たまちゃん

いつからいたのか、全く気が付かなかった。

あと少しで蹴り飛ばすところだったし、不意に目があったせいで両者完全にフリーズしてしまった。



その少女は、暗い雰囲気を纏ったおかっぱの小さな子だった。


目の下には寝不足なのかクマがあり、妙な眼力がある。


制服は橘さんと同じものだが、そのサイズの小ささから、とても中学生には見えない。


座敷童子。


そんなイメージがふと頭に浮かんだ。


「うわぁびっくりした」


思わず声が漏れてしまった。


怖いと言うより気持ち悪くて静かにリアクションをしてしまった感じだ。



そんな俺の反応にも少女は微動だにせず、変わらずじっとこちらを見つめている。


「あったまちゃん」


近くを探していた橘さんも気がついたようで、この座敷童子をたまちゃんと呼び、こちらへ来た。


「…………」


一瞬視線だけを橘さんに向けたたまちゃんだったが、すぐにこちらへ視線を戻した。


よほど警戒されているらしい。


そんな警戒されるような格好じゃ………いや、何も考えるまい。


「ごめんね〜おまたせ〜」


まるで飼い猫に話しかけるみたいに距離を縮めていく橘さん。


「別に、そんなに待ってないです」


そしてなぜか俺をガン見したまま返事をするたまちゃん。



「そっか、ならよかった。で、本題なんだけど……」


申し訳なさなど微塵も感じさせない声でただ淡々と答えた橘さんは、無理矢理話を終わらせて本題を持ち出した。


「たまちゃんって魔法少女なんでしょ?どんな魔法使えるの?」


………おそらくたまちゃんは結構待ったと思う。


それでもこちらに気を遣って待ってないと言ってくれているのだ。


それを知ってか知らずか(絶対分かっている)、知らないないふりして踏み倒してなかったことにした辺り、すごいスルースキルだ。


「私の魔法は……」


若干何かいいたそうにしたたまちゃんだったが、無駄だと悟ったようで、橘さんがした質問への返答を口にする。


「私の魔法は、影を薄くする魔法です……」


……………影を薄くする魔法?


「へぇ〜」


目を輝かせる橘さん。


このリアクションは何よからぬ事を考えている時のものだ。


彼女のよからぬことのせいで散々な目にあった俺からしたら深く考えたくはない。


「私は自分の気配を消せます……」


そんな橘さんを前にしても。たまちゃんはこちらをガン見したまま眉ひとつ動かさずに答えた。



「なるほど、つまりここへ入ってきてすぐ見つけられなかったのはたまちゃんの魔法ってこと?」


グイグイ距離を縮めていく橘さん。


「はい、すみません、見つけにくかったですね、すみません……面倒をおかけして……」


こちらをガン見しながら淡々と謝るたまちゃん、全然申し訳なさそうに見えない。


「それはいいんだけど、なんでそんなことしたの?」


たしかに疑問に思うところではある。


本人も言う通り、ただ時間を無駄にするだけの意味のない行為だ。


仮に遅れた俺たちへの当て付けなら、素直に帰った方がよっぽど嫌がらせになる。



「私の魔法……オンオフできないのです」


………………


…………………


何という、不憫な……


「そっか、それで普段から同じ教室にいるのに誰もたまちゃんに気がつかないのか〜」


………普段からみんなからはみごにされているのかたまちゃん。


「はい、基本こちらから大きな音などで周囲の注意を引かないことには見つかることはないので、みなさんにはいつもご迷惑をおかけします」


棒読みで全然申し訳なささを感じない。


「迷惑なんて何もないよ、私もたまにしかたまちゃん捕捉できないし、いつもどこに行ったんだろ〜って思ってたくらいだから」


魔法少女とわかっていたのに見つけられないのか……

それはそれですごい力だと思うが、団体行動前提の学生生活には支障が出まくりだろう。


「いえ、実際いないこと多いです、どうせいてもいなくても誰にも気づかれないので、授業中抜け出して近所のコンビニ行って新作のお菓子を買い食いしたり、野良猫の集会所へ行って猫と戯れたりしてます、後でいたかと聞かれたらいたと言ったら出席扱いになりますので」


………思ったより影薄ライフを満喫してらっしゃった。


「何その裏山、その魔法他人には移せないの?」


さては自分も抜け出して好き勝手する気だな


「そんなこと出来たらもう学校で制服着る必要なくなるじゃない‼︎」


……ブレないなこの裸族。


「無理ですね、基本この魔法制御とかないので」


オートで永続的に発動し続ける魔法か、そんなのもあるんだ。


「……ところで、二人はどうやって知り合ったんだ?」


たまちゃんとやらの話を聞く限り、たまちゃん側から接触を試みない限りは二人に接点はなさそうだがと単純に疑問に思ったことを聞いてみる。



「私達が知り合ったきっかけ……」


遠い目をして何かを思い出している様子の橘さん。


「それはちょうど今日のように晴れた日のお昼休みのこと……」


………なんか始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る