自宅

「あ〜……しんど」



3時間。


あの場所から、3時間かかった。


橘さんに近くの大通りまで送ってもらい、タクシーを捕まえ、


財布がないことに気付いた橘さんにお金を借してもらい、


さらに近くの駅から電車で2時間半、


ようやく最寄りの駅まで帰ってこれた。


家まで付き合うと言ってくれた橘さんだが、流石に2時間も3時間も未成年の女の子を連れ歩くわけにも行かないし、時刻的にも良くない時間になってきていたし、タクシーに乗るところでお別れした。



心配からか、バッグから財布を取り出す際、手をプルプル震わせて挙動不審にめちゃくちゃあわあわする橘さんをあーだこーだと宥めるのが一番大変だったと思う。


最終的に、帰ったら連絡すると、連絡先を交換し、借りたお金を必ず返しに行くと住所を教えてもらい、なんとか納得してもらった。


聞いたことのある最寄りの駅名を聞いて電車を降り、駅を出る。


見覚えのある景色を進み、しばらく歩くと見えて来る、愛しの我が家……は無いので、


現在俺が住んでいる、地域の失業保証制度に頼って(対象は仕事を失い、住む場所がなくった人)6か月分の家賃をもらい、なんとか住まわせてもらっている、アパートに無事帰ってこられた。


生活に必要な最低限の設備と、人一人が普通に住める程度の広さ、適度な清潔感がある、普通に住むならちょうどいいアパートだ。


電車の中でも寝てしまったが、家が近づくごとに安心感が出てきて、ふと睡魔に襲われる。


気を抜くとこの場で倒れて寝てしまいそうだ。


なんとかこらえてアパートに到着、自室の前に立つ。


……鍵なんて持ってないが、そんなことも考えられないくらい疲れていた。


朦朧とする意識の中、ドアノブに手をかける。


ガチャッ、


当たり前のように開くドアに何の不信感も抱かない。


「ただいま〜……」


そして返って来るはずのない独り言を呟く。


今はとにかく寝たい。


今日は一日とにかく疲れた。


もう何も考えず、1秒でも早く横になりたい。


そう思って、今の家で一番居心地のいい位置を頭に、そこへ行くことだけに残された体力全てを使う。



あとは数歩歩き、ふすまを開けるとお気に入りのクッションがある。


そこへダイブしたらそのまま朝までグッスリしてやる。


「おかえり、待ってたよ‼︎」


……と思っていたのだが、


そんな幻想ははかなく消え去った。



玄関には、主人の帰りを待っていたペットの如く、チョンと座り込んだ怪生物が、こちらを見上げていたからだ。


「……コロス」


瞬間、


全身が覚醒した。

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