6-3
その時廊下から誰かの足音がして「あれ? 立花君?」と声を掛けられた。
「古寺さん」
「久しぶり。まさか夏休みの学校に居るなんて思わなかったから、驚いたわ」
「僕も驚きました。まさかこんな所で会うなんて」
すると横から「覇王覇王」と瀬戸さんが小声で声を掛けてくる。
「お知り合いですか?」
困惑した様子の瀬戸さんに僕は頷いた。
「生徒会長の古寺先輩です。以前学校の案内をしていただいた事がありまして」
「生徒会長! ……さすが覇王、学校の中枢部の方と人脈を築かれているとは」
何やら大きな誤解が生まれている。
「どうしたの教室で。夏休みなのに」
「実は栄華祭の準備をする事になりまして。集合をここにいる瀬戸さんがかけてくださったんですが」
「あはは、だれも来てくれなかったみたいで」
異様に哀愁漂う愛想笑いを瀬戸さんが浮かべると「そう……」と古寺さんは心の奥底から生じたであろう憐憫の目を彼女に向けた。
「そう言えば古寺さんはどうして学校に? 生徒会の活動ですか?」
「ええ。栄華祭の準備もあるし、備品の片付けとかもあって」
「準備?」
「予定してる模擬店の出店位置とかの割り振りを決めなきゃダメで、どこらへんにお店が出せるかとか大体の見通しを立ててるの」
「模擬店って出店なんですか? 教室でやるものとばかり思ってました」
「普通は教室でやるんだけど、出店でやりたいってクラスもあるから」
「なるほど。他の生徒会の方は?」
「今は手分けして例年使ってた場所が今年も使えそうか確認してもらってるわ。私はこれから屋上に用があって」
「屋上でも出店を?」
「垂れ幕あるでしょ? あれの片付けを宮崎先生とする事になってるの」
好成績を出した部活動の実績を垂れ幕に書いて校舎屋上から垂らしているが、恐らくあれの事だろう。結構サイズが大きくて重そうなイメージがある。
「古寺さんがやるんですか?」
「ええ。うちの生徒会は今はまだ女子しかいないし、先生もなかなか忙しくて」
屋上でのそういった作業は危険も伴うし、普通生徒にはやらさない気もするが。何でも進んで引き受けてしまう古寺さんには頼みやすかったのかもしれない。
「そうですか。僕も手伝えれば良かったんですが……」
「良いのよ。栄華祭の準備があるんでしょう?」
古寺さんはちらりと瀬戸さんを一瞥する。すると視線に気圧されたのか瀬戸さんは「全然、全然大丈夫ですよ」とプルプル震えながら言い出した。
「どうせ誰も来ませんので」
「いや、さすがにそう言う訳には……」
僕が言うと「大丈夫ですよ、覇王」と瀬戸さんは依然として震えたまま言う。
「今日はどの道解散する予定でしたから。それに、生徒会のお手伝いをしていただけるのであれば私も安心できます。お休みにわざわざ呼び出して、何もなしで解散、じゃあさすがに企画者としては申し訳立たないですから」
「瀬戸さん……」
何と声を掛ければよいか分からない。どうしようか迷っていると「そうだ」と古寺さんが声を出した。
「それだったら瀬戸さんも一緒に手伝って貰えないかしら。代わりと言っては何だけど、五組だけ特別予算、当てるから」
「良いんですか? そんなの」
「内緒だけどね」古寺さんはイタズラっぽく人差し指を口に当てた。
僕は瀬戸さんと目を合わせると、揃って頷いた。
「じゃあ、是非」
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