14.新人作家登戸のTwetterが燃え上がる!
――『炎上』って、冷蔵庫バカだけが遭遇することだと思っていた。
『登戸先生、やっちまいましたね……ははは』
スマホから山野の声が聞こえる……ホラー的なアレではなく、ふつーに電話しているんだけど。
Twetterで呟いた後に、通知が嵐のようになって。
あっやばいかも、と思ったときに、山野が電話をかけてきてくれたんで、心強い。
テンプレチョロインなら絶対に故意に落ちるだろう。いや、チョロインどもはチョロイから、普通に恋に落ちるか……あぁ、僕って何でこんなシャレのセンスないんですかねっ。
「これって、どうすれば良いんですかね……?」
デスクトップの画面、『通知』の青い数字がカウントアップし続けている。
取り合えず、山野の指示に従い、『ツイ消し』や『鍵垢』なるものは実行した。
したけど……
「んで、こっからどうしたらいいんですか。数字どんどん増えてますよ! フォローとか、
『いや、もうどうしようもないです……オレの管理不足でした、すみません」
山野の声は、申し訳なさに溢れており……ちょっと派手に言い過ぎたかもしれない。
「編集って作家のTwetterまで監視していないとダメという訳でもないなら、謝らなくていいです。結局は、僕の自己責任みたいな……」
そう伝えると、山野は僕のアカウントのことを少し前から知っていたことを教えてきた。言うタイミングを逃して、僕に伝え忘れていたってことと一緒に。
本来なら、山野は……というか、新人賞受賞した作家に向けて担当編集は、「炎上について気を付けて下さい」とかを説明をするハズだったらしいけど、僕がTwetterとかブログとかSNSをやっていないってことで、その手の話、省いて貰ったんだった。
――結局、僕が悪いんじゃん。
『炎上には、気を付けてください。作家は嫌でも目立つし、運が悪いと出版社を巻き込んで燃え尽きる可能性もある……今回は、たぶん先生だけの問題で済みそうだからいいけど』
作家っていっても、まだ『デビュー』もしていないんだけどなぁ……流石に『卑屈』っぽいし、出版中止を自ら招いた僕が言えたことじゃないんで黙るけど。
「んでも、僕がツウェートしたのって単にアドバイスについて聞いただけだよな。政治に関することとか、作品をディスったりした訳じゃないのに……」
『ネットにはいろんな人がいますからね……』
チクリ、と胸が痛む。
いろいろな人がいる……その表現は適切ではない。
排除されるべき人間が。いてはならない奴らが罰せられることなく『シマ』を作っているのだ。
まるで
そいつらがいることを『仕方ない』と割り切ったとしても、認めることは到底できない。いや、認めてはいけない。
それは、山野も同感らしい。
『あぁ、はっきり言って、Twetterにはバカが多い』
「一人ひとり潰さないと、そうしないと……」
『ただ、な。登戸先生』
僕の言葉を遮って、山野はゆっくりと言葉を続けた。まるで、僕を諭すように。
『ただ、あくまでオレたちは利用者。その環境を使わしてもらっているユーザーの一人だ。一緒に環境というか、サービスを良いもんにしようと、運営に要望は送っていいが……あぁぁ、何ていえばいいんかな。それを踏まえた上で付き合わんといかん。これって別に『バカ』を認めるとか、そういうこととはまた別やろ』
『自衛の手段』は持っておくべきだと思うぞ、と山野は続けた。
今回、炎上した理由は、僕のツウェートを見て誰かが「ライジン文庫銀賞受賞者が小説を見てくれるそうだぞ」と言い出したこと。
そして、「批判は創作の世界において正常なことだ。それを制限するなんて暴論も甚だしい」って議論という、主に二つの理由で炎上した。
はっきり言って、かなり理解に苦しむ状況だ。
なんたって、僕はそんなこと呟いた覚えはない。
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登戸タカシ@Twetter初心者 (@noboritoTakashi)
web小説でアドバイスは『あり』なんだろうか。
アドバイスしてくれと言われて、何を答えたらいいんだろう。
ただ、何でも言ってくれと言いながら、実際に批判的なこと言われたらショックだろう。
それに、イヤなら別の作品を読みに行くもんじゃないのだろうか?
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ツウェートの内容を再確認。たぶん……
「アドバイスしてくれと言われて」(原文)
⇒『アドバイスを登戸がする』(勝手な解釈1)
⇒『登戸に自作品のアドバイスが貰える』(勝手な解釈2)
⇒『ライジン文庫の銀賞作家に小説を見てもらえる』(勝手な解釈3)
……って流れだと思うけれど、自分で考えておいてなかなかに無理やりなこじつけというか。
もしかしたら、もっと別な感じで……
『ライジン文庫銀賞受賞者がツウェート』(事実)
⇒『自作売りこめば読んでくれるんじゃね?』(勝手な妄想)
……かもしれん。いや、さすがにいないか。いないよな。そうだと思いたい。
落ち着き始めたリプ欄を見てみると、玉野とカフェで起こった出来事に似ているものがあった。
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機械仕掛@ノベノベ
返信先:@mountaiNo
web小説でアドバイスはやめといた方がいいですよん♪
「酷評でもいいので」とか「アドバイスください」とか書いてあっても、文章の矛盾とか指摘すると怒り出す人いますんで。
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――酷評でもいいので、か。
『何でもいいので』とも違う感じだ。
酷評ってつまり、誰かに読んでもらう前から『自分の作品の欠点には欠点があります』『酷評される箇所があります』と認めているみたいなことだろう。
それを他人に指摘してもらい、創作に生かそうとしているのか。
――バカらしい。アホくさい。
そんな風に考えるから、失敗する。
創作者は自分を信じないと。
もし仮に。本当に仮にだけど『批判されるかも』と思っても、自分の作品を卑下するもんじゃない。
作者は読者よりも賢くあるべきかもしれないが、作者が『自分はすべてを知っている』アピールなんてしても、はっきり言ってどうでもいいし、本当にアホくさい。
『自分の作品には欠点があるかもしれない』ってことを、「知っています」「分かっています」と公言して何がしたい。
保険ばかりかけるな。作品から目を背けるな。
お前の作品のどこを読んでほしいのか、全く伝わらんし。どちらかと「作品を読まないで欲しい」と言っているように感じる。
はっきり言って読者に失礼だ。予め読んでいた人、これから読む人全員に『お前らが読んでいる作品はクソだ』と言っているんだぞ。
『面白い』って言ってくれた人を全員ひっくるめて、コケにしてんだぞ。本当に理解できない。
僕は読者の意見なんぞどうでもいいけど、「感想が欲しい」とか言っている奴らほど、『卑屈野郎』が多くて困る。
そもそも創作って、『自分も面白い作品を書けるんじゃね』ってとこから始まるんだ。
だから、――他人の評価で自分の作品を疑い始めたら、作品は死ぬに決まってる。
他人の言葉なんて、一切聞かない。資料も自分の世界を狭める可能性があるから、見なくていい。
創作ってのは、未知の世界。自分だけの世界を構築するものでもあると思うんだ……他人の意見とか資料なんかに頼るのは、自分のすべきことを省略するセコイやり方なんだ。
――でも、
僕はすぅっと息を吸い込んだ。
少しの勇気と共に。
まるで、いつものたわごとのように。
そして、世間話をするつもりで……重たい口を開いた。
「なぁ。山野……やっぱ小説って他人がいないとダメなのかな」
ふと、聞きたくなった。明確な意思はない。勝手に緊張しながら。山野の名前を言ったとたん、口をついて出た。
受賞して、書籍化に向けた作業が始まった時に山野に言われた言葉。
――小説は独りでは作れない。
その意味を、もう一度聞いてみようと。そう無意識に考えてしまっていた。
僕の言葉に山野は、
『えっ何だって……ちょっとおま、電話あと少しだから……』
――うぅん?(-_-;)
「…………」
『あっ、すみません。先生、もう一回いいですか』
「……はぁぁぁぁっ!?」
――何だよクッソ! こんの山野、今おめぇ……
「山野さん、今、女性と一緒にいますよね……彼女ですか……いないと言ったのに」
電話口からは、山野の声に交じって女性の声やバタバタという物音が聞こえてきた。
こちとら幽霊と会えないで困ってるのに。なのに、なのに……
『あっいや、そうでなくてな。ちがくて……』
山野の弁解の言葉に、やはり女の声が混ざっている。お邪魔したかな。
『それでですね、オレは今ッ』
「…………ではでは、」
『ちょっと!』
さてさて、電話を切ろう。
今回の出来事で、なぜかTwetterのフォロワーがすごい数増えた。まぁ、結果オーライ。
そういうことにしておこう。
「んでも、山野さん。今彼女いないとか言ってたと思ったんだけどな」
山野の声に混ざっていたのが、女性の声ってのは分かったけれど、言葉は全く聞き取れなかった。
まぁ、聞かなくてよかったものだろう。
『彼女いない歴=年齢』の僕。
穢れなき心を持っているんだから、触らぬ神に祟りなしだ。そう思った。
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