朝。

「やあおはよう、いい朝だね」


人んちの棚を勝手に開けて、人が楽しみに取っておいた一つしかないスパムを勝手に皿に開け、むっしゃむっしゃかぶりつきながらこちらを見もせずに朝の挨拶をしてくる怪生物。



「……おはよう」


ジトー。


ゴミでもみている感覚とはまさにこのことか、これまでの人生で味わったことのないレベルの嫌悪感を抱いて怪生物の向かいの席に座る。




「昨日はゆっくり眠れたかい?今日は例のあの子にスポンサーになってもらう交渉をしなければならない日だ。元気に行こう‼︎」


……こいつ。


「……交渉するのははいいが、どう言って説明するんだ?近々行われる魔法少女の天下一武道会的なアレに参加したいので、スポンサーになってくださいってか?」


誰が信じるんだ?そんな突拍子もない話。魔法少女はまだしも、今時武道会だとか、一番強い魔法少女を決めるとか、頭のおかしなヤツの妄想かと思われる。


魔法少女の存在が一般的になってから、使える魔法に大した物がないとわかってからと言うもの、魔法少女同士が戦うだとか、善だ悪だとか、そんなものはめっきりなくなった。


この世界の魔法は、漫画やアニメに出てくるようなめちゃくちゃできる物ではないとわかったからだ。


そんな物のために争う価値もないし、競うような物でもないと言う知識が、世間に浸透している。


「……それでいいんじゃないかな?規定だの説明しだしたらキリがないし、話がややこしくなるだけだし?」


そんなこと知ってか知らずか(おそらく知ってるだろう)、他人事だと思って適当に言ってくる怪生物。


こいついつか痛い目に遭わしてやる……。



「あっそ……」


いいだろう‼︎


本当にその通り言ってやる



そして、「えっ⁉︎魔法……少女?天下一?よくわかりませんが、いいですよ?(困惑)要はお友達になりましょうってことですよね⁉︎(苦笑い)」


とか言われたら、俺は頭がおかしくない、頭のおかしなヤツに言わされてるだけだ、と責任全部押し付けてやる‼︎



ニヤニヤ、



「ああ、それと、スポンサーになってくれた人にも優勝賞品は同じ物が貰えるから、そこは伝えといてね」


「ああ、はい……」


たまにはまともなこと言うじゃない……



「さあ、スパムも食べ終わったし、出発だ」


…………え?


俺、まだ何も食べてない……


それと、


「お前、ついてくる気か?」


いらんいらん、鬱陶しい



「キミ、昨日の失態を忘れたのかい?おなじことを繰り返さないためにも、今日はボクも行くことにした」


……はい。


何も言い返せない。


…………


……………



「………5分待ってください。すぐ準備しますので」


「早くしてね?今は時間が少しでも惜しいんだから」


「……はい」



静かな殺意を胸に、俺はささやかな朝食(サバ缶)を食べて、昨日のあの子に借りた金を返すため、そしてスポンサーになってもらうため、再びあの住宅街へと向かうのだった。

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