6
ドアが半分ほど開いたところで、私は右、敦は左のドアを内側から体ごとで力任せに押した。
たいした手応えもなくドアが勢いよく開き、さーっと白い光が入ってくる。
見えたアスファルトまでは一メートルあるかどうか。敦とともに思い切って飛び出した。
地面にしっかりと着地するまでの一瞬で、ずいぶん色々なものが見えた。
荷台のドアはすでに視界の後ろへ。トラックはほとんど予想通りの場所に停まったらしく、すぐに場所と向きの見当がついた。
右奥の歩道入ってすぐに、地下鉄銀座線の入り口がある。十メートルもあるかどうか。
すでに敦は左側に回り込もうとしているようだったが、その続きはもう見ていられなかった。
私は目指す入り口までとにかく走らなければならなかったのだ。
敦も私のことには構わないはずだ。
幸いというか予想通りというか、目の前は開けていた。
傍らに現金入れと思われるケースがいくつか置いてあったようだ。その近くにスーツ姿がちらほら。友善の人間だったのだろうか。
警官の姿もちらりと見えたが、主に交通整理に当たっていたようで、私のほうに向かってくることはなかった。
しかしそのとき、予想していなかったことも起きた。
煙だ。
地面に下りて駆け出すときに、視界の隅に煙が勢いよく噴き上がるのが見えた。
「煙だ!」
誰かが怒鳴っているのも聞こえた。
よく分からないが、現場の混乱に拍車がかかるなら儲けものだ。このときの私はそのぐらいに考えていた。
こうしてみると長く思えるが、実際はおそらくほんの数十秒だったのだろう。
私は煙にも構わず、一直線に歩道から地下鉄銀座線の入り口へと飛び込んだ。
通勤客が上がってくる階段を、私は逆に駆け下りる。
階段の入り口と下りきったところに、監視カメラがあることは知っていたが、気に留めなかった。
このとき私はカツラを被り伊達メガネもかけていた。それに、階段を駆け下りることもあって、ずっとうつむいていた。
階段を下りきると地下通路になっていて、何も知らない通勤客が改札口から続々と吐き出されていた。
私はその中に紛れながら、改札をIC乗車券でピッと通過して逆にホームに向かった。
さらに階段を下りて、人がごったがえすホームに出ると、ちょうど渋谷行き電車が入ってくるところだった。
あとは詳しく書くことは省くが、何事もなかったように通勤客として振る舞いながら、途中の駅で再び改札を出た。
そしてカツラとメガネをトイレで取ると、駅を出て歩き始めた。
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