのに、何感想の選り好みしてんだ」と言うやつがいるが、こいつらの言葉は聞かなくていい。
作品への批判は、もし自分が受け入れられたら、受け入れて次に活かせばいい。その程度で、はっきり言って小耳にはさむくらいがちょうどいい。
深く受け入れすぎると、まるで自分の存在さえも否定されたような、自分が小説なんて書いていていいのかっていう気持ちになってしまう。
ただ、さっきの「何感想の選り好みしてんだ」とかは完全に作者の人格を攻撃している。
聴く義理なんてないだろう。ブロックして当然だろう。
「んで、『結果としての相互評価』の話に戻るんだけど」
その『結果としての相互評価』を利用して、『読まずに作品に評価やブクマを入れまくり、自分の作品に興味を持ってもらおうとする人もいる』と、幽霊は言っていた。
『星爆』などと言われる行為らしいが、無意識にしてしまう人もいるらしく……。
もし『本をどうしても出したい人』が何もわからないままコンテストに参加してたら、評価者の名前が『相互関係』にあるのを見つけたら……たぶん、やってしまうのかもしれないなぁ。
作品を読まれるために。ランキングに乗るために、読者選考を突破するために……。
実際、『星爆』行為とかは、運営がすぐ気づいて読まずに入れた星を剥がすように勧告がくるか、アカウント削除されると聞く。
『明確なルール』『不正行為の例示、対応方法』『注意喚起』『警告の連絡方法』などをやってかないと、『無意識による不正』で痛い思いをする人がでるかもしれない。
『読者選考オンリー』を行うにしても、まだまだ改善点がいくつかあるのかも知れない。あくまで、幽霊から聞いたユーザー目線の話だけど。
幽霊は、続ける。
「ある作者さんが作品にレビューを書いてもらえた。ふつー、そのレビューを書いてくれた人に興味持つよね。『どんな人が読んでくれたんだろう』『どんな作品書いている人なんだろう』って。でも、一回Twetterで聞いたら、『興味ねぇよ』って人や『それは相互だ!』って人もいたんだけど、さ。そこそこの人数でね」
「どうして興味持つことが『相互』になるんですか?」
「興味っていうか、その人のページ見に行って作品を読んだら相互ってことらしいね。その人たちにとっては。まぁ、どーせ評価者の名前や評価した作品だけ見て、あぁだこうだ騒ぐのが好きなんだよ」
正義感振りかざして、「不正だー!」と騒ぐやつもいるから、なおさら厄介な問題だと思う。
あと『プロ読者』は『相互評価ありきの相互評価』いわば、不正ポイントのことをまとめて、『相互』と呼ぶ。
だから、『結果としての相互評価』も『すべて悪』のようになってしまっている。非常に悪い傾向だ。
幽霊は、すぅと息を吸って吐いてから、
「……んで、私はそんなのが『プロ読者の言う相互』に入らないと思う。てか、それが『不正行為』に含まれるなら作者は作品を一つも読めなくなっちゃうよね。小説読むのが好きで作品書き始めたのに、投稿した瞬間に読むのがNGになるって理不尽すぎるよ」
――作品を読むきっかけがタイトルのキャッチー度だとして、『そのタイトルを見たきっかけは?』って話だ。
作品タイトルやキャッチコピーを見るのって、たまたま『トップページに乗っていた』とか、『TLで見かけた』とか偶然の産物だろう。
じゃぁ、評価してくれた人が気になって、何となくのぞきにいくのも偶然に入って当然だ。
『プロ読者』が言う『読者の正当な評価』とは、本当に何なのだろうか。
それって、『web小説』自体を否定しているようにも思えてくるんだけど。
「評価入れてくれたから、お返しに星を入れている訳じゃないの。まぁ、他人の作品を読むときに『自分の作品も読んでくれないかなぁ』って下心がそこにあるのかもしれない。だけど、作品を読んで面白かったという感想に偽りはない。そう思ってる」
――あぁ、善意百パーセントじゃないと、すべて偽善だっていう人たちはちょいと理不尽みたいな話だな。
震災があったとき、芸能人が募金したら「売名行為だ! 偽善だ!!」と批判しまくる奴らと同じだ。
口だけうるさい奴らは、募金もしないし、してても芸能人よりすくねぇ奴ばっかだろう。
何より、芸能人は多くの人を楽しませてくれるが、批判野郎はうるさいし、目障りで人を不愉快にするだけ。
それに実際、『売名したい』っていう下心があったとしても、『いいこと』をしたことには変わりない。
作品を読んで、「面白い」と言ってくれた人を大事にしよう。いちゃもんをいう奴らは、何も生み出さない。
そもそも『純度百パーセントの面白い』って、何を基準にしているんだ。
・作品だけ?
・作者の前作も含めていいのか?
・『好きな作者の最新作』って色眼鏡で読んじゃダメなのか?
・ランキング上位作品だから、期待して読んじゃダメなのか?
わからん。文句を言うやつにも明確な基準はないだろう。
そいつらは、本当に害悪のノイズだ。
「そんなんだったら、せんせーが私のこと色々と面倒見てくれているんだけど、全部偽善だったってなっちゃうでしょ」
「おっおい、僕に下心なんてないぞ」
――幽霊って……その、することできるんですかねぇ……
「ニヤニヤしないの。まぁ、せんせーはいい人だよ。下心って隠すものだし」
「そうですよね……このDMの人は間違ってます……って、えぇ!?」
玉野がビックリした声を上げた。
それもそのはず、僕がDMに『断り』のメッセージを入れたら……すんごい返信が来たのだ。
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お前、クラスタじゃねぇのかよ。
知っているんだぞ、お前が相互評価しているのを。
スクショも取っている。自白するなら今だ。
ナメルナ、クソ野郎。
他のやつとは相互評価するクセに。
せっかくこっちから話しかけてやったのに。
あーあs、違うなんて言ってクラスタじゃないアピールかよ。
クラスタのくせに見え張るね。頭大丈夫?
何、もしかしてトップの意見聞かないと新参者は受け入れないとか?
あんなゴミみてえな作品に数時間星突っ込んでいただけで反吐がでるわww
失せろ、――お前に小説を書く資格はない。
【今後、この方にDMを送ることはできません】
【詳細は、サポートページをご覧ください】
________________
「酷いですね……これ、自分から絡んでおいてブロックしてきたってことですよね。てか、誤字あるし」
玉野に幽霊と二人で頷く。
相手のアカウント名は『ワキヤセ』という名前だった。
「このDM来た時、せんせーめっちゃ落ち込んでいたから。玉野くんは変な人が何か言ってきたなーって思ったら、即刻『ブロックかミュート』した方がいいからね」
「あと発言にも気をつけろよ。僕はいきなり炎上したし……トラブルを避けることは『逃げ』だって思うかも知れないけど、小学校とかで習っただろ。地震があったら避難して、戻ってはいけないって。自分の身を守ることがまず、一番大事だ」
読者が感想を言うのは、自由かもしれない。
ただ、その全てを作者が受け入れる必要なんてどこにもないんだ。
――受け入れられるもんだけ……それでいい。
幽霊が僕の脇腹をつんつんと突いてきた。
――やっぱ、僕は変わってきたのかな。
幽霊に言われて思った。
今までは、読者の反応をすべて遮断すべきで、webに投稿なんてするんじゃないって思ってた。
それが今じゃ『どうwebと向き合っていくか』なんて考えている、いつの間にか。
――ホント幽霊には振り回されてばかりだ。
「…………」
……そう思った。
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