『コピーしますか?』
ピッ、とワンタッチ。
スキャナで取り込んで画像化してしまえば、自動的に紙へと印字されていく。
一家に一台、会社に何台も置いてある必需品、
今じゃ、3Dプリンターなんてのもあるよね。立体化出来るってやつ。
なんでも取り込んでしまえば立体化出来るもんだから家族写真なんかを取り込めば、模型みたいな、スケールの小さい立体家族写真が出来上がる。
いいよね、便利な世の中。ますます近未来って感じで。
あぁ、でも悪用されることもありそうだ。世の中、善人だけじゃないし。
さて、コピーが終わった。
会議に使う資料を人数分コピーしといてって上司に頼まれたわけで、ひたすらにトレイへ出力されていく紙をじーっと眺めていたわけなんだけど。
これさ……なんというか、自分の顔とかスキャン出来ないこともないよね?
無心で排出された紙を眺めておくのも面白くないから、突拍子なく馬鹿なことを思い浮かべてしまったんだ。
まぁ、3Dプリンターじゃないからコピー出来たとしても平面の顔が紙に印字されるだけだとは思うけどさ。どうなんだろう。光、とか目に危ないかな。
俺は周りに誰もいないことを確認して、スキャナに顔を押し当ててみた。
冷たい……ガラスだからな。
あー、皮脂とか指紋がべったり付いたらバレる。やべぇ。あとで拭いておこう。
あ、でも待った。コピーボタン押せないし。
えっと……確か、この辺り……これか?
まぁいいや。えい!
どうやら大当たりだったらしい。
光がゆっくりと動き、俺の顔を取り込もうとガラス越しに舐めていく。光が上へと上っていけば、スキャン完了。俺は這い出るようにスキャナから離れた。
うわぁ……ちゃんと拭いておこう。
まぁ、出来心というか、なんというか。
多分、俺の顔が印字されて出て来るんだろうなと予想はつく。先にコピーしておいた会議資料をまとめながら、印刷されるのを待った。
コピー機のモニターには「コピーが完了しました」と表示されている。次に「印刷開始」へと表示が流れていく。機械の中では今、まっさらな紙にインクが俺の顔の形を作っているに違いない。
どうなるんだろう、と半ば期待を寄せておく。
すると、あっという間に紙がトレイに排出された。
出来栄えは……あぁ、うん。やっぱりね。
頬と額が潰れ、目を瞑ったままの俺の顔が黒インクでべったりと印字されてある。まぁ、そんなことだろうとは思っていたけど。
あーあ、紙一枚ムダにしてしまったな。
クシャクシャに丸めてゴミ箱に放り込んでおいた。
「おーい、
丁度いいタイミングで課長から声がかかった。
慌てて紙の束を抱え、俺はもうコピー機には目もくれず会議室へと急いだ。
***
偶然、とでもいうのか。なんだか最近、妙なことばかり起きる。
例えば、昼休み。
「あれ、宮間さん。さっき食堂にいませんでした?」
例えば、廊下ですれ違った時。
「うわっ、え? なんで、さっき事務部にいたでしょ」
例えば、別部署に借り物をしにいった時。
「え、さっきファイルお貸ししましたよね?」
おかしい。
宮間目撃情報が社内で相次いでいる。どういうことだろう。
俺の行動を先回りする俺がいるのか? ん? なんだそれ。やっぱりおかしい。
思い当たることもなく、その不思議現象に首を傾げるばかりだった。
またコピー機を使うまでは。
『社員No.0180207 ミヤマアキヒロ を登録しています。コピーしますか?』
そんな表示を見付けてしまったら「あぁ、なんだそういうことか」とようやく納得する。
最近のコピー機って、本当、便利だよね。3Dよりも便利じゃん、これ。ピッとワンタッチで量産出来てしまうんだから。
そう言えば、以前、課長の目撃情報も多かったのもそういうことなんだろう。同時に二つの会議に出られるなんて、あの時は信じちゃいなかったけど。
よくよく考えたら、部長もそうじゃないか。出張に行ってるはずが社内で見たってこともあったし。毎日、残業ばっかりなのに朝は早いし。あー、そういうことね。なるほど、理解した。
それじゃあ、俺もコピーしておこうかな。残業係でももう一枚くらい。
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