契約

「いきなり物騒だな君は」


人のうちに勝手に上がり込んで家主を出迎えてくるようなやつに物騒呼ばわりされた。


昼間は怪しい勧誘をしてきて、半強制的に怪しい薬物を打たせてきたやつが。だ。


「お前のせいで俺が一日どんな目にあったと思う?」


いまだにグワングワン頭痛がするくらい脳へのダメージを負わされ、知らない土地に放り出され、年下の未成年の女の子に借りを作らされ、3時間も移動させられ、大変な思いをして帰らされた。


これを怒るなと言う方が無理と言うものだろう。


「いやいや、礼は無用だよ?そうじゃなくて、無事に彼女に会えたんだよね?よかったじゃないか、無事に契約も済ませてきたのかな?」


「……は?契約?あの薬物でおわりじゃないのか?」


なんだ?


怪生物と話が妙に噛み合わない。


彼女?とは、あの子、橘さんのことか?

しかし、

あんな中学生の子供に契約も何もないだろうに、


あの見るからに真面目で、優しい子がこの怪生物のお仲間とか考えられない。



「そうだよ?キミはもう僕と契約して魔法少女になったんだ、でもこれはあくまで第一段階、この後の目的、『最強魔法少女決定戦』へ出場するなら、キミを支援してくれるスポンサーについてもらわないといけない」


それとこれとは別さ‼︎とか腹立つ言い方をしてくる怪生物。


「スポンサー?」


野球やサッカーなど、スポーツの選手につくあれか?



「そう、大会の出場条件に『出場者は、最低資産10億円以上の資産家にスポンサーになってもらう』というのがあるんだ」


なんでも、色々裏で動く時、国のお偉いさんや重要人物たちと繋がりがある方が、色々話が早いらしい。

もし無いとしても、繋がりを作る場として、最強魔法少女決定戦はいい場所なようだ。



「だからキミはあそこへ行って来たんじゃないのかい?」


やれやれと残念そうに首を振る怪生物。


一々こちらをイライラさせないと気が済まないのか?コイツは


「特に彼女はすごいよ?総資産30億円越え、彼女についてもらえれば最高さ‼︎そう思って待ってたんだけど……」



ガックリ肩を落とす怪生物。


「そんなん知るか‼︎そういうことは最初に説明してくれ‼︎」


あんな、何の説明もないまま、意識もないままにあんなところへ行っていて、たまたま居合わせた人がそんな重要人物とか、誰が予想できるか?


「……?最初に説明したはずだけど?」


何を変なことを、とでもいいたげに首を傾げる怪生物。


いやいや、


「注射してからの記憶がないんだが?もし俺の記憶が飛んでるんなら、ヤバイものなんじゃないのか?アレ」


記憶の欠損、意識の混濁、幻覚幻聴、全部何かしら異常が起きた時の症状だ。


「……いや、あれはただの体を魔法に慣らす薬さ、身体には何の影響もないはず……いや、キミは男だからもしかしたら予期せぬ副作用があったのかも?」


「そこはちゃんと調べとけよ⁉︎」


薬物法違反もいいところだ‼︎


「まあ今考えても仕方ない、明日、改めて彼女の元を訪れるといい、そして今度こそスポンサー契約を勝ち取ってくるんだ‼︎」


「……わかった」


彼女にはお金も借りてるし、今日のことを改めて礼もしたい。


明日行こうと思っていたにはいたのだが、そんな不純な動機を持って行くのは少し気がひける。


「大丈夫さ‼︎きっといい返事がもらえるよ‼︎」


「だといいが……」


……全く、人の気も知らないで好き勝手に言うやがる。



「ところで話は変わるけど」


怪生物は、スタスタと歩いてリビングのテーブルに乗り


「何か食べ物はないかい?侵入はできても料理はてんでダメで、よければ何か用意して欲しいのだけど」


図々しくも餌を要求してきた。



「……わかった」


全く、


こっちは今すぐにでも倒れ込みたいのに、容赦のない。


「……ツナとサバどっちがいい?」


「……スパムがいい」


…………


…………


……………贅沢な。





こうして、


俺の魔法少女生活が始まったのだった。


「ちなみに、いつまでいる気なんだ?」

「ずっとだけど?」


…………。


…………。

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