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これが、録画していた番組から打ち起こした流れだ。
私自身、録画を見てはじめて何が起きたのか分かったこともあった。
私達にとっても、これは予定どおりのことと予定外のことが入り乱れた瞬間だったのだ。
このときトラックの荷台から飛び出した二人は、言うまでもなく私と敦だ。
この時間、警察や報道の目は工場と中部国際空港に向いていたはずで、私達言うなれば主犯格の脱出サプライズは、その隙をついて行う計画通りのことだった。
この現金トラックに中継が向いたことは意外で、メディアの貪欲さにさすがといったところだが、結果としてはより劇的に脱出を演出してくれたことになった。
さて、予定していたことは、こうだ。
トラックから駄菓子の箱を下ろす、ハイエースに積み替える、ハイエースに入りきらない分は地面に積む、この一連の作業をやる中で、ハイエースに隠れていた深美が密かに加わり、私と敦はその代わりにトラックの荷台にそのままとどまり身を隠した。
そして私と敦はトラックの荷台に身を潜め、ひたすらじっとしながら、スマホのカーナビアプリで位置情報を追っていたのだ。
首都高を降りる頃には二人とも準備万端で、伊達メガネにカツラも被って、あとは飛び出すのを待つだけ、となっていた。
トラックが銀行前に到着したらしくエンジンが止まると、私と敦は荷台のドアに貼りついた。
ある程度ドアが開いたら、こちらから勢いよく押し開けて、まずドアを開けようとしている人間を驚かし無力化する。
あとはそのまま荷台から飛び降り、二人それぞれの行き先に一目散に向かう。それだけのシンプルなプランだった。
アイドリングストップではなくエンジンが完全に止まったらしいとなると、ドアに張り付いた私と敦は最期に言葉を交わした。
「ここから先は、お互い相手に構わずに。何があってもとにかく走るだけだ。俺は八重洲まで。スノは銀座線まで」
「分かってる。元気でな、敦」
「スノも、うまく逃げろよ。お前は手記を公開するんだから」
私が応えてうなずくと、ドアが開き始めた。
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