浮かび上がった事実と打ち明けた過去

7.担当編集山野、影響とパクリ

 日付が変わる前に帰宅し、飯と風呂を済ませた。ここからは短くなった自分の時間だ。

 オレは、水で腹んなかのアルコールを薄めながら、読み切った文庫の表紙を見つめ、そこに書かれた作者名を指でなぞってみた。


、と言われればな……」


 登戸先生の作品の影響元といわれる『観』の小説を五冊ほど読んでみた感想は、『似ているかと問われたら、似ている』だ。

 ただ、『似ているか』という問いは、少し誘導尋問的なものだとオレは思っている。


 この質問にNoを回答するのは、明確な『似ていない』を持っている場合が大半だろう。Yesは、たいてい『まぁ、そうかもな』を含むし。

 学校の授業で、AとBの二択問題を扱うとき、「Aだと思う人手を挙げて」と「Bだと思う人手をあげて」で、なぜか両方合わせて数人しか手を上げない事象に似てい……あっ、それは逆か。


 今思えば、神藤さんは一度も、『似ている』とは言っていなかったな。

 ほかの編集仲間が『似ている』と安直にいう中で。


 ――受けすぎなんだよ、あいつの作品は……


 そうだ、神藤さんは『影響を受けすぎ』と表現していた。

 神藤さんは見抜いているんだろう。たぶん、オレと『同じ目』で登戸先生の作品を読んだんだ。


 ある編集は、少しオリジナリティーに欠ける、と言っていた。

 それは違う、とは思うが影響を受けているのには同感である。

 神道さんの登戸先生に対する態度は、な部分があるとも思うのだけど。


 『似ている』、というのは単に文体や雰囲気が観の作品に通じるものがあるってことだから、問題ではない。

 観の小説の認知度が高すぎるだけでもあるし。


 よく「○○さんの作品みたいで面白いです」という感想を見かける。

 たとえ『面白い』を伝えるために使ったにとしても、とらえ方によっては『あなたの作品はパクリですね』になるので、できる限り言わないほうがいい。

 この仕事に就く前から、読専時代から気を付けていることだ。


「いろいろと手直しすれば、もっといい作品になるんだけどなぁ……登戸先生」


 先生の作品には、いくつかの矛盾点がある。

 リアリティーにかける部分があり、一部読者を作品の世界から、現実へ覚ましてしまう可能性がある。

 もっといい伏線の張り方やキャラの活かし方があるはず……。


 オリジナル、それも商業作品として……もっとよくできる部分がある。

 直さないといけない部分がある。


 ――いや、一番問題にしなくちゃいけないのは作品以前というか。


 登戸先生は、改稿作業を受け入れず、編集の話を聞かない。

 これが出版停止になった理由である。


 先生の影響元の『観』は、公募の新人賞組らしいが、改稿作業はほとんどなかったという。

 作品の雰囲気といい、改稿を拒絶する態度から観の影響受けすぎなんだよなって。


 TwetterのTLを適当にスクロールしていると、あぁと思いついた。

 登戸先生は、作品含めて、少し『窮屈な感じ』を覚えるんだ。

 観の小説が『正解』と『本来の小説はこうだ』と囚われてしまっているっていえばいいのか。


 ――先生はもっとノビノビやっていいんだよ。


 そういえば今だと、『異世界テンプレに囚われないようにする』って考えに囚われる人がいて、テンプレっぽい要素を完全に排除していく人もいるんだよなぁ……


 特にweb小説は『この先に面白いストーリが待っている』と期待させてくれる作品が人気になる。


 登戸先生の言葉通り、『未読の物語を読むのは、冒険と同じ』。

 だからこそ、安心感を読者に与えながら、ハラハラドキドキ感の楽しさを与えるということが必要で……『先の展開が分かっているのに面白い』、みたいな。


 それらを両立するために『王道』や『テンプレ』を使う。

 ほかのユーザーと交流をして、『この作者なら面白いだろう』という信頼感を作る。


 いろいろと読まれるためにできることは、たくさんある。作品に何かしらの『制限』を付けなくても別にいい。


 創作は、もっと自由でいいと思うんだよな……あえて囚われることも、まぁ自由っちゃ自由だけど。


 んで、作品の雰囲気が似ているイコール『マネ』『パクリ』ではないんだ。

 逆に作品に影響を受けたせいで、面白さが……んでも、影響を受けなかったら、そもそも登戸先生は新人賞を受賞していなかったのかもしれないし、オレが先生の作品に惚れることも巡り会うことももなかったろう。


 ふと、思ったことを呟いてみる。何となく呟けるのがTwetterのいいところ……時々自分のアカウントの知名度が上がってきたせいでいろいろ息苦しくなった部分もあったりするけど、気にしない気にしない。

 作品URLを何度も送り付けてくる奴もいてめんどくさいけど……気にしないっ。


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やま@くろう/ノベノベ読み専(@mountaiNo)

感想で、「○○という作品みたいで面白いです」とか……

とにかく、別の作品を引き合いに出すのはやめといた方がいいよね。

ネガティブに捉えると、「パクリですよね」みたいになるし

( *´艸`)

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 ツウェートボタンを押して、持ち帰った仕事をいくつか片付けたり、最近積みがちなアニメを消化していくと、通知がたまっていた。


 どうしてこうも、いろいろな返信が来るんだろう。

 そりゃネット何だから、当たり前なんだけど。マウントを取ろうとしているというか、批判してくるやつもいる。


 ――自分の知らないところで批判されるよりは、直接言ってくれたほうが、殴り返せるからいいんだけどな。


 通知に来た順番に、そのまま返信を打っていく。



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かばやき@物語をつくろう

返信先:@mountaiNo

あぁ、なんかわかる気がします。

そんなつもり全くなかったり、引き合いに出された作品を

作者が知らなければ、双方いいことないですし(T_T)

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>>作者さんがいうなら、やっぱそうみたいですね^^知ったこっちゃねぇ、みたいな。


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篠口まる@物語をつくろう

返信先:@mountaiNo

そういう感想つける人って、悪意もってやってる気がします。

皮肉ですよ。ぜったい分かっててやってる。

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>>いや、別に、悪意を持っているとは限らないのでは( ;´Д`)


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溝野隅人@くろう、ノベノベ

返信先:@mountaiNo

自分が意識して似せている場合もあるし、一概に言えない。

読者の感想を制限するのはどうかと思いますがね。

ネガティブに受け取る作者に問題がある。

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>>いや、制限するつもりなんてないですし。逆にどうすれば作者さんに自分の気持ちをうまく伝えられるのか、という話ですよwwせっかく書いた感想がうまく伝わっていなかったら、互いに幸せになれないですよね。


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丸焼き@くろう&pexiv

返信先:@mountaiNo

絵でも同じですよね。

キャラにワイシャツ着せただけで、ヒナタプロのパクリって。

オリキャラって書いているのに……書いているのに( ;∀;)

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>>あぁ、ヒナタプロのパクリって懐かしいwwもう服着せただけで何かのパクリになるかもw


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雪霜極寒@ノベノベ

返信先:@mountaiNo

そもそも、人間なんだから同じような設定に行き着くこともあるでしょう。

問題なのは、その読者が設定しか見ていないことであって。

あるキノコを料理に使うことを2人が思いついたとして、結局どっちかが先に『料理』にする。後に出した人は別にパクリじゃないし、出される料理も違うはずですよね。

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>>おお、そうですよね。設定しか見てない人おおそう。




 最後の人に返信を打ちながら、自分の心がフリックする指先に籠っていく。

 いいな、と思った言葉だからだ。

 『感想で他作品を引き合いに出すのはどうか』という論点からは、ずれちゃってるけど。


「そうだよな、設定が被るなんてザラにある」


 設定にこだわって『出オチ』で終わらすより、物語で勝負してほしい。

 両方できているのが一番だが、せめて設定か物語のどっちかに光るものがないと。

 小説の要素を、『設定』と『物語』で二分できるのかはまた議論したい部分でもあるが。


 とにかく、『設定』しか見ていない人に『物語』の良さは分からないだろう。

 あらすじだけ見て、作品の中身を決め付ける奴と同じだ。


 オレは創作をしたことはないが、多くの作者さんと交流している。

 簡単に交流できるのは、小説投稿サイトの一番のいいところだ。


 好きな作品の作者さんに一方的に感想のハガキを送るだけじゃなく、作者さんからリアクションが返ってくることもある。それも高確率で、自分に向けて。


 TLタイムラインにはたくさんの作者の言葉であふれている。

 創作論が飛んだり、創作に関する悩みが流れたり、感想や評価に歓喜したり、日常が垣間見えたり……


 そこに時々、『読みもしていない批判』に怒りを見せたり、心を痛める作者の姿を見かけるのだ。

 中には筆を折ってしまう作者も多くいる。

 読者が百人いようと千人いようと、たった一人の言葉だけで、作者はものすごく傷つけられることもある。


 オレなりに例えると、一万人自分のことが好きだと、抱かせてくれる女がいようと、たった一人に包丁で刺されたら死んじまうみたいな、話なんだな。


 オレのTLだけじゃなく、まだ繋がっていない人も同じように悩みをどことなく垂らしているのかも知れない。


 『おすすめユーザー』の欄に少し目を通してみる。

 知らない名前ばかりだ。

 それもそうかもしれない、作品を読んで気に入った人は自分からフォローしに行っている。


 ――おっ!


 さっきのツウェートに『ええね』や『RTレツウェート』が付いていく通知に交じって、DMダイレクトメッセージが飛んできたのと、オレがおすすめユーザ欄に『登戸タカシ』の名前を見つけたのはほぼ同時だった。


「先生、Twetter始めたんだ……まだ、『#初めてのツウェート』しかしてないっぽいけど……どういう心境の変化だろう」


 とりあえず、登戸先生のアカウントをフォローしておいて、別の人から来たDMに目を通す。


――やまさん、見つけました。


 自分のTwetterのアカウント名の『やま』で呼んでくるが、リアルでも交流のある相手からだった。交流というか、同業者であり、信頼できる相棒でもある。

 ここ数日、オレは、次に続く文章に、内心ドキドキしながら目を走らせる。



――神道編集長が裏で枕をさせていた噂ってあったじゃないですか。それをもとに調べてみるとワンサカ暗い情報が。被害者らしき女性の情報は……



 あの時、登戸先生にゴーストライトを依頼した時の神道さんの態度。裏の取引をしているくせに、ポーカフェイスを貫いていた彼の様子。

 


 神道さんは、まっとうな人間なんかじゃないってことを。

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