この記録をどこからスタートするか、まずそこが問題だろう。終わりがどうなるかももちろん分からないのだが。


五人全員が集まった最初の日を思い出してみる。

もう何年も前のような気がするが、ほんの一か月足らず前だ。


あのとき私は、教師を辞めたことを引きずっていて、どうにも陰鬱な気分で渋谷に向かっていた。


明大前の自宅から渋谷はあっという間だった。

夜の渋谷を歩き、スクランブル交差点を抜ける。

人はどこからともなく沸き続けているのに、誰も私のことを気にかけない。


自分という人間がここから消えても誰も何も感じないのかと思うと、急に自分が矮小な存在だと気付かされた感じがした。


メールが届いた。


『昨日電話ありがとー!

今日さママ出かけるんだ。パパ平気かチョイ怖いよね』


まだ三十歳前の私は、一般的な年齢層としては若者扱いだということは分かっている。

それでも渋谷の街に集まる若者達を見ると、恐ろしいほど疎外感を感じる。


しかしメールの送り主は、私を必要としてくれている若者だ。もう教師ではない私であっても助けになるというのなら、何かしてやりたかった。


『今日はちょっと出かけてる。

でも困ったらすぐ連絡するんだよ?

メールでも電話でもいいから』


メールを送ってから、なんとなくすぐ手が寂しくなって、またすぐに画面を見る。

そうそう数秒で返事が来るものではないと分かっていても、受信の知らせがない待ち受け画面に落胆する。

待ち受け画面に目を通したまま歩いていたら、向こうから来た若者とぶつかりそうになって、頭を下げた。

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