何か大事なことを忘れている……

「………そういえば」


「………」


「………ねぇ、聞こえてる?」



「……………」


「ちょっと!?」



「ん?何だ?」


もう一人の魔法少女と会うことになってからしばらくの間、橘さんは何を思ってか黙っていた。


こちらも周囲の警戒に神経を張り巡らせたかったから、ちょうどいいやと無視して全神経を周囲の気配を感じることに回していたが、いつのまにか話しかけられていたようだ。


全く気がつかなかった。


しかし、ここまで約30分、きっちりかけたかいがあり、誰にもみつかることなくなんとか橘さん宅まで帰ってこられた。


あと100メートルほど、走れば10秒でたどり着ける距離だ。


安心感に気が抜けそうになるが、まだダメだと気を引き締める。


玄関をくぐるまでが野外露出プレイだとは誰かの言葉。

それに習って周囲の警戒を怠らない。


いやプレイではないのだが、今の俺の状況はただの野外露出どころではない。


女子用スクール水着に身を包み、物陰から物陰へと挙動不審にこそこそ移動する、どこへ出しても恥ずかしくない、完全なる不審者だ。


下手したら橘さんのことをストーキングするストーカーにも見えるかもしれない。


こうなったのは8割型橘さんのせいな気がするが、この姿でなんと言おうと俺が不審者と思われるだろう。



あとこの百メートルを無事に通過できることを祈っている中、そんなこと気にかけた様子もない橘さんは、


「いつ言おうか悩んでたんだけど……」


何やら言いにくそうに言葉を詰まらせながら話しかけてくる。


どうやらその言おうか悩んでいたことが、ここしばらく黙っていた原因らしい。


「何だ?今じゃないといけないのか?」


無事に橘さん宅の玄関を潜ってからではダメなのかと聞いてみる。


だって落ち着かないし、あと百メートルくらい我慢して欲しいのだが、


「ダメ、今すぐじゃないと」


どうやら何かしら事情があるようで譲ってくれない。



「……なんだ?手早く済ましてくれよ?」


内心の焦りを隠せない。


だが、橘さんがここまで言うのだ、無視できず、足を止める。



「いや、もっと早く言えばよかったんだけど……」


意を決した様子の橘さんは、真剣な顔でまっすぐこちらを見据えて口を開く。


「待ち合わせ場所、学校の保健室なんだけど……」


……………


………………………は?


「………は?」

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