第七章「情報について」

第七章「情報について」1

入り口で祐二と再会し、再び工場に戻った。

入り口でも、廊下でも、誰にも会わなかった。退出は完了しているようだった。


途中、何か所かで祐二はカメラを設置した。

無線でパソコンに動画を配信できる防犯カメラで、電池稼働のために配線も不要という、私達の目的にはこれ以上ないぐらい合致するものだ。


祐二のカメラ設置以外は立ち止まることもなく、黙々と私達は通路を奥に戻った。

除染室を抜け、すでに無人となっている工場内に入ると、ごうごうと一部の機械が動き続けている音だけが聞こえた。


あのわずかな時間で、確かに工員達は全員外に出たのだ。場内放送を使ったことが効果的だったようだ。


無人の場内を戻り、管理室に再び私達は着いた。

いそいそと歩き回る敦がいた。

「首尾は?」


「俺は万事順調。ユキに袋も渡してきた」

「目撃はきちんとされたかい?」

「大丈夫。袋のやりとりまでバッチリ。監視カメラにも映ったと思うよ」


犯罪なのに目撃されることが必要だとは面白いものだが、これがのちに重要な一手になるのだ。川田淳子のフェイスブックが頻繁に更新されていることは調査済みだった。


「イソのカメラは?」

「やってきたよ。あとはパソコンでアプリ立ち上げるだけ」

「オーケー」


「敦のほうは?」

「俺も、済ませたよ。総務に内線して自己紹介した。それから若月警察署と、テレビ局にも電話してある。お客さんは多いほうがいいってね」


「ネットは?」

「これから。戻ってくるの待ってたんだ。せっかくだから記念に一緒にやろうじゃないか」

「いいね、気が利くね」


「あとは? 本当にすべて計画通り? 遅れとか、ちょっと違ったとか、何もないの?」

「やっぱりスノは心配性だなあ」

「敦のことだ、間違いはないとは思ってるけど…どうしてもね」

それに、私の中の敦神話は複雑に形を変えながら崩れつつあるところでもあった。


「まあでも僕もその気持ち分かるよ。いやーまさか、こうあっさりと占領しちゃうなんてなあって、不思議な感じだもの」

「でも、事実だよ。あとは最後までやり遂げるだけさ」

そう言って敦はノートパソコンを開けた。

「騒ぎは大きくなればなるほどいい。友善と警察を待ってたら俺達の情報源は集まりきらない。今から全国各地の有志特派員に呼びかけだ、ってね」

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