十年戻り

 私は、どうやら毎年決まって、十年前の過去を夢に見ているらしい。

 今年は、十四歳の頃だ。人生で一番ツライ時期。


 綾子が笑いながら、私に話しかけてくるというシーンが浮かぶ。

 それは、中学校の時のもので、夢の中の私も当時のままで、少し色が褪せた景色になっている。

 大きなセーラー服は着慣れないし、親しい友だちはみんな他のクラスに固まっていて。

 私は、そっと一人で部活見学に行った。本当はバレー部に入りたかったのに、体育館の入口付近ではバスケ部が陣取って、声を掛け合いながらボールをパスしていくのが見えて……


「ねぇ、みっきーもバスケ部入るの?」


 見学が終わった後に来たのが綾子だ。小学校三、四年の頃にちょろっと仲が良かった子。戸惑うままに「どうしようかな」と弱腰でいると、綾子はこう言った。


「みっきーが入ってくれたらすっごく嬉しいんだけど! 一人じゃ心細いからお願い! 入って!」


 彼女はそうやって、私に笑いかけながら懇願するのだ。それを振り切ることが出来ない。だから流されるままに了承した。

 バスケ部の練習は過酷なもので、運動が駄目な私はついていくのがやっとで、楽しいとは程遠い義務的な時間を毎日過ごす羽目になる。

 私は先輩から好かれなかった。鈍臭くて、一番下手だったから。その落ちこぼれ具合が格好の的になった。学校生活でも笑われることが多くなった。ある日、「部活やめろ」と手紙が回ってきた。綾子だった。

 練習中、誤ってコートの中で転んだ時なんて、あの子、馬鹿にするように笑ってきたし。

 あの目が、笑い声が未だに悔しくって仕方ない――


 シーンが変わる。十四歳の私が、部活で綾子と笑いあっている。でも、私はあまり楽しくはない。

「ねぇ、なんでミキの頭はキャベツみたいなの? すっごいもさもさしてるー」

 その日から私は、キャベツと呼ばれるようになった。キャベツが食べられなくなるくらい単純に落ち込んだ。


 ――あれ?


 そこで、私は目を覚ました。むくりと起き上がって、ぼーっとする頭で今の夢を巡らせる。

 あの頃はああやっていじられて、しつこくからかわれて泣いてたっけ。泣いて、泣いて、部活も辞めたくて、でも度胸がないから辞める選択も出来なくて。誰も助けてくれない。

 あぁ、私って、いじめられてたんだ。毎日が必死で気づかなかった。

 まぁ、でも、来年はそんな息苦しい夢は見ないだろう。

 十五歳の私は、綾子を――


 寝癖のついた髪の毛をとかしながら、私は思わず笑った。

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