面接(2回目)

『…………』

「…………」



まただ。




『…………』

「…………」


また、あの埃っぽい狭い個室だ。


猛スピードで迫ってくる地面に我慢できず、反射的に目を閉じた次の瞬間、気がついたらここへ来ていた。


前回と同じ展開、同じ状況、また同じようなことを繰り返すのか?


前回と違うところはと言うと、


今回は、面接官さんが一人ということくらいだ。


前回真ん中に座っていたメガネだ。


『…………』


「…………」


何も言ってこない。


前はここへくるなりすぐに訳のわからないことを言ってきたのに、 

喋ったとはまた違うというか、口が動くと表示されるテロップが出ないと言うか、


『……』はテロップで出てるし、『……』というセリフなのか?


『……あなたは』


やっと喋ってきた。

というか口が動いてテロップが表示された。


『あなたは魔法についてどこまで知っていますか?』


無表情でそんな質問を投げかけてきた。



……とはいえ、



知ってるも何も、今日あの怪生物に何か教えてもらった記憶がないんだが?

魔法も使ってないし、使い方も教えてもらってないし、そもそも本当に魔法少女になれているのかすら疑問なのだ。


知識も経験も全く無い。


となると、今持ち合わせている知識といえば、一般的に流れている知識くらいだが、それも何の根拠もない噂のようなものばかり、どこまで信じていいのやら、


つまりは、何も知らないのと同じだ。


「魔法とは、この地上にあふれる魔力を使って起こせる奇跡です‼︎」


………。


思ってもいないことを勝手にペラペラと喋り出す自分の口。


前回の時から違和感はあった。


そして今回でその違和感に気がついた。



そう、これは夢なのだ。


夢とは、自分の中に眠る記憶が、眠っている間に無意識下で再生されているようなものである。


意識してみようとしても見られず、記憶なんて曖昧なモノで、あることないこと勝手に書き換えたり継ぎ足したり、ぐちゃぐちゃになっている。


実際、こんな記憶俺には一切ないし、せいぜい想像したことを、まるで過去に起きたことのように記憶してしまっていた、といったところだろう。


つまりはほとんど作り話、勝手に流れる映像程度で間に受けるようなものではない。


ならばあとは気楽に成り行きを見守るのみだ。


『そう、魔力とは世界のエネルギー、多すぎても少なすぎてもいけません、そこで、その調和を保つために選ばれるのが魔法少女です』



やっぱり、

出てくる話の内容も、噂に聞いていたのと同じものばかりだ。


やはり俺の記憶の中にある知識の範疇を超えることないだろう。


『この世界は魔力にあふれてはいますが、性質上、その魔力を使う機能がありません。多少なら放っておいてもいいのですが、全く消費がなく、溜まる一方というのも問題です』


やはり、噂の通り、魔力は多くなりすぎると良くないらしい。


ちなみに、このテロップ、2行ごとに表記されている。

早送りも一時停止もない。


つまり、地続きの話だと、ものすごいスピードで更新され、ゆっくり読む間もなく次々流れている。

もうちょっとゆっくりしてくれと内心焦りながら読んでいる。


……話は戻って、


魔力が多くなりすぎると害が出るとかいう話だったが、実際のところ、どういう害があるかはいまいちわからないままになった。


今テロップのスピードの話をしている間に流れてしまった。


まあそのうちあの怪生物にでも聞いてみるとしよう。



『そこで、我々は一部の人間と契約して、世界を管理する力、魔力を使う機能を与えることにしました』


それが魔法少女の成り立ちという話だった。



『これまでの検証の結果、約百万人の魔法少女がいれば、ちょうど良い魔力の消費量となる計算です』


百万人が多いのか少ないのかはいまいちパッとしないが、世界中にそんなに魔法少女がいるとは、驚きだ。


『そして今回、あなたも新たな魔法少女に選ばれた訳ですが……』


なんだ?


なぜ、そこで一拍おくんだ?

まさか今更男を魔法少女と呼ぶのはおかしいとでも言う気か?


いいぞ?言ってみろ?


『魔力には性質があります。そして、人の体にも、魔法とは、自分に合った魔力を使えるようにして初めて使うことができるのです』



…………。


なるほど、



「魔力には種類があって、魔法少女の体との相性があって、うまくあうものが魔法として使うことができる力になるというわけですね‼︎」


なぜか思ってもいないことを口走り、メガネの話についていく俺の口。


オタクか?


俺は魔法少女オタクだったのか?


やたら詳しくペラペラと、まるで息をするように出てくる魔法少女話。




『そう、それ次第であなたが使うことのできる魔法が決まるのです』


さっきから手元の資料を何度見ている面接官さん。

どうやらそこに俺の魔法適正云々が記されているのだろう。


「……力の強い弱いはありますか?」


それは重要だと思う。


仮に同じ力を持った者が複数いて、みんな同じ強さなのか、絶望的な差がすでにある状況なのか、それによってはこれから最強の魔法少女を目指すものにとって大きく話が違ってくる。


『あります。同じ性質に適応しても、適応率によっては強くもなりますし、弱くもなります』


……ふむ。


「その差は、仮に筋トレ的なトレーニングによって埋められますか?」


『不可能です。個体によって引き出せる力の最大値は決まっていますし、創意工夫によって多少の差は埋めることはできるでしょうが、大きく開いた差はどう努力したところで埋まりません』


「……あっそ」


『とはいえもともと魔法には疎い世界。大半は適応率などそう高くはなりませんせいぜいがどんぐりの背比べ、つまり先ほど仰ったトレーニングや創意工夫によって埋められる差です』


「……ちなみにどの程度の力でしょうか?」


街の魔法少女を見る限りでは、どれもあってもなくても大して生活に大きく影響はなさそうな可愛らしいものばかり、つまりはみんなそんな程度の力しかないと思っていいのだろうか?


まさかとは思うが、これから相手をしなければならないのがどいつも天変地異みたいなのばかりだったりしないだろうか?


よくある剣と魔法の物語だと、それこそ平然と地形を変えるような表現が出てきて、そんなフィクションで楽しんでいたものがいざ真正面から戦って勝てと言われて勝てるとはとても思えない。


『安心して下さい。皆、せいぜいが手品程度、良くても現実をねじ曲げるほどの力にはなりません』


「ほっ……よかった」


ほんとによかった。


はたして自分にどんな力があるかはまだ分からないが、それでもそんな架空の怪物みたいなやつらとは戦いたくない。


……いや、もしかしたら自分がとんでもないチートの力に適正があって無双するみたいな期待はしていない。


……決してしてない。


『では、あなたの適正、つまりはあなたが使うことができる魔法ですが……』


キタ‼︎


ついにこの時がキタ‼︎


俺の記憶よ、せめて魔法について何の説明もされなかった、というか、記憶がなくなっているところの一番大事そうな部分くらいはきっちり思い出してくれと願う。



でないとあの憎たらしい怪生物に「すみません、魔法について説明していただいたとは思いますが、忘れました。もう一度一から教えていただけませんか、ほんとすんません」と言わなければならなくなる。


『あなたの魔法……は』

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