⑥小さな巫女めがねっ娘と薄型ボクっ娘の出会い

 週明けの月曜日。


 たすくは朝の二人きりの時間帯に、日曜に考えてきた多菜美たなみと引き合わせる算段を真萌へと告げる。


「それは構わんのじゃが……来栖辺君には、そばに、居てほしい……」


 同意はしてくれたが、やはり不安はあるらしい。


「勿論、委員長と副委員長として、俺と近沢さんも立ち会うから、安心してくれ」


 不安を払拭させるように、翼は請け負う。

 そこで、他のクラスメートが登校してきたので恒例の挨拶へと移る。


「別に、近沢さんはいらんのじゃがの……」


 真萌の言葉は、聞き逃しつつ。


 その後、登校してきた透子とうこにも段取りを説明し、授業の合間にF組の教室へ赴いて多菜美へも伝える。こういった調整は得意な翼であった。


 そうして迎えた昼休み。

 一年B組の教室へ多菜美がやってきた。


 約束通り委員長副委員長立ち会いの下、真萌と引き合わせる。

 昼休みを選んだのは、無難に昼ご飯を一緒に食べるところから始めさせるためである。


「うわ! やっぱりボクよりちっちゃい!」


 立ち上がって出迎えた真萌と並んだ多菜美は嬉しそうに言う。

 小柄な多菜美より真萌はまだ小さい。


「そ、そうじゃの、われより、小さい同年代とは、あったことが、ない、ぞ?」


 緊張をしつつも、どうにか応じる真萌。

 そうして、窓際最前列の自分の席へと腰を下ろす。


「ねぇねぇ、まほっちって呼んでいい? ボクのことは多菜美ちゃんでいいからさぁ」


 言いながら、多菜美は空いていた真萌の後ろの席へ。


「べ、別に、構わんぞ」


 ぎこちないが、それなりに対応しながら、真萌は多菜美と一緒に弁当を食べるため、自分の机を後ろへ向ける。


「さぁて、後は、若い者同士で」


 二人が何とか会話するのを見届けて、芝居がかった口調で言いながらその場を後にしようとする透子。


「いや、同い年だろう?」


 思わず、ツッコんでしまう翼だが、


「うわぁ、翼君。そのツッコミは流石に引いちゃうなぁ。これはお見合いの場のオマージュの台詞なんだから、そこは汲んで欲しかったなぁ。ってこんな解説しちゃうのが寒いなぁ、あたし……」

「す、済まん」


 そんな他愛ない会話を交わしつつ、翼も透子と共に場を離れる。


 多菜美が話掛けて、真萌がたどたどしく答える、という感じではあるが、どうにか会話は途切れていないようだ。二人、弁当箱を出して食べ始める。


 それを見届けてから、翼も自分の弁当を食べるために、真萌の席から二つ座席を挟んだ教卓前最前列の自席へと戻る。


 翼は、いつも同じように弁当を持参しているみさきと教室で昼を取るのが常で、今日も同じ。翼の机をひっくり返して後ろの机に引っつけてスタンバイしていた岬は、律儀に翼が戻るのを待っていてくれた。


「お待たせ」

「なんか、面白いことしてるねぇ。翼」


 楽しそうに言いながら、食事に手をつけ始める。


「孤立しているクラスメートに友達を紹介とか、本当に委員長の中の委員長だなぁ」

「いや、これは多菜美ちゃんのお願いだからな。倉主さんがどうこうという話じゃない」

「ん? 多菜美ちゃん?」


 真萌の話よりも、多菜美の呼び方に食いつく岬。


「ああ、そう呼ぶように頼まれてな」

「あはは、やっぱり。そういうことだろうな。まぁ、そうでもなきゃ、翼が同級生にちゃんづけはないよなぁ」

「その通りだ。基本、さん君づけが一番無難だからな」

「ま、短いつき合いだけど、大分翼のキャラは掴めてきたよ」


 言って、弁当に入っていたハンバーグを箸で一口大に切って口へと運ぶ岬。

 翼も、自分の弁当から唐揚げを口に入れる。


 咀嚼し、飲み込んだところで、


「そういや、多菜美ちゃんか、放課後に学内をうろうろしててさ、重い荷物を運んでいる人を手伝ったりとか人助けをしてるってのは知ってるか?」

「いや、知らなかったが……そうか、そういうことだったのか」


 翼は岬へと多菜美を紹介することになった旧校舎での顛末を説明する。そういう活動をしていたからこそ、旧校舎に都合良く現れた、ということなのだろう。


「ボクっ娘で、薄型を誇りにしてて、か。いいキャラしてるよ」


 楽しそうに岬は言う。


「そんな彼女と、あの年寄り臭い口調の巫女の倉主が一緒に居る光景ってのは、中々に興味深いものだな」

「それは、同意だ」


 窓際の席を見れば、最初と同じく、多菜美が話掛けて真萌がたどたどしく応じているような感じだった。それでも、真萌が少しずつ慣れていっているのが翼には解った。


「おお、なんか保護者の顔をしてるぞ、翼」

「そうだな。そういう気分かもしれん」

「だな。二人とも、ちっちゃいし」


 翼はそういう意味で言ったのではなかったが、秘密にしている巫女魔法少女めがねっ娘に直結する真萌との親友関係を明示せずに説明するのは難しそうだったので、特に何も言わずにいた。


 和やかな雰囲気で昼休みは過ぎていった。



 翌日の昼休みも、同じようにやって来る多菜美。

 昨日よりは、少し余裕がありそうな真萌と共に楽しそうに食事をしている。


 翼は保護者の気分で見守りながら岬と共に昼食を取って見守っていた。


 と、真萌と多菜美が席を立ち、こちらへとやってくる。


「来栖辺君よ、今日、多菜美ちゃんと放課後、ファストフードに寄ってみることになったので、その、紹介してくれた委員長へ報告じゃ」

「まほっち、律儀だね! でも、ボクからもお礼。まほっちとは、仲良くなれそう。ちっちゃい友達が出来て、本当、嬉しいんだ。紹介してくれてありがとうね、たすくん!」


 やはりまだ緊張はあるようだが、多菜美がこの調子なら真萌も上手くやっていけそうだ。

 委員長として、親友として、素直に嬉しかった。


「う~ん、確かに、ちっちゃい同士だな……って、あ、背丈のことだよ!」


 一緒に食事をしていた岬が、並び立つ二人を見て、そんなことを言う。


「あはは、ボクは、胸のことでも怒らないよ。あ、でも、まほっちが気にするだろうから、やっぱり駄目だね」

「気をつけるよ」


 そう言いながらも、二人の胸元を見ている岬。

 釣られて、翼も見てしまう。


 多菜美は言うまでもないサイズ。少年と見まごう平面である。

 一方で、真萌は綺麗に着付けた巫女装束に覆われて、体型はよく解らない。


 ただ、和装は胸があると綺麗に着付けられないというから、そういうことなのだろう、とは思う。岬も同じようなことを考えているようで、やはり先ほどの言葉は胸のことだったのではないかと翼は疑うが、蒸し返すのはやめておいた。


 そんな視線に気づいたのか、


「不躾じゃぞ、栗林くりばやし君、来栖辺君」


 真萌が棘のある口調で、岬をにらんでたしなめる。


「ひっ……ご、御免、倉主さん……」


 恐縮して謝る岬と。


「つい、目が行ってしまった。申し訳ない」


 さらりと謝罪する翼。


「まぁ、よい。今後気をつけるのじゃぞ?」

「は、はい!」

「ああ」


 最後に若干機嫌を悪くしながらも、真萌と多菜美は再び元の窓際最前列の席へと戻っていった。


「おー怖……」


 二人が離れたところで、岬は己の体を抱くようにして口にする。

 冗談か本気かといえば、本気の比重が高そうな、そんな口調で。


「ん? 怖いか?」


 不思議そうに翼は問う。


「流石だな、翼。巫女という非日常的な姿なのもあるけど、あの視線と声で凄まれると萎縮してしまうよ。他にも同じように感じる奴は多いというか、その方が多数派だと思うぜ?」

「そういうものか?」


 今一実感が湧かない翼。

 ただ、真萌に目力があるのは事実だから、人によっては苦手かも知れない、とは思った。


 こうして真萌は、今日も多菜美と親睦を深めていた。

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