8-6
「遅くなってすいません。お待たせしました」
教室に戻ると実行委員から戻ってきた瀬戸さんも合流していた。僕を見た花咲さんが嬉しそうにずいと迫ってくる。あまりの迫力に、一歩退いた。
「ちょっとちょっとちょっと、詳しく聞かせて貰うよ、覇王」
「私にも教えてください」
「ついにビックカップルの誕生かぁ。ねぇ冴ちゃん」
「うるさいな……」
「怒るな怒るな。覇王に春が来たんだから喜んであげなよ」
「学園のマドンナと覇王であれば誰もが納得するはずです」
瀬戸さんは静かに目を閉じると、悲しげに首を振る。その様子を見て花咲さんはうんうんと頷いた。
「して覇王、彼女持ちになった感想はどうだい?」
「彼女? 彼女はいないですが」
「えっ?」三人の声が重なる。僕は頷いた。
「いないです」
そう、僕に彼女はいない。
「じゃあ古寺嬢との話は……」
「僕が、筋トレを指導する事になりました」真顔で頷いた。「古寺さんは、筋トレに興味を抱いていた。変わりたいと願っていたんです。僕の横を歩いていても見劣りしないような筋肉に」
三人はしばらく視線を落として沈黙した。
「それ、古寺嬢は何て……?」花咲さんが静かに口を開く。
「泣いてました」嬉し泣きだろう。
「エグい」
「ゴミです」
「クズだよ」
「高三の学祭で満を持して告白しようとして来た相手に筋トレとかもう本当に死ね!」
「お兄ちゃん未来永劫筋トレしないで」
「プロテイン飲みすぎで脳みそ腐ってるんですよ覇王は」
「古寺嬢には今度クラスの皆で土下座しよう」
「反対しといて何だけど、申し訳なさ過ぎてもう顔見れないよ。一家心中したほうが良いかな、私」
「覇王を目の前で血祭りに上げたほうが良いのでは。ダンプカーで轢けば私達でもどうにかなりませんか」
「皆で切腹するって手もあるけど」
「乙女の本気の告白と高校生三十数名の命って釣り合うかな……」
「立花一家の命を加えればどうにかイーブンにならないでしょうか」
「まだ足りないでしょそれじゃ」
なんだか良く分からなかったので僕は最高の愛想笑いを浮かべて「みんな、僕の為にありがとう」と言っておいた。
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