2章 女の裸体と青い炎と回らないpv
ヒネクレ作家と底辺ワナビ
11.新人作家、少年との出会い
アルコールと電車の揺れでかなり……やばい。かどの席に座れたけど、酒飲んだ帰りの人は僕だけっぽい。
どこぞの都知事が言っていたあのプレフラの効果は、とか考えたけど、さすがに昼から飲む人いないし、調べると十五時からっぽいし、そもそも今日は木曜だし……
――うぅ、酒臭い……
吐く息が生あったいし、いかにも酒飲んだでしょって匂いがする。自分で自分の息が臭くて……
「うっぷっ……」
今は十六時くらい。制服の女子がいる。あっ男子もいる。
うぃ、やべぇ。まじ、お前らは酒飲むんじゃねぇぞぉ、こんな昼から……って、制服組は未成年か、かっかぁ……
――降りよう、電車。
もう、だめだ。気持ち悪いと感じるから、じゃなく、流れで気分悪いわっていうのか。僕は気分悪くないんだーって、考えればマシになる状態。
自己暗示的な……てきな……
「……さん、お客さん大丈夫ですか? ホームで寝てたら迷惑になりますよ」
――うぅぅぅぅん?
「お客さん、お客さんって。起きてますかぁ!」
なんで駅員が……あっあ、あぁぁぁぁ。
「すっすいませぇぇぇ……」
「ちょっと起きたなら起きといて、ほら頑張って」
――うぅぅんっん!?!?
◆ ◆ ◆ ◆
ひと駅、早く降りちまったなぁ。バイクは編集部のとこにおきっぱだし、てか酒飲むなら先に言ってほしかった……いや、前もって言われてたら、ついて行かなかったかもだし。
まぁ、飲んでみると意外とうまいってわかったんで、良しとする。
酔い覚ましもかねて、歩きで途中の公園のベンチに腰掛ける。
立春はとうに過ぎて、もう四月が始まっている。大学に通っていたら、一つ学年を上がっていたのか……まぁ、そんな大したことじゃないし、てか単位足りてたっけか。
春といっても夕方の風はまだ冷えるんで、コンビニで買ったおでんを
スマホを取り出して、ノベノベを開いてみる。ブクマしてなくて、サイトを検索するのだけど、フリック入力モードになっていた。
幽霊は、フリックとかいうおちゃらけたモードで打てるのかぁ、となりながら、フリックできない僕は、素直にフルキーボードに戻す。フリック入力は僕の中で完全に、女子高生のイメージで。幽霊もそう見ようと思えば女子高生に見えなくもない若さっていうか、元気さが……どうせ、ハタチ超えてそうだけど。
――それが、まさか『俺オレ』の作者本人だったなんてな。
トップページの右上に『@beaut_sakisaki』の文字。
そこを押すと、美人サキサキのページに飛ぶ。目立つのは、『俺オレ』のキャッチコピー。
『書籍化決定!自分に恋した男の禁断の愛の物語(←大体あってる!?)』
――途中まで読んだけど、大体あってるw
トラックドンからの異世界テンプレかと思ったが、読者が『異世界テンプレ』を知っていることを逆に利用しているというか。
知らなくても面白いと思うんだが、着想がテンプレあってこそのものだからなぁ。
トラックに轢かれ、異世界に行った主人公だけど……
・『主人公の死体は、日本ではどんなことになってるの?』
・『肉体ごと異世界に行っちゃうの? それとも魂だけ?』
……とかいう疑問から、生まれた物語だと思う。
牛すじをおでんの容器に入れようと顔を上げると、
「あっ、ポチポチ野郎だ!」
「えっ……!?」
「おめぇポチポチ野郎だろ」
この前、今いる公園でポチポチしてた中坊だ。僕のほうを向いて。
少年も思い出したのか、あっあぁって顔をした。
制服を着ているから、やっぱ中坊だったな。学ランじゃなくて、ブレザーだけど。あれ、中学でブレザーもありえるのか……
「なっなにか用事でしょうか……」
「おい、中坊。貴様は何をポチポチしとるんじゃぁ」
「…………はい?」
――おいそんな目で見るなって、へっヒクッ……( ;∀;)
「ちょっと、いきなり泣かないでください! 反応に困りますって!」
そういって、手持ちの麦茶をくれる。優しい。こいつはいい嫁になれる。あぁ、今こんな言い方じゃ一部の人に怒られるんか……う~ん、いいや。
もらった麦茶を飲んでいると、さっきよりもアルコールが薄れてきて…………ちょっと穴に埋まりたくなった。なんてことを、しているんだよ……
僕はさっきまでの行動を冷静に思い返して、目の前の中坊に謝ることにした。
「ごめん、完全に酔ってた。絡んでごめんよ……てか、こんな男みかけたらすぐ逃げねぇとダメだぞ。中学生なんだから、命大事に」
ほんと、麦茶くれて嬉しかったけど、普通こんな人に近寄っちゃダメだろう。小学生の時言われなかったんだろうか。『おはしも』みたいなノリで。
「う~ん、反論できないです。っていうか、ぼく、高校生なんですけど。四月から大学生なんですけど」
――えっマジで……あぁぁ、
「なんかいろいろ……すまんm(≧ _ ≦)m」
こういう時は、素直に謝るもんだ。誠心誠意。
「あぁ、ほらスマホ落としてま……す……よ…………」
「ん? 何かあったか?」
スマホの画面にくぎ付けになって、目をこれでもかと見開いた少年に向けて言う。
少年は僕にゆっくりとスマホを差し出しながら、言った。
「もしかして、美人サキサキ先生なん、です、か」
スマホの画面、そこには、『小説管理』のページが。
そう、美人サキサキのアカウントで開かれていた。
「あっいや、」
「謙遜とかもいりませんって、誰にも言いませんし」
「だから……」
僕が否定しようとしたとき、
「いっつも作品楽しみにしています。本が出るの、楽しみにしています。そうだ、ぼくも小説書いているんですよ。ノベノベじゃなくて、くろうのほうですけど……」
少年はどんどん自分の創作情報を教えてきた。
――あぁ、これはまずい。非常にまずい。
ちなみに少年のペンネームは、『玉野げん』というらしい。知ってしまって、どうしようか困るんだけど、さ。
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