6章 栄華祭準備

6-1

 夏休みに入って一気に時間が出来た。

 冴香は練習試合だの合宿だのと慌しそうに過ごしている。聞くに、クラスに居る他の男子達も女子とグループを作って遠征旅行をしたりと充実した時間を過ごしているらしい。

 またもや僕だけが唯一蚊帳の外となってしまった。

「乗り遅れたな、流れに」

 そんな事を呟きながら自宅で効率的な筋トレメニューを思案していると、不意に携帯電話が鳴った。

「珍しいな……」

 知らない電話番号。恐る恐る手に取る。

「もしもし、立花ですが」

 しまった。名乗るんじゃなかった。変な電話だったらどうする。普段ほとんど電話などかかってこないのでつい焦ってしまった。

「あ、もしもし? 覇王立花ですか?」

 開口一番、相手の発言で学校の人だと分かり、心配は杞憂に終わった。

「はい。立花です」

「あの、私、同じクラスの瀬渡です」

「瀬渡さん」

「はい、なんでしょう」

「ああ、すいません。名前を復唱しただけです」

「そうなんですか。怒られるかと思いました」何故だ。

 瀬渡という名前には聞き覚えがある。だが入学してからクラスの人とあまり話す機会がない為、いまいち顔と名前が一致しない。

「瀬渡さん」

「はい、名前の復唱ですね」

「違います」

「ごめんなさい、許して」怯えすぎだ。

「どうして僕の電話番号を知っているのでしょうか」

「ふふふ、どうしてでしょう」

「知りません」

「ごめんなさい、怒らないで」怒ってはいないのだが。「実は栄華祭の準備に来てくれる人を募ってクラスの人に連絡してるんです。夏休みが終わったら栄華祭だから、今のうちから始めておきたかったんだけど、全然男子が捕まらなくて。たまたま冴香ちゃんに電話したら『お兄ちゃんなら空いてるよ』って連絡先を教えてくれたんです」

 栄華祭とはいわゆる学園祭の事である。もうそんな時期なのか、と少し驚く。

 冴香は現在陸上部の合宿で遠征中だ。何故僕の予定が何もない事を合宿先にいる冴香が知っていたかは謎だが、そういう話なら断る理由はないだろう。

「そういう事ですか。分かりました、大丈夫ですよ」

「本当? よかったぁ」安堵したような声だった。よっぽど人が居ないのだろう。「じゃあ今日これからって大丈夫ですか?」

「ええ。筋トレも終わりましたし」

「筋トレしてたんですか? この暑い中」

「ええ、二時間ほど」

「ごめんなさい、怒らないで」

「はい」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る