水の泡

「信じられない……」


「ごめんて」



ごめんで許されることではない。


あの後結局、橘さんの知り合いという魔法少女と合流するため、あらかじめ決まっていた合流場所へやってきた。


そう、来た道を戻り、元いた場所、保健室へ戻ってきたのだ。


時間もないというし、大急ぎでだ。


せめて一旦家に帰って着替えさせてと頼んだが、聞き入れてはもらえなかった。


再びあの緊張感と戦いながら、なんとか戻って来たが、生きた心地がしなかったのは言うまでもない。


そしてそんな思いをしてまでなんとか戻ってきた保健室。


その扉を恐る恐る開くと………



「誰もいないじゃん‼︎」


誰もいなかった。


待ち合わせ時間を20分以上過ぎての到着。


橘さんが遅れる旨をトークで送ると『りょ』と返って来たが、


相手を待たせているのは事実、


どう申し開きをしたものかと色々考えていたのだが、



待っていたのは誰も待っていなかったという現実。


「おかしいな、待ってるって返信あったんだけど……」


流石に困った様子の橘さん。


「連絡取れないのか?」


仮に待てない理由ができたとして、先に帰るにしても、連絡できるんだから何かしら連絡来るだろうし、そうしない理由が分からない。


とはいえ現在この人一人隠れられるような隙間もない個室内に人影がないのも事実。


どうしたものかと悩む。



「とりあえず連絡してみるね」


そう言って、ラインのトーク画面を開いた橘さんは、『お待たせ、ついたけどいる?』と送る。


これでどういう理由にせよ、待ち合わせ場所からなんの連絡もなしに居なくなった相手からの返信は届くだろうと待つ。


ピロン、


「え…………?」


ラインの受信音がした。


この部屋の中で、




しかも割と近く………


「…………」


「…………………」



…………なんかいた。



足元にいた。


小さな少女が、さらに小さく身をかがめて、こちら足元から様子を伺うかのようにじっと見つめていた。

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