8章 栄華祭
8-1
いよいよ栄華祭が始まった。
美術館を企画している僕達のクラスでは二人ずつ三十分のローテーションで受付を回す。栄華祭は我が校では朝十時から夕方十八時まで。二日に渡って行われる。一人当たり一日一回ずつ受付が回ってくる計算だ。全体で出し物をする他のクラスと違い割と融通が利くのが利点でもある。
「朝一の受付になってしまい申し訳ございません、覇王」
「いえ、くじでそうなったんで、大丈夫です」
責任者だという自覚なのか、何故か謝って来る瀬戸さんをなんとかなだめる。受付決めが終わり、すでに他のクラスメイト達は外に出て行ってしまっていた。
「それではよろしくお願いします。何か不備がございましたら、ご連絡ください」
「はい」
瀬戸さんの後姿を見送ってようやく一息つく。
受付に使う長机は低く、僕が椅子に座ると膝の上に机が乗り浮かび上がった。これでは相方となる人が高くなった机に不自由してしまう。心配していると、隣の席に冴香が着席した。
「よろしく」
「冴香が相方なのか。凄い偶然だな」
くじ引きで決めた組み合わせにも関わらずこうして一緒になったという事は、やはりこれが兄妹ならではの運命力なのだろう。勝手に感心していると、冴香は首を振った。
「いや、お兄ちゃんの相手は春ちゃんだったんだけど、交代してって言われたから。四組の達磨を使った出し物が前衛的だから取材に行きたいって」
「なるほど」
「それに何かトラブルがあった時に、私の方がフォローしやすいし」
「ははは、冗談が過ぎるぞ。僕に限ってトラブルなんてな」
「とりあえず机の高さ調整しちゃうね。このままだと感想ノート書いてもらえないし」
「はい」なんだかばつが悪い。
僕達の展示は思っていた以上にだ。黒板には色のついたチョークを利用した美しい風景画が描かれており、個人が作ったとは思えないソファや椅子、本棚がパステルカラーで彩られている。誰かが作った可愛らしい小物が適度に散りばめられ教室をまるでお洒落なリビングに仕上げていた。
「テーマは『くつろぎのある空間』だって」
冴香がお香を焚きながら言う。これも演出らしい。
「黒板の絵、すごいな。これチョークで書かれてるんだろ」
「これ安藤君が描いたんじゃないかな。絵が得意って言ってたし」
安藤隼人。ドレッドヘアーで何度も宮崎先生から指導されている姿を見かけたことがある。活発でトラブルメーカーな印象が強い。絵が得意だなんて思いもしなかった。
「人は見かけによらないな。凄い特技があるもんだ。冴香は何を作ったんだ?」
「これ」
冴香は壁に飾られた写真を指差した。ひび割れた味のあるフォトフレームに入っている。学校の廊下を写した物で、窓から差し込んだ太陽の光が陰影を生み出しただの廊下を幻影的な空間に変えていた。
「へぇ、上手く撮ったもんだ」
「じゃなくて額」
「ひび割れてるが」
「そう言う加工したんだよ。百円ショップの額縁に塗料塗って。他にもその辺りの小物とか、奥に置いてるコルクボードの棚とか」
「へぇえ、すごいな」素直に感心する。家で何か作っているなとは思っていたが、趣味でやっているのかと思っていた。完成度が高い。
「写真は春ちゃんが撮ったの。一眼レフ持ってるからって。凄いよね。あっちに掛かってる星の写真とか、合宿で撮ったんだって」
数え切れないくらいの星空がロッジと共に写っている。
「あんなキレイな星空がある合宿場なのか」
「違うっぽいよ。シャッタースピードがどうとか言ってたけど正直よく分かんない。あと、机に置いてある新聞。あれも春ちゃんの手作り。パソコンのソフト使って作ったって」
「すごいな。凝ってる」
人の作品を見ていると昇降口のところに広告代わりに飾られている僕の作品は果たしてあれで良いのか疑問に思えてくる。丸太にパンチするって何なの。テーマとの関連性のなさも凄い。
「お兄ちゃんのやつはクラス満場一致だったから大丈夫だよ」
察したのか冴香はそう言う。しかしそれはそれでどうなのだ。僕の役どころとは一体。
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