魔法少女の始め方
ベームズ
最強魔法少女決定戦
ワァァァァァ‼︎
場内全体が震えるほどの大きな歓声が響き、今にも割れそうな空気の振動が伝わってくる。
彼らの歓声は、ある一点に向けられている。
それは、広い場内においてたった一点、半径10メートルの丸い土のフィールド。
数千人を収容できるスタジアムにおいて、あまりに小さいフィールドだ。
そのフィールドをより目立たせるためか、観客席は暗がりになっており、逆に、数百という数の照明が、一点に集中して眩しいくらいに照らしている。
光の中に二つの影が入ってきた。
どちらも鍛え抜かれた肉体を惜しげもなく披露し、最低限の布以外一切を身につけていない。
……ことはない。
片方はそうなのだが、もう一方は見るからに格闘技は経験ないような細身の体つき、そして覇気のなさだ。
そんな両者はゆっくりと歩いて互いの距離を縮めていく。
『方や、四度目出場‼︎大会上位常連‼︎ギガノマキナァァァァ‼︎身長220cm、体重200キロ‼︎出場者屈指のヘヴィ級だぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』
場内に響く男の声。
会場を盛り上げるための実況の男だ。
場内に設置されている実況席から試合の経過を見て、マイクを通して喋っているのだ。
今は両出場者入場と、その紹介中で、実況の男が声高らかに片方の出場者の紹介を終えると、観客の歓声が上がり、さらに会場が震える。
『対しますは〜、今大会が初出場‼︎なんと男性です‼︎身長170cm、体重60キロ‼︎柚木ィィィィィ〜雄二郎ォォォォォォォ‼︎なんとフルネーム本名だそうです‼︎』
ワァァァァァァァァ……?
「……お、男?」
「いいのか……?」
観客の歓声の中に響めきが混ざる。
当然だ。
――――ここはとある魔法少女の結界内。
そして今行われている大会こそ、世界中から腕利きの魔法少女が集まり、世界最強の魔法少女を決める大会なのだ。
魔法少女とついてるのに男が出てくれば戸惑うのは当たり前というわけだ。
『今大会でちょうど10度目になります、最強魔法少女決定戦ですが、男性の出場は初です‼︎』
オォォ……当たり前では?
実況がなんとか頑張るが、場内は完全に一体感がなくなっている。
このままでは試合が始まる前に冷めてしまいそうだ。
『……え〜、一応大会規定を見直しましたが確かに男性の出場を禁じるとは記載されていません、主催者からもOKでました‼︎ただし‼︎命の保証はありませんだそうですっ‼︎つまりは最強魔法少女決定戦に命知らずな男が出てきたぞ‼︎何が起こるか見ものだァ‼︎』
ウォォォォォォォォォォォォ‼︎
実況の無理矢理のテンションに観客の迷いも消え、無茶苦茶に盛り上がり出した。
「いいぞぉ‼︎」
「死ねぇぇ‼︎」
「せいぜい頑張れ〜‼︎」
この大会は正式な試合ではあるが、表だって行われることはない。
一般的な格闘技の大会とは違うからだ。
スポーツとも違う、
ルールなし、禁じ手なし、レフェリーなし、降参なし、入場前の簡単なボディチェックで見つからなければ武器すらの使用も許されるいわばなんでもありの裏格闘技。
最終的に勝てばいいとうわけだ。
むしろ、大会規定には『相手が戦闘不能になるまで殺し合え』とあるくらい。
とはいえ、流石に銃刀法やら殺人は罪に問われるのでは?
……否。
ここではあらゆる罪が許される。
なぜか、
観客も裏社会の要人ばかりだからだ。
暴力団の頭、マフィアのボス、政財界の重鎮なんかもいる。
どれもその道の人間なら知らぬ者のいない大物ばかり、そんな彼らなら、情報操作など簡単なこと、
彼らは魔法少女という超常の存在が繰り出す異次元のバトルを楽しみに来ている。
そんなバトルに制限はいらないとみんながみんな、あらゆる援助を主催者に約束しているのだとか、
そんなわけで裏でいくらでも操作され、試合中に出場者に起きたあらゆる事象はなかったことにされる。
おかげで、出場者は後先を考えず、全力を出すことができるのだ。
そんな大会に、命知らずの生き急ぎ野郎が出てくれば愉快なのは間違いない。
いつも通りの最高もいいが、たまには変わり種があってもいいかとむしろ盛り上がり始めた。
『会場も盛り上がってきたー‼︎では、第十回、最強魔法少女決定戦、第一回戦、ギガノマキナvs柚木雄二郎開戦です‼︎』
カーン‼︎
試合開始のゴングが鳴った。
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