見知らぬ天井
「………ここは?」
気がつくと見知らぬ天井が視界いっぱいに広がっていた。
埃っぽくはなく、清潔感あふれる空気、消毒液や何かの薬品の匂いがする。
視線を横にすると、ベージュのカーテンが閉められており、花瓶には花が咲いている。
ここは病院かどこかのベッドの上であることが伺える。
混乱する頭を動かし、自分に起きたことを整理する。
俺はさっき校舎の屋上から落ちた。
迫るコンクリの地面に思わず目を閉じると、いつもの埃っぽい個室にいた。
そして謎の踊りを踊っていた五人の面接官さん達に混ざって俺も踊った。
ただひたすらに、無心になって踊った。
疲れて何も考えられなくなって、訳がわからなくなった頃、視界が真っ白になって意識が遠のき、目が覚めるとここにいた。
「………死んで、はない?」
確かなことはまだ生きているらしいこと。
そして、
「身体は……なんともないな」
上体を起こして体を確認する。
手足を動かし、首を回して見たが、五体満足、痛みもないし、治療したらしい箇所も見当たらない。
「………なんで?」
シュバッ‼︎
そこでカーテンが勢いよく開かれる。
「あっ、目が覚めたんだよかったよかった」
橘さんはホッと胸を撫で下ろして近くの丸椅子を持ってきて座る。
「何があった?俺は生きてるのか?」
「うん、びっくりしたよ、魔法は出ないし、ただ落ちたみたいな形になったから」
いやいやそんな上手くいく訳ないだろ、
とはいえない。
少なくとも、俺を思ってしたことだから。
「それより」
そこで橘さんの目の中に光が灯った。
「お兄さん自衛隊かなんか?」
「は?」
いやいや、違うけど?
「すごい着地してたよ?おかげであの高さから落ちて無傷だし?」
すごいすごいとものすごい勢いで迫ってくる。
寝起きには辛い温度差だ。
「すごい着地?」
……全く覚えがないし
「そうそう、こう、グイッとなってビョーンて……」
橘さんは席を立ち、実際にやって見せてくれた。
言葉で言われても意味わからんかったが、実際にみるとどうもスクワットのような動きでぴょんぴょん跳ねて着地していたらしい。
いわゆる5点着地というやつだ。
5点着地とは、高所から飛び降りる際、怪我をしないよう、衝撃を体の各部分に分散させる技だ。
つま先で着地をし、そこから体を丸め、地面に転がりながらすねの外側、お尻、背中、肩の順に着地し、衝撃を体中に分散させるのだ。
スタントや自衛隊でも使われたりするもので、たしかにそれならあの高さから落ちても無事だったことにも納得だ。
しかし、
「全く覚えがないし、そんなことやった事もないんだが?」
当然、素人がパッとやってできるようなものではない。
きちんと訓練を受けてようやくできるようなものだ。
これまでの人生で、訓練どころか、体育の授業すらまともに受けたことのない人間ができるわけがない。
「なぜそんなことができる?」
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