巫女魔法少女めがねっ娘 ぐらっしぃ∞まほ~俺が眼鏡で彼女がめがねっ娘で

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プロローグ

Trailer

 これは、魔法少女の物語では、決してない。

 これは、巫女の物語でもない。


 そう、これは。


 『めがねっ娘』の物語なのである。


 ☆


「今、この日本では物語の危機が訪れています。物語に対するこの国の風当たりはどんどん厳しくなっています。昔から何かあると時の権力者による規制が入り、物語を産み出す者達を圧迫してきた歴史はあります。その圧迫が新たな表現を産み出すなど、物語にとってプラスになることもありました。ですが、昨今の表現規制は行き過ぎです。人々の暮らしが変わり、扱える情報量が増えただけに、自分の気に入らない物語も目につくようになってしまった。嫌いなものは排除したくなるのが人の常。知ってしまったら存在自体を許せないという人が出てくるのも致し方ありません。更には、そういった人達がインターネットで簡単に合流してその論を共有し声高に叫び、終いにはその願望を権力によって叶えようと働きかけるような時代になっています」


「わたくしは、物語の存在意義を示したいのです。物語に影響を受けて悪事に手を染めた人よりも、物語によって救われた人の方がずっと多いのです。だからこそ、小説や漫画、ゲーム、映画など様々な媒体で『物語』は産み出され続けているのだと、改めて確認したい」


 物語の神の願いに応じ、少年はめがねっ娘の眼鏡となる。


 ☆


「めがね・あろ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 闘いの始まりは、朗々たる叫びと共に。


 夜のとばりの下りた神社。

 小さいながら立派な本殿を背に、天へと放たれたのは鏑矢かぶらや

 太い笛の音のような響きを引いて、月影清さやかなる空へと消える。


 放ったのは、悠然と残心を見せる異装の少女。

 巫女をイメージしたような、紅白を基調とした姿だった。


 白いノースリーブのベストの首元には紅いタイ。

 露出した肩と二の腕の先には、紅い長手袋。

 腰には白地に紅の縁取りのミニスカート。

 紅いロングブーツの中から伸びる白いオーバーニーソックス。

 紅い水引により纏められたツインテールと、目元を飾る眼鏡のフレームだけが、黒い。


 舞台でショーをするイリュージョニストのような、華のあるで立ち。

 いや、それはむしろ『魔法少女』と表現するのがしっくりくる姿だった。


 だが、彼女の本質は『魔法少女』


 暫時ざんじを経て少女の残心が解ける頃。

 矢の消えた空が、月光を掻き消すほどの輝きを放つ。


 きらめきが、降り注ぐ。


 それは、光の幕のように、本殿前の空間を囲んでいった。


 鳥居により俗世と隔てられた異界たる境内。

 その境内の一部を更に切り離す、光輝。

 言うなれば、異界の中に産み出された、更なる異界。


 その異界の名は。


「眼鏡時空、発生じゃ」


 したり顔で告げ、不敵に笑む少女。


 正面へと向き直ったレンズの奥の目力は、強い。


 視線の先には、闘いの相手が立つ。


「巫女魔法少女眼鏡っ娘 ぐらっしぃ∞まほ。いざ、参る!」


 時代がかった名乗り上げと共に、黒縁眼鏡を掛けた巫女魔法少女が。


 否。


 巫女であり魔法少女である黒縁眼鏡のめがねっ娘が。


 対峙するのは悩める少女で……


 ☆


 これは、物語の神に見初められた少年とめがねっ娘の物語。

 物語の有用性を示す物語。

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