⑥副委員長はグイグイいく

 そうして放課後、雑用を終えたたすく透子とうこと共にバスケ部のランニングのコースを回ってみようとしていた。


 嵩都たかつ高校の校舎は、少し変わった並びになっている。


 西側と南側に本校舎がL字型に配され、更にその南東端から北側に向かって西側の校舎の半分程度の長さの校舎が伸び、その北端が南側の校舎の半分ぐらいの長さで西へ延びている。上から見れば、大きなLに小さなLが逆さまに接した角張った渦のような形をしている。


 大きなLの方が本校舎で、小さなLの方が特別教室棟だった。

 大きなLの角の部分が校舎の玄関になる。


 特別教室棟の北側が校庭になっており、校庭の北東端に運動部の部室棟がある。また、特別教室棟と本校舎の間、渦の内側にあたる空間は中庭としてベンチなどが置かれている。


 中庭にグラウンドのスペースが取られた格好になっており、運動部は周回を大きくするため、校庭から本校舎の外側を大きく回ってランニングをするのが常で、バスケ部もそのコースを走っていることは、事前に確認している。


 取りあえず、玄関を出てコースに沿って歩いてみようとしたのだが、


「……おい、大丈夫か?」


 早々に玄関付近でうずくまる野々花を発見したのだった。どうやら、今日もランニングの途中で力尽きたらしい。


「だ、大丈夫……って、あれ? 昨日の?」

「一年B組の来栖辺くるすべ翼だ」


 そういえば、昨日名乗り損ねたのを思い出して、名乗る。


「それで、今日も昨日の繰り返しみたいだけど……」

「仕方ないんだ。あたしは、この身長を活かしてバスケで活躍したいから」

「いや、でも、無茶は駄目だろう? 正直、今のままだと体を壊……」

「頑張るから! 頑張れば、きっと出来るようになるから……」

「そうは言ってもな……」


 翼が何を言おうと、頑張る、やってみせるばかり。


「はいはい、正論は時に残酷よ、翼君?」


 水掛け論になってきた二人の会話に、透子が割り込んでくる。


「高瀬さん、覚えてる? 同じ中学で二年生のとき同じクラスだった近沢透子よ」

「……え? 近沢、さん」


 なぜか野々花の反応は鈍い。

 どうにも、目の前にいるのが知っている透子と違う、そんな様子だ。


「あ、そっか……しまった、あたし、中三でコンタクトに変えて眼鏡を外して本当の私デビューしたり髪型も合わせて変えたりしたから、中二の頃とは別人レベルで見た目変わってるんだった……」


 あっさり全てのネタばらしをする。眼鏡を外してとか、本当にしている人間がいるとは思わなかったが、そういう変身を遂げていたらしい。


「あ、あぁ、そういえば、近沢さんが、中三で大分印象変わったって、噂に、聞いてたな。それに、声は変わらないし、ね。久しぶりだね、近沢さん」


 息が整わず切れ切れながら、律儀に答える野々花。


「ま、そういうこと……って、話の腰を盛大に折っちゃってごめんね。あたしが聞きたいのは、なんでそんなにバスケにこだわるのか、よ。正直、運動苦手だったよね? 周りからその背丈を活かすように言われても軒並み運動部の勧誘を断ってたのに、どうして高校に入ってから急に自分から無理してまで始めたの?」

「そ、それは、やっぱり、持っているモノは、活かさないと、勿体ないかなって、思ったから……」

「本当にそれだけ? 中学のときから散々言われてたのに、高校でいきなり始めるのも、ちょっとおかしいかなって? 何か、切っ掛けがあるんじゃないかな?」


 透子は、誰にでもグイグイいくようだ。


「え、そ、それは……」


 もう一押しで何かを語りそうだったのだが、そこであの「ファイオー」が聞こえてくる。バスケ部の他の面子が追いついてきたのだろう。昨日と全く同じパターンだ。


「い、いか、なきゃ」


 また、ふらふらになりながら走り出す。


「あ、ちょ、ちょっと、待って!」


 だが、透子の静止など聞かず、前に進む。


「まぁ、仕方ないだろう。自分の意志で走り出したのを止めるわけにもいかないからな」

「それは、そうだけど……あのままじゃ、高瀬さん壊れちゃうよ?」

「だけど、なぁ」


 正直、翼はどうしていいのか全く解らなかった。

 本人が諦めるのを待つしかないが、相当意志が強そうだ。


「とりあえず、持つモノを活かさなきゃっていうのは、本当だとは思うよ? 中学時代、身長を要求されるスポーツしてる人達に、勿体ないとか分けてくれとか散々言われてたから。それが限界に達したってのはあるかもしれない。でも、それだけじゃなさそうなんだけどなぁ」

「まぁ、現状では打つ手はないな」

「確かにね。あの様子だと、無理矢理辞めさせるのも、酷だしね」

「とりあえず、まだ隠してそうな理由を探りに、また様子を見に来てみよう」

「うん、いつでもつき合うよ」


 にこやかにウィンクしながら透子は応じたのだった。

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