交渉
「………。」
「いや〜、汚い部屋で申し訳ない、粗茶ですが……」
「……いえいえ、お構いなく」
リビングまで2回崩落に巻き込まれた。
原因は着ている服が引っかかったから。
1回目はたまたまかと思ったが、2回目がすぐに来ると流石に理解した。
「………お兄さんいい体してるね❤︎」
頬を染めてそう言ってくるのは、昨日道の真ん中で倒れていた俺を真摯に助けてくれた女の子、橘春香さんだ。
今は汚部屋の主。ちなみに裸族だ。
「……ありがとう」
……まあ、俺も初めて上がる人の家の中で全裸になっている。人のことは言えない。
やはり家中を埋め尽くしているのはガラクタ、何に使うか想像もつかないような機械類が大量だ。
角や出っ張りが多く、服だとめちゃくちゃ引っかかるのだ。
だからと言って人の家で服を脱ぐのもアレかと思ったのだが、橘さんの「命には変えられないでしょ?」の一言で意は決した。
結果、身につけていたもの全てを脱ぎ去り、足の踏み場もない中なんとか進み、両脇に積まれたガラクタに触れないよう気をつけ、ようやくたどり着いたリビング、その真ん中に設置された四角い機械をテーブルに、正座で座って意地でも出すと言われたお茶を待つことになったのだ。
「あの、親御さんは?」
少し気になっていたことを問う。
流石に見知らぬ男が、全裸で娘の家にあがりこんでいたらショック死するのではと思った
からだ。
「?いるよ?ほら」
「は?」
橘さんの指先を見ると、そこには一体の人形が……
え?つまりアレが母さんとか父さんとか言うのか?怖い怖い怖い………
……と、思っていたのだが、
その先に顔を半分覗かせてこちらの状況を伺っている女の人がいた。
エプロンの端が見えているから最低限のガードはされている。
「………お邪魔しています」
挨拶すると、サッと顔を引っ込めてバタバタと走り去ってしまった
「ようこそ、だって、よかったね、お母さんに気に入られて」
「ああそう……」
「母さんああ見えて人見知りだから、滅多に人の前に姿を見せないんだけど、同族だと思って安心したのかな?」
「同……」
え?同族って、裸族のことか?でもエプロンしてたよな?あの人、
えっ?下も着てるよな?
「ところで、そろそろ何か身につけれる物が欲しいんだが……」
橘さんはTシャツ着てるし、母さんとやらも少なくともエプロンはしてたし、布面積一番少ないのもしかしなくても俺だった?
「ああ、じゃあ父さんのパンツあげる」
そう言って出てきたのはかなり際どいブーメラン。
「………あざマス」
ピッチピチだ。
……橘さんのお父さん、
いや、何も言うまい。
「ところで話があるからきたんでしょ?」
ニコッ
と微笑む橘さんの笑顔に少しドキッとしたのはナイショだ。
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