なんだろう、

すごく体が軽い。


空でも飛べそうな気分だ。


というか飛んでる。


地面がはるか下にあるし。


なぜ今まで気づかなかった?


背中に翼でも生えているのだろうか、落ちる気配が全然無い。


ものすごい安心感が全身を包んでいる。


こんなおかしなことに気がつかないのも、この物事を深く考えることができないくらいにフワフワした気分のせいだ。



時間が経つごとに、なんとなく今の俺が置かれている状況が理解できた。


そうか、


俺は、あの怪生物と契約して魔法少女になったんだ。


だからこんな、ありえないことが起きているのか?


まるで鳥にでもなったかのように、空を飛ぶ。


これが魔法少女になるということか、


ということは、空を飛ぶことが、俺が魔法少女になったことで使えるようになった魔法なのか?



……そんなことはなかった。


ここまで包んでいた安心感。浮遊感。


これらがだんだんと薄れてきたのだ。


こっちの意思に関係なく。



全くこの状況を制御できていないようだ。


しばらく飛んで移動していたようだが、目的地に着いたようで、みるみる下降していく。



近づいてくる地面。猛スピードで迫ってくる。



え?ぶつかる?


ぶつかるぶつかる怖い怖い怖い怖い怖い‼︎‼︎



……止まらない。


「イィィィィィィィィィィィィィヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎」



叫んだところで止まるはずもない。


が、叫ばずにはいられない。


遊園地でジェットコースターに乗っても叫んだことなどなかったのに、むしろ叫ぶやつを馬鹿にしたりしていたのに、今なら彼らの気持ちがよくわかる。



……人は真の恐怖を目の当たりにすると、なりふり構わず本能のままに行動を起こしてしまうらしい。


なんて考えているうちに地面が近付いてまいりました。


これが走馬灯というやつでしょうか?


なんだかとても穏やかな気持ちになって、それまで考えたこともなかった過去の出来事が次々と蘇ってきた。


今思うと、こんなことにならなければ良い人生だったと思います。


決して裕福とはいえない家庭に生まれましたが、愛に恵まれ、大学へも進学させていただき、頑張ってためた貯金で車も買って、これから両親を乗せてドライブにでもなんて思っていたりしました。


こんなこと、魔法少女なんかに関わらなければ………


フッ、


思わず目を閉じてしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る